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ハルを探しに ~エゾの造反者アマミチと異邦人~  作者: 安藤ナツ


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五章①

 ノブナリがハルバードを振う姿は、まるでアマミチに似てはいなかった。

 その驚異的な身体能力と体力に由来する運動量でアマミチは烈火が如く相手を飲み込みながら戦うが、ノブナリはすっかりと白くなってしまった灰が持つ熱の様にジリジリと敵を静かに追い詰めていく。真っ直ぐに走り全てを踏み潰すのがアマミチの覇道であると言うのなら、一歩一歩戦場を支配して確かに進むのがノブナリの王道と言った所か。

 相棒と離ればなれになってしまったナナセイは、急遽中央府のバスター三人組に組み込まれ、残ったリベリオンの掃討を行いながらそんなことを考えていた。アマミチはポールウエポンのイロハをノブナリから教わったと言っていたが、ただ突くにしてもまるでその構えは違っており、二人の道が何処かで交わっていたとは到底思えない。

 しかしその差異は優劣を決める物ではないと言う事も直感的に理解ができる。基礎を同じにしていながらも、まるで違う結論に辿り着いた事実は、基礎が持っていた発展性の高さと、二人の武士が自分と言う物をしっかりと芯に持っていたからに違いない。

 突入の前、アマミチは『自分がない』とぼやいていたが、そんな事がある筈がない。あの槍の振る舞いはアマミチそれ自身であり、誰に見せても恥ずかしくない誇るべき技術だ。トレードマークである十文字槍をぎゅっと握り締め、導術で視界のリベリオン達を焼き殺しながら、ナナセイは改めてアマミチが尊敬に値するガードであると確信する。

 無論、経った今、部屋の隅で命乞いをしていた少年を眉一つ動かさずに殺したノブナリもまた、尊敬するべき強者であった。単純な武器の扱いの腕は門外漢であるナナセイにはわからないが、後衛三人を率いた戦いの手腕は間違いなくアマミチよりも上を行っているだろう。悔しい事に、アマミチと一緒に走るよりは遥かに楽だ。


「ふん。あらかた殺し回ったか?」


 戦斧を振って少年の血を払いながら、ノブナリが弟子であるヒトゥシに訊ねた。ここに来るまでの道中、何かとアマミチに突っかかっていたこの同年代の青年は、珍しい機械式の弓であるクロスボウの使い手であったが、時々見せる視線の鋭さや走り方から、それがメインの武器でない事はナナセイの目にも確かだった。


「ええ。俺達が担当する箇所はこれで終わりっすよ」


 ただ、性格はアマミチとは違った向きに軽く、威圧感は感じられない。肩を竦めて上司の問いに答えた後、ヒトゥシは近くに転がっている死体から矢を引き抜くと、腰の矢筒へと回収した。矢と言うか木材は貴重品であり、死体と一緒に燃やしてしまうには少々勿体無い。


「しかし、アマミチの奴、いませんでしたね」


 鏃にべっとりと付着したまだ温かい鮮血を死体の衣類で拭い、大して興味もなさそうにヒトゥシは呟き周囲を見渡す。ノブナリやナナセイが感じ取っていると言うアマミチらしきフロギストンの気配に最も近いルートを選んで進んで来た一行であったが、道中にも部屋の中にもアマミチの姿はなかった。


「そうね。この近くなのは間違いないですけど」

「ただ、何度か奇妙な反応がありましたよね? 気が付きましたか? 皆さん」

「奇妙、ですか?」


 最年長者であるシーへの枯れたような静かな声に、ヒトゥシが首を傾げ、ナナセイは発言を首肯する。


「うん。幽かだった気配が一気に燃え上がったり、急に場所が少し動いたり、普通じゃあなかったわ」

「それってアイツが戦闘中って事じゃないんですか?」


 フロギストンは人の意思に反応し、激しく燃焼する。導術を交えた戦闘中ともなればそれは顕著だ。十文字槍を失ったアマミチが戦闘時に導術を使うと言うのは十分に考えられる。槍には及ばないが、トライと言う生来の資質と、ナナセイと言う素晴らしい師を持つアマミチの導術での戦闘能力は決して低くない。

 落下後にレジスタンス達と戦闘になったと考えれば、それは別段奇妙な事ではないだろう。


「他に戦闘に応じる気配がないから、それは違うと思うわ」


 が、ナナセイはその意見に否定を唱える。


「ノブナリ様はどう思いますか?」

「ナナセイちゃんにわからないなら、俺にもお手上げさ」


 ナナセイに話を振られ、本当に諸手を上げるノブナリ。アマミチを出会い頭に襲撃したりと、なにかとお茶目なおじ様のようだ。ハルバードの刃先にほかほかと湯気をたてる臓器が乗っかっていなかれば、だが。


「ま、気配その物は近くに在るんだ。後は足を使って探すしかないな。間違いなく、生きてはいるんだ。見つかるさ。って言うか、アイツの事だ、自分からひょっこり出て来る可能性もある」

 そう言って、ノブナリはアマミチに関する話題を一度閉じ、次なる指示を飛ばそうと口を開いたのだが――


「っ!?」


 ――彼の口からは声無き悲鳴がこぼれ、続きを発する事は出来なかった。何十人と言う人間を切り伏せて来ても息切れ一つ起こさなかった大男は、激しい痛みに耐える様な厳しい表情を作り、その場に片膝をついて態勢を崩した。


「何……だ? コレは?」


 吐き気を押し殺し、脂汗を額に浮かびあがらせながら呻くノブナリの問いにナナセイは答えられない。


「くっ!?」


 彼女もまた同様に頭を押さえ、沸き上がって来るような熱量を抑えるのに精一杯であり、とてもではないがその原因が何であるかを考える余裕など微塵もなかった。喉を通る外気の冷たさと、自身の吐き出す息の熱さが呼吸を困難にし、心臓や肺と言った心拍は狂い、血流すら痛みを感じる程に脳が悲鳴を上げる。

 涙で濡れる視界の隅では、シーへも同じように苦しみ、


「ちょ!? 三人とも、何の真似っすか? 悪い冗談でしょう?」


 ただ一人ヒトゥシだけが苦痛とは無縁に困惑を露わにしている。慌ててノブナリに駆け寄る彼の姿に、ナナセイはようやく何が起きているかを理解し、十文字槍のフロギストン鉱製の刃先に祈りを込める。刃は淡く輝き出し、周囲のフロギストンもそれに反応してゆっくりと光、ナナセイがその支配権を握る。

 すると、三人の身体を襲っていた異常が静かに和らいでいき、最初にナナセイが、遅れてシーへ、ノブナリの順に体調を取り戻す。びっしりと汗を掻いてしまった三人は、それぞれ自分の周囲の温度を調整し、汗を乾かしながら呼吸を整えていく。


「あの、一体、何が起きたんですか?」


 一人だけ一連の騒ぎに無関係だったヒトゥシが恐る恐ると言う風にナナセイに訊ねる。


「暴走……いや、共鳴かな?」


 深呼吸を止めて、ナナセイは静かに答えた。


「誰かが、フロギストンを一気に燃やしたのよ。それに釣られて、周辺のフロギストンも一気に燃え上がったの。ちっちゃい子にね、導術を教える時に起こりがちな現象よ。フロギストンは互いに反応するからね。力が強い人に引っ張られやすいの。君の場合は、元々感応力が低いでしょう? だからフロギストンの干渉をあまり受けなかったのよ」

「ああ、俺はシーンだから、影響を受けなかったのか」

「そう言う事。感応力が高いほど、ヤバかったでしょうね」


 はぁはぁと息荒く解説するナナセイの口元を見詰め、ヒトゥシは二度頷く。導術を使えぬ彼には完全には理解できなかったが、フロギストンをより多く扱えると言う性質が裏目を引く時もある、その程度の事はわかった。

 そして異常な温度暴走の結果、体内温度が急激に変化した為に、体調不良に襲われた事も理解できる。極端な温度の変化は、血管や心肺に著しいダメージを与える事があると言うのは子供でも知っている常識だ。

 残る問題は、何故その様な現象が起きたのか? なのだが、ナナセイは首を横に振った。


「私――ドゥースの導術師の制御を強引に破るなんて、例え統治者だって不可能よ。超が三個位はつく高濃度のフロギストン鉱があって、統治者全員が一斉にそれを燃焼させたって言うならありえなくはないけど、それは物理的にありえないわ。この山が吹き飛んでもおかしくないレベルだもの」

「ちょっと待ってくれよ、ナナセイちゃん」


 胃の中身をぶちまけ終えたノブナリが口元を拭いながら二人の会話に口を挟む。


「今のが共鳴現象の凄い奴って言うなら、信じよう。この場で最も導術に精通しているのは君だからな。そして、通常じゃあありえない現象って事もわかる。だが、山が吹き飛ぶレベルの反応だと? そんな馬鹿な事があるか? 実際、山は吹き飛んでないぞ」

「まあ、そりゃあそうっすね」

「あくまで、フロギストン反応の規模の話です。詳細は私にはわかりませんよ」

「つまり、我々の想像を絶する何かが起きていてもおかしくないって事ですね? ナナセイさん」

「そう言うことです。ノブナリ様。一度、皆と合流をしませんか? リベリオンが何かしたとも思えませんが、この想定外で私達はともかく、ペアで行動している先輩方が不安です」

「俺に命令するな……と言いたい所だが、その通りだな」


 悔しそうにハルバードを杖代わりにして立ち上がるノブナリ。どうやら先程の共鳴のダメージは決して低くはないようで、まだ少し膝が笑っている。中年のノブナリよりも更に歳を重ねているシーへのダメージはそれ以上で、立ててこそいるものの、先程から一言も話さずにただ体調の快復を図るだけで精一杯と言った様子だ。ナナセイがこの場にいなければ、二人の被害はもっと深刻な物であったかもしれない。

 となれば、他のペアも同様な事態に陥っている可能性は高い。事前に聴いた情報では、ノブナリやシーへと同じトライはアマミチだけであったが、それでもフロギストン感応力を鍛えている導術師達に被害がないと考えるのは楽観視が過ぎる。

 ノブナリもナナセイも理解ができない現象、ひょっとしたら手に余る事態と言う可能性もある。ガードとして完全なる任務達成の為にも、此処は一度集合をし、情報のすり合わせが必要だろう。


「例の倉庫まで戻るぞ。悪いが、ナナセイちゃんに先頭を頼む。ヒトゥシはシーへのサポートをしてくれ。俺は殿しんがりだ」

「わかりました」


 辛そうなノブナリの指示に、ナナセイは頷くと周囲のフロギストンの気配を探る。全体的に活発化しているのが気にかかるが、先程の様な危険な状態には程遠い。で、あればやはり、さっきのは何だったのか? と言う疑問が募る一方なのだが、それはもう考えても仕方がない。割り切って他のガード達の安否を確かめる。大凡の居場所しか判断はできないが、生きているか死んでいるかは間違いなく判別が可能であり、幸いな事にあの共鳴依然と以後でその数に変化はない。

 …………ないのだが。気になる事がないわけでもない。


「これは、どう言う事?」


 簡単な計算の答えが何度やっても合わない、そんな風に困惑をナナセイは呟いた。ノブナリは嫌気を隠さずにその言葉に相槌を打つ。


「どうした? これ以上のトラブルはご免何だが?」

「さっきまで近くに在ったアマミチの反応が消えています」

「死んだのか?」


 ノブナリの口からそんな言葉が飛び出すが、ナナセイは自信なさそうに首を横に振る。消えただけであれば、そう判断せざるを得ないだろう。だが、その場合ナナセイが抱くのは困惑ではなく絶望。


「死んだかはわかりません。でも、代わりに反応が倉庫にあるんです。さっきまで、あそこには何もなかったのに」

「それが、アマミチだって言うのか?」

「反応の数自体は変わっていませんから、その可能性は高いと思います」


 一つの反応が消え、別の場所に新たな反応が現れた。数字だけで考えれば、確かにその移動した反応がアマミチだと考えるのは自然かもしれない。が、移動した距離や、それに必要な時間を考えてしまうとかなり怪しくはないだろうか? ヒトゥシがそう疑問を挟むと、


「アマミチは大穴に落ちて行きました。だったら、大穴を一気に登ればありえなくはないと思います。アイツなら、フロギストンの爆発を利用して穴を登る位ならやりかねません」

「いや、それ、死ぬんじゃね?」


 いやいやいや。と、ヒトゥシは掌を高速で振って否定を示す。


「まあ、アマミチなら死なんかもな」

「まあ、アマミチ君ならやり切るかもしれませんね」


 しかし今まで一言も喋っていなかったシーへすら、ナナセイの言葉に現実味を感じ、引き攣った笑みを見せて肯定を示す。


「あの子は、“当代最強”の息子にして唯一の直弟子。“ドラゴン殺し”の後継者。次期“当代最強”筆頭。ミカミ・アマミチ=トライ。多少の無理は彼の道理の前では道を譲らざるを得ませんよ」


 シーへの言葉にヒトゥシは胡散臭そうな眼を向け、ナナセイとノブナリは言わんとする事を十分に理解し強く頷く。

 そしてこれより後、彼等はアマミチと言う人間の道理を体験する事となるのだった。



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