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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
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25.化け物退治

 リゲルは剣にべっとりとついた血糊を自分の服の袖口で拭った。

「歯応えがないなあ」

 そして、暴れ足りないと言わんばかりにため息を吐く。

 どんだけ暴れたら気が済むんだよ。


 俺は呆然と立ち尽くしながら、地面に目を落とした。

 一、二、三、四……いくつもの毛皮の塊が地面に転がっている。

 コイツらを倒すのに俺はほとんど何もしていない。

 やったのは言わずもがな、リゲルである。


 リゲルはそのうちの一つの胸倉を掴んで揺さぶる。

「で、何がしたかったのかな?」

 顔はにこやかだが、声はドスが利いている。

 俺はその声に思わず身震いをした。


「いや、あの……それは」

「あのじゃねえだろ。さっさと人が穏やかに聞いているうちに言った方がいい。分かるよな?」

 リゲルは目を見開いた。


「あ、あ、あ」

 その表情は特に怖いわけではないが、毛玉はガタガタと震えた。

 鬼神の如き強さというのは聞いたことがあるが、リゲルの戦い方はまさにそれだった。

 あんなリゲル無双を見てしまっては歯の根が合わなくなるのも無理はない。

 コイツらが生きているのが不思議なくらいの暴れっぷりだった。


 お願いだから、悪い奴ら以外にその力を使わないでくれよ。

 いざとなったらリゲルを止めるのは俺の役目だ。

 俺は死なずにリゲルを止めることができるのだろうか。


 試しに後頭部に一発殴ったところを想像してみる。

 殺気に気づき、リゲルは振り返る。

 そして、カウンターで一発俺の腹にパンチを決め込む。

 うん。脳内のシュミレーションですら勝てないぞ。

 どうやら、俺がリゲルを止めるのは無理なようだ。


 俺は祈るような気持ちでリゲルの挙動を見守った。


「さ、早く言ってみよう。こう見えて俺は短気なんだ」

 リゲルは止めの一撃のように笑顔を浮かべた。

 瞳は全く笑っていない。

 これ以上言わせるんじゃねえよと瞳が言っていた。


 やばい。

 これ以上リゲルを怒らせるな。

 止めなきゃいけないとなると俺の身も危うい。


「こ、これを着て街を襲えばいいって、そうすれば化け物の仕業だと思ってみんな逃げていくから争わないで金は奪えるって、そう言われたんだ!」

 毛玉は慌てて叫んだ。

 震えの割に声は驚くほどはっきり聞こえた。


「へえ、そんな怪しい話をこの人数の人間が信じてやったって言うんだ」

 リゲルの眼光は鋭くなる。


「ひっ!」

 毛玉は小さく声を上げた。


「あ、あの、リゲル、あまり手荒な真似はよくないですよ?」

 毛玉があまりにも哀れでついそう言ってしまった。

 勿論、民が傷ついたわけで俺だって怒っていないわけではない。

 できれば痛めつけてやりたい気持ちもある。

 しかし、何か事情がありそうだ。

 もうリゲルが暴れてしまっているが、それを聞くまでは手荒な真似は出来るだけ避けたい。


「そう? 俺としては優しくしてやってるつもりなんだけど……」

 リゲルは首を傾げると、困ったような顔で微笑んだ。

 リゲルがよくやる表情だが、その表情すら怖い。

 俺の背中に冷たいものが走った。


 頼むから穏便に、穏便に済ませてくれ。


「本当だ信じてくれ! 俺たちだってこんなことをしたくてしたんじゃない! 元々は俺たちだってスミソナイト領の農民なんだ! 凶作が続いて食うものもなくて……仕方なく野盗に身を落とした奴らばかりなんだよ!」

 毛玉が叫ぶ。


 確か、スミソナイト領は山を越えた向こうにある土地のはず。

 地理的にはかなり近い。

 しかし、俺たちのいるオブシディアン領では農作物の収穫に変化はない。

 寧ろ、豊富な方だった。

 俺は首を傾げた。


「スミソナイトだって?」

 リゲルは驚いたように目を見開いた。

 そして、毛玉から手を離す。


 毛玉の男は地面にどさりと崩れ落ちた。

 その拍子に腐ったような嫌な匂いが辺りに広がった。


 それにしてもこの毛皮の貼り合わせたもの、作りが雑すぎる。

 なめしどころか、肉も脂もついたままだ。

 これじゃあ腐った匂いがするのも無理はない。

 素人が作ったにしてもあまりにも酷い。

 しかし、この酷さがかえって化け物らしく見えるようにも思える。

 狙って作ったのだろうか。

 俺は鼻を覆いながらそんなことを考えた。


「リゲル、何か思い当ることがあるんですか?」

「いや、何も聞いたことがない。彼が言っていることが本当だとすると、それがおかしい。スミソナイト家といえば、王妃の生家のはず。何かあればうちにだって情報が入りそうなものなんだけど……」

 リゲルも首を傾げた。


 王妃――つまり、デネボラの生まれた家ということか。

 確か、デネボラといえば、今は病気で弱りきっているんだよな。

 病気のデネボラと実家の凶作続きを結び付けて、やれ呪いだ、祟りだなどという輩もいるかもしれない。その噂を聞いた民が不安になり、反乱を起こすという可能性もある。

 情報は国や王族を守る武器でもあるのだ。

 だから、騎士を多く輩出するジェード家は噂にいても敏感なはずだった。

 そのリゲルが何も知らないというのも不自然な話だ。


「情報が意図的に隠されているということでしょうか?」

「そうだね。王妃の病気と結びつけて考えられると困るから、スミソナイト家が意図的に隠しているのかもしれないね。勿論、彼が嘘をついている可能性の方が高いと思うけど」

 リゲルは周りに聞こえないように声を低くした。


「でも、そんなすぐに分かりそうな嘘をつきますか? 近くの土地の話ですよ」

「うーん。そうなんだよね。あからさまに嘘っぽいのが逆に本当っぽいんだよね」

 リゲルは小さく唸りながらそう言った。


 俺はリゲルの言葉に頷いた。

 同情を引くためにそんな分かりやすい嘘を吐くだろうか。

 いや、嘘ならもっと上手い嘘を吐くに違いない。

 ということはだ。コイツは本当のことを言っているのか、或いは本当だと信じ込んで言っているのだろう。


「で、どんな奴に唆されたの? 男? 女? 年寄り?」

 リゲルは矢継ぎ早に捲し立てた。


「黒髪の男で、瞳の色は青かったかと。身長は高かったような」

「もっと詳しく言えるよね?」

「いや、顔や年齢までは……」

「へえ、嘘を吐くと、お前の腕か足がなくなるんだけど、それでもいいの?」

「嘘じゃない!ローブを纏った男で、仮面を付けていたんだ! 見えたのは髪と瞳の色だけなんだよ!」


 ローブに仮面だなんて典型的な怪しい奴のテンプレートだな。

 そんな奴の言うことを本当に信じるのか?

 溺れる者は藁でも縋ると言うが、藁にもならなそうな奴じゃないか。


「何度も言うけど、本当にそんな奴の話を信じたというの? 俺たちのこと馬鹿にしているようにしか思えないんだけど」

 リゲルも俺と同意見だったらしい。

 眉を顰め、冷たく突き放したようにそう言い放った。


「そんなことを言ったって縋るものがそこしかなかったんだ。俺たちだって真っ当に生きられるならそうしたさ。食料がなければ、最初に死んでいくのは力のない年寄りや子どもなんだ。艶のない皮が骨にただ張り付いているだけの体なんて見たことがあるか? 俺たちはそんな地獄を見たくなくて逃げ出してきた奴らなんだよ!」

 毛玉は怒るように叫ぶ。

 その言葉は本当のことを言っているように思えた。


「貴方たちはいつからこんなことをし始めたんですか?」

「逃げ出したのは去年の冬から今年の春にかけてぐらいだろうか。人を襲いだしたのは今年の夏くらいだ。食うもんがなくて山に入って狩猟をしていたんだが、元は農家だったから、上手く獲物も捕れず困っていたところを黒髪の男に唆されて……オブシディアン領は豊かな土地で食べ物も金もたくさんあると聞いたんだ。すべて上手くいくと言われたのに!!」

 

 人を襲いだしたのが今年の夏ごろだと、化け物の噂が立った時期とちょうど一致する。

 つまり噂になっていた化け物はやはりコイツらということだろう。


「そうだったんですか。それなら、貴方たちはもう、これ以上罪を重ねないでください」

 俺は気づくとそんなことを言っていた。


 正義のヒロインぶるつもりはないが、これ以上罪を重ねることはお互いにメリットがない。

 止めることができるのなら止めてやりたい。


「じゃあ、お前が俺たちを救ってくれると言うのか? ふざけるな!」

 毛玉が叫ぶ。


「貴様!」

 リゲルは激昂したように叫び、剣を毛玉に突きつけた。


「リゲル、やめてください! この方がそう思うのも無理はないことです。お願いだから剣を下ろしてください」

 俺はリゲルの腕に縋った。

 リゲルは舌打ちをすると、渋々剣を収めた。


 俺はゆっくりと腰を下ろし、毛玉に顔を近づけた。

「わたくしはここの領主の娘です。貴方がたがもしも望むのなら手を貸させてください。勿論、出来ることは限られているので期待に添えないこともあるかとは思います。でも、出来ることがあるなら、わたくしはなんだってさせていただきます」


 綺麗ごとかもしれない。

 この判断は間違っているかもしれない。

 でも、そう言わずにはいられなかった。

 泥棒を捕まえたときのお母様のようにどんな人にも誠実にいたいと思った。


 毛玉は毛皮の頭の部分だけ脱ぐ。


 現れた顔に俺は驚いた。

 男だと思っていたが、毛玉の中身は女だった。


「それは本当なのか?」

「ええ。わたくしはお母様譲りの頑固者なのです。大抵のことは何が何でも実現いたします」

「それが本当なら急がないと!」

 女は叫んだ。


「どういう意味?」

 リゲルは眉を顰め、責めるようなきつい言い方で問う。


「仲間がまだいるんだ。そいつらは腕が立つ奴らで、広場を襲うって……」


 多くの足音がした。

 憲兵たちが駆け付けてきたようだ。


 そこで俺は合点がいった。

 つまり、コイツらは化け物のふりをして暴れて憲兵たちを引きつける陽動役で、本当の狙いは広場の方だということなのか。

 確かに広場の方がたくさんの食べ物やお金が手に入るだろう。


「ソイツらはもしかして普通の恰好をしているとかじゃないよね?」

 リゲルが素早く問う。


「確かに、皆は普通の服を着てた……」

「アイツらだ!」

「アイツら?」

「化け物だと叫んでいた奴らがいたよね?」

「ええ」

「ソイツらの中におそらくコイツらの仲間がいるんだよ。化け物がいると騒げば、憲兵たちは慌ててそっちに向かうでしょ? 広場の警備を手薄にしたいなら俺はそうするね」


「じゃあ、早く戻らないと!」

 俺は叫んだ。


 俺たちは後から来た憲兵たちにわけを話した。

 そして、憲兵のうちの数人を残し、一緒に広場へと向かった。


 広場にはミモザもミラもいる。

 どうか無事でいますように。

 俺はそう祈りながら、足を動かした。 

 

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