表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/17

三章①

 中央府付属のファーストバスター、カット・ノブナリ=トライはもう何度目かになる山全体を揺らす激しい衝撃を肌で感じながら、肉食獣の牙と爪を詰め合わせたようなハルバートで目の前の空間を薙いだ。ノブナリの膂力とポールウエポン最大の武器とも言える遠心力を持ったその一撃に、間合いにあった全てのモノが原型を失って砕け散った。

 それは例えば、木で造られた鎧だとか、その中身だとか、だ。

 悲鳴と死体と流血を踏み潰しながら、ノブナリが堂々と肩で風を切って進む。白髪が目立ち始めた眉毛の下の瞳に焦りはなく、ここが戦場だと言う認識すらない。ただ、己が道を進むこと以外は些事とも言わんばかりに全てを蹴散らすその様は、正に百戦錬磨。

 また、ノブナリの後ろに控えるフロギストン石を取り付けた杖を持つ年老いた導術師と、クロスボウを持った若い射手も、その佇まいから選り抜かれた歴戦の兵だと想像するに易い鋭い眼光を備えていた。

 もっとも、フロギストンの明かりによって照らされた通路に影はない。誰かの血を吸ったブーツの跡が点々と続き、リベリオンの死体が所々に転がっている。三人が殺しただけで既に十八。見かけただけなら四十を数える。

 死体にはそれぞれ個性があり、急所を的確に貫くか、首や四肢を骨ごと真っ直ぐに切断してある死体は、恐らくアマミチの槍の餌食になった者。大抵、ナナセイが念を入れて燃やしているのか、口の回りを火傷している死体も多くみられる。それらは全て、この世を呪う様な恐ろしい表情をしている。

 勿論、アマミチ達の死体が跳びっきり酷いと言うわけでもない。セカンドバスター達がリベリオンを殲滅する為に選んだ武器はどれも必殺の物であり、中途半端に挽肉にされた男がのたうち廻った後や、矢を無理矢理引き抜いた傷口など直視に絶えず、導術によっての炭と化した頭蓋や腸の臭いがそれらを最悪に引き立てていた。

 阿鼻叫喚が終わった道を、ノブナリ達は油断なく進んでいく。アマミチとナナセイが行っていたような無駄話はなく、周囲の死体のように三人は喋ろうとはしなかった。

 しかし、


「ノブナリ様。上層の殲滅は殆ど終了したようですね。後は、集合地点で合流した後、地下の殲滅と捜索を行えば十分でしょう」


 白い毛皮のフードを深く被った導術師の年老いた低い声を皮切りに、


「そうか。予想以上に時間がかからなかったな」

「本当に、あっという間ですね。こんな田舎のガードなんて使い物にならないと思っていましたけど、予想以上の働きですよ」


 三人の口は途端に軽くなる。

「馬鹿が。シメイ殿直属のガード達だぞ? この程度、容易かろう。ヒトゥシ、お前のクロスボウなど、アマミチどころナナセイちゃんの足元に及ばんよ」

「ナナセイさんは『ドゥース』だろ? 元々土台が違うじゃあないすか。まあ、アサヒの拠点のレベルが高いことは認めますけど」

「っていうか、ヒトゥシ君を連れて来たのが恥ずかしくなってきましたよ」


 話題は自然と今回の任務を一緒に行ったガード達の話だった。普段触れ合う機会の少ないガードの実力やコンビネーションは中央府から来た三人にも良い刺激だったようだ。

 特にノブナリとシーヘは、数年前に一緒に活動をしていたアマミチを話に出すと、自分達の部下であるヒトゥシを比べては、「お前はまだまだ」と彼を弄って笑っていた。


「そりゃあないですよ、ノブナリ様にシーヘ様。少なくとも、『アマミチ』はあんまり凄そうな奴には見えなかったですよ?」


 上司と部下のコミュニケーションだと理解しつつも、ヒトゥシは少しムキになってそれを否定する。ことあるごとに名前が出てくる『アマミチ』と言う名前は前々から煩わしく、実際に目にするとそれはアレと比べられるのは勘弁して欲しかった。


「馬車の移動や、キャンプで何度か話しましたけど、大した奴には思えませんでしたよ? なんて言うか、ナナセイちゃんに言われっぱなしで、尻に敷かれている軽い男って感じでしたけど」


 とてもではないが思慮深いとは思えないし、腕が立つ人間特有の空気のような物も感じられない。それがアマミチに対する印象だった。


「あいつが馬鹿なのは置いておいて、お前、尻に敷いてくれる女はいるのか?」

「痛い所を突きますね」悔しそうにヒトゥシが顔を歪める。

「まあ、昔から何を考えているかわからない人間でしたからね。単純な男なのには間違いないですけど、何処か深い。変わった少年でした」


 アマミチが聴いたら怒りそうな、ナナセイが聴いたら笑いそうな人物評を交わしながら、三人は三叉路を右に折れる。そのまま雑談を続けながら、角が有ったら右に折れるを繰り返してノブナリ達は死体に溢れた通路を一通り歩き回った。

 何処にも生きる者の影はなく、死体を数えていた老術師のシーヘは百を超えた所でそれを辞めた。後日この場所に死体を回収しにくるサードのガードにでもそれは任せよう。

「しかし、何処にいなかったですね。異邦人とやら。って言うか、異邦人ってどんな奴なんですか?」


 メイン倉庫へと向かうための道を地図で確認しながら、他のガードと比較しされるのに嫌気がしてきたヒトゥシが話題を二人に振る。

 特に異邦人を話題に選んだことに意味はなく、単純に異邦人を知らないからだ。噂と言う噂すら聴いたことなく、ただ単に『前回の戦犯』であり、『ハルを語って反逆者を集めた』と言うことしか知らない。精々、『せっかくだから、普通の人間が知らない事を知って、街に帰った時に飲み屋のねーちゃんにでも話して気を引こう』その程度の考えしかなかった。

 太平楽なヒトゥシの質問に、実際にレベルを体験したことの有る二人は髪の毛を掻き混ぜると苦々しい表情で語り始めた。


「どんなって、普通のおっさんだったよ。『ジエイカン』とか言っていたかな? 前時代でガードみたいなことをやっていて、その倉庫で見つかったらしい。フロギストンの感応力がゼロだったんだが、どうやら前時代にはそもそもフロギストンが存在しなかったらしい」

「その代わり、あの忌々しい武器が作られたみたいですけどね。まあ、作り方まで彼は知らなかったみたいですから助かりましたよ。はっきり言って、彼のことを思い出したい人間なんていませんよ。思い出しても、どうしてああなる前に殺しとかなかったんだろうと激しく後悔することになりますしね」


 二人は早く口で一気にそれだけを捲し立てた。それ以上は説明する気も必要もないと言わんばかりに、顔を見合わせた後に黙って歩き始めてしまう。

珍しく喋りたがらないノブナリの背中を眺めた後、ヒトゥシはその後を小走りに追いかけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ