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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
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24.悲鳴の原因

※流血、残酷表現あります。

 広場を出て北に向かう。

 北に延びる大通りは広場に向かって走る人たちで溢れていた。


「化け物が出たぞ!」

「人が襲われている!」

 そう叫ぶ声に逃げ惑う人々で大通りは混乱していた。

 俺たちはそれを逆走する。


 化け物だって。

 まさか、あの噂の化け物じゃないよな。

 だって、調査の結果、化け物はいないことになっていたはず。

 オブシディアン領に化け物なんているわけない。


 俺は誰かを呼び止めて詳しいことを聞きたかったが、リゲルは止まらない。俺を抱えたまま走る。

 流石は体力馬鹿。

 俺の体が軽いとはいえ、よくもまあ走れるもんだ。


「アルキオーネの周りでは面白いことが起きるよね。やっぱり後をつけていて正解だったよ」

 リゲルは逃げ惑う人を尻目にニコニコと笑う。


 息も乱さず走るリゲルに俺はぞっとした。

 おい、まさか、俺とミモザの後をずっと付け回していたんじゃないだろうな。

 そんなにミモザが心配だったのかよ。

 女の子とせっかくのデートで妹の後を追うなんてシスコンこじらせすぎだろ。


「あの、一歩間違ったらストーカーですよ?」

 俺は顔を引き攣らせてそう言った。


 リゲルは困った顔をしてから笑う。

「大丈夫。普段はこういうことはしないから安心して?」


 全然安心できない。

 何処を安心すればいいんだ。

 妹のお出かけを後ろから見守る兄なんておかしいだろ。


 いくらシスコンでも、流石に妹と友だちのお出かけだけは守らねばいけないプライベートだ。

 俺だってそんなときは涙を呑んでお家で大人しくしていたというのに。


 そんなことをしたら絶対妹に嫌われるんだからな。

 下手したら二、三日、口を利いてもらえなくなるし、家出されたりするぞ。

 というか、ミモザだって一度、家出をやらかしているじゃないか。

 何でコイツは学習しないんだよ。

 妹はお前のお人形じゃねえんだよ。


 あとで落ち着いたらゆっくりとお説教だな。

 俺はため息を吐いた。


「化け物なんているはずないのに。一体何が起きているのでしょう?」

 俺はリゲルの言葉を無視して別の話を始めた。


「さあ、なんだろう? でも、わくわくすることが待ってる気がするんだよね。楽しみだなあ」


 悲鳴を聞いてわくわくだって?

 リゲルが楽しいことといえば、妹のミモザに関すること、剣術、戦闘、暴力、流血くらいしか思いつかない。


「わたくしは嫌な予感しかしません」

「そう? アルキオーネといると暴れられて俺は楽しいよ?」


 やっぱりそういう意味じゃねえか。

 俺はそういう暴力から大切な人を守るために強くなりたいんだ。

 暴力を振うために強くなりたいんじゃない。

 リゲルと俺との違いはそういうところだ。


「暴力はよくないです」

「え、でも、アルキオーネは言ってくれたよね。『貴方がその力を使いたいのならわたくしだって貴方の力の使いどころを考えてあげます』って」


 くそ。覚えていたのか。

 余計なところを覚えていやがって。


「そうですけど!」

「しっ!」

 リゲルが鋭く俺の言葉を制する。

 そして、リゲルは建物の陰に隠れ、俺をそっと下ろした。


 建物の陰からそっと窺う。

 道の途中で、人が倒れている。

 どうやらここがリゲルの目的の地らしい。


「人が倒れていますね」

「うん。あと、あれが化け物ってやつかな?」


 リゲルが指す方を見る。

 いくつもの毛皮を張り付けたような不自然な歪な形の毛玉がそこにあった。

 足のようなものが動くたび、ずちゃと湿った嫌な音がした。

 地面には血や肉のようなものがずるずると引きずられている。

 血肉は倒れている人のものかと思ったが、どうやら違うものらしく、毛玉の方から垂れ流されているように見える。

 たくさんの手足や牙のようなものは見当たらない。

 噂の化け物とは違うような気がした。


 俺たちは注意深くその毛の塊を観察した。

 毛の塊は身を屈め、倒れている者から何かを探っているようだ。

 何をしているというのだ。

 俺はよく見ようと身を乗り出した。


 ふわり。腐った肉の匂いがした。


「アルキオーネ! 危ない!」

 リゲルの声がした。


 鋭い光が閃いた。

 振り返ると、リゲルが剣を振っていた。

 どさっと何かが地面に落ちた。


「ぎ、ぎやあああああああああああ」

 熊や猿といった獣の腕がたくさん付いた毛の塊が叫びながらゴロゴロと転げまわる。

 すると、辺りに新しい血と腐敗した血と小さな白いものがまき散らされる。

 血だまりに浮かぶ白いものをよく見ると、それは動いているようだった。

 どうやら蛆のようだ。


 俺は口を押えた。

 吐き気と悪寒と嫌悪感が後から後から迫上がってくる。


 リゲルは転げまわるそれを無視して地面に落ちたものを拾った。

「ふーん、なるほどね」

 そう言うと興味なさげに拾ったものを投げ捨てた。


 それは俺の近くに落ちる。

 なんでこっちに投げてくるんだよ。

 そう思うが、唇が震える。


「ひっ!」

 言葉の代わりに悲鳴が漏れた。

 よく見なくても分かる。

 リゲルが投げたのは人の腕だった。


 リゲルは転げまわる毛の塊に数発蹴りを入れた。

 そして、毛の上に足を乗せ、顔を近づける。

「動くんじゃねえよ。動いてたら間違って切っちゃうかもしれないよ?」

 リゲルは喉を鳴らして笑った。


 毛玉は動くのをやめる。

 リゲルは満足そうに微笑むと、ナイフを毛玉にザクザクと刺した。


 猟奇的な光景に俺は眩暈がした。

 いや、ここで気を失ってはいけない。

 しかし、体の全てが現実を受け入れることを拒絶する。

 なんだか頭も痛くなってきた。

 俺は必死で頭痛と吐き気と眩暈と悪寒を堪えた。


「アルキオーネ、見てよ」

 リゲルはへらへらと笑いながら俺に向かって手招きをした。

 リゲルの顔には血と蛆がついている。


 俺は必死で首を横に振る。

 近くで見て正気でいられる気がしない。


 やめてくれ。

 俺はグロ耐性がそこまでないんだよ。

 これ以上グロい物を見せられたら失神するぞ。


「大丈夫だって」

 リゲルはそう言うと、べろりと毛を剥がす。


 もうだめだ。

 俺は失神しようと思った。

 しかし、リゲルは早かった。

 失神するより早く、毛に包まれていた中身が晒される。


「は?」

 俺は驚いてそれ以上何も言えなかった。


 毛の下には真っ赤な肉があるはずだった。

 しかし、俺が目にしたのは、腐敗した血と蛆に塗れた男だった。


「すっごい不細工な着ぐるみだよね」

 リゲルは冷たい瞳をして男を見下ろした。


「腕が、腕が……!」

 男はなくなってしまった腕の辺りを押さえながら、怯えたような目でリゲルを見ている。


「うるさいなあ。腕の一本や二本でぐちゃぐちゃ言うなよ。お前らどうせ人殺しなんだからこれだけじゃすまないよ?」

 リゲルの目がすっと細まる。

 睨みつけるような視線に男は震えながら首を振った。


「俺は殺してない! ただ眠ってもらおうと……」

「ふーん。じゃあ、あそこで倒れている人たちも生きてはいるわけだ。仕方ないね。お前も生かしておいてやるよ」

 リゲルは笑うと、男の頭を勢いよく蹴り飛ばす。

 男はぐるんと白目を剥き、地面に転がった。


「これが化け物の正体?」

 そのやり取りを見ながら俺は小さく呟いた。


 待てよ。待て待て。

 つまり、化け物の正体は人間だってことか。


 もしかして、あの化け物の噂の正体もこれだっていうんじゃないよな。

 あり得る。

 だから、化け物のいた痕跡――糞だとか足跡が見つからなかったのか。

 だとすれば何でこんなことを?

 人が集まるこんなところで騒ぎを起こす必要性なんてないだろう。

 俺は黙り込んで考えた。


 リゲルはため息を吐く。

「アルキオーネ、どうやらまだ安心できないみたいだよ」

 そう言って、リゲルはこちらにナイフを寄越した。


 俺はナイフを受け取る。

 辺りにいくつもの気配を感じた。


「じゃあ、背中はちゃんと守ってね」

 リゲルはそう言うと、剣を振り上げた。

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