大魔王の画策
大魔王3部作の2作目です。これだけ残酷な表現アリを入れておきました。
「観念しろ!」
「く……くそっ!」
遥か北の地まで魔王を追い詰め、ついに勇者の剣が魔王の喉元を伺う。何千といた配下の魔物たちは全て葬られてしまったが、勇者側も次々と仲間を失い勇者ただ一人となっていた。
念願叶う瞬間に、剣を持つ手に力が入る……と、その時、勇者の頭にどのようにして王都へ帰りつくのか、帰還についての心配がよぎった。強力な魔王の力をそぐために全ての魔力を封じた結界の中にいるのだ。封印の宝玉を破壊され万策尽き、傷ついた高僧が命を賭して共倒れ覚悟で発した究極魔法だ。
横方向へはどれだけ歩いても、元の場所へ戻ってしまう迷宮型で、高さ方向でしか脱出の道はない。高さ2m迄有効の結界から、完全に体を飛び出さなければ、全ての魔法が使えないのだ。身長180の勇者だが、跳躍力は2mもあるわけない
「ついに魔王に引導を渡す時が来たようだな。だがこの結界の中であれば、止めを刺す事もない。だから協力しろ!」
「協力?」
「ああ……お前たちとの戦いで仲間を失い俺も傷ついた。不死のお前は平気かもしれないが、このままでは永くはない。結界から体を出して治癒魔法を施したいので、肩車してくれないか?嫌ならお前の体を頭と胴体と手と足それぞれに切り刻んで、結界の4隅に埋めてやる。如何に不死でも動けず不自由は嫌だろ?」
魔王の杖はすでに破壊され、丸腰の魔王に勇者の剣を防ぐ手立てはなかった。勇者は肩車から跳躍して帰還魔法を唱えるつもりだ。
「仕方がないな……だがその前に、俺様に外の空気を吸わせてくれ。結界の中は息苦しい。俺が魔力を使うと心配するのであれば、俺の喉にお前の剣を突き立てろ。かなり痛いし声が出せないが、不死の俺は死ぬことはない。それでも外の空気が吸えればうれしい。」
勇者の提案に、魔王が条件を付けて来た。
「いいだろう、但し俺はよつん這いで肩車はしない。それでもお前の頭は結界から出るだろ?」
いくら魔王に跳躍力があっても1.5mは飛べないから、それなら安心と了解した。
「ああ……それでいい」
契約成立で魔王の喉を貫くように剣を突き立て、勇者は魔王の台になってやった。
「悪いな……俺は不死の上に頭だけでも生きられるんだ。」
結界から首から上を出した魔王は、突き刺さった剣を両手でつかみ首を斬り落とし、耳が羽となって頭だけで飛んでいった。勇者の背に乗っていた胴体は、すぐにしなびて粉と化す。
結界の中に、勇者だけが取り残された。