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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
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23.デートらしくなってきました

 鹿肉の串は少し獣臭く独特な味がした。


「私にも一口」

 そう言ってミモザは俺の持っていた肉にかぶりつく。


 代わりにと差し出された肉を俺はそっと噛んだ。

 じわりと肉汁が溢れ出る。

 ミモザの持っていたバイソンの串は牛肉に近く鹿肉に比べると食べやすい気がした。

 まあ、どちらも前世ではあまり食べてこなかったが、今世では時々食卓に並ぶ肉なので美味しくいただいた。


「お姉様、お願いがあります」

 肉を食べながらミモザは畏まってそう言った。


 俺はごくりと肉を飲み込む。

「なんでしょうか?」


「私のことを様付けで呼ぶのは止めてほしいの」


 俺は大きく瞬きをした。


 そういえば、リゲルもミラもアルファルドも、ミモザより年上なのに呼び捨てなのに、ミモザだけ様付けのままだ。

 確かに違和感があるよな。


「そんなのお安い御用です」

 ゆっくりと微笑む。


 お姉様と呼びたいと言ったり、一緒にお出かけがしたいと言ったり、ミモザのお願いは可愛らしいものばかりだ。

 ついつい甘やかしたくなるリゲルの気持ちもよく分かった。


「よかった。会って日の浅い子も呼び捨てなのに私だけ様付けだから嫌われているのかと……」

 ミモザはほっとしたように顔を綻ばせた。


 なんだ。そんなのを気にしていたのか。

 嗚呼、だから、キリルたちの名前を出したときもムッとした顔をしていたんだな。

 そんなので拗ねてしまうなんて可愛いやつだ。


「ミモザを嫌うなんてありえません。見覚えがありませんか?」

 俺は意味ありげに肩に掛けていたストールを掛け直した。

 それは赤薔薇のような真紅のストールだった。


「それって!」

 ミモザは驚いたように目を見開いた。

 よかった。

 どうやら見覚えがあったらしい。

 今まで気づかないから忘れているのかと思った。


「本当は二人で遊ぶ約束だったでしょう? ミモザ……にいただいたものだから身に着けていこうと決めていたんです」


 俺が肩から掛けていたストールは以前ミモザからプレゼントされたものだった。

 このストールを羽織るために俺は今日、動きにくいドレスなんて恰好をしていたんだ。

 そうでなければ、いざとなったらミモザを守らなきゃいけないし、動きにくい恰好を自ら進んでするはずないだろう。


 ミモザは急に小刻みに震えだす。

 いきなりどうしたんだ?

 俺はミモザの次の行動を待った。


 ミモザは大きくジャンプをすると、俺に抱きついた。

 いい加減、ミモザの抱きつき癖に俺は慣れてきたところだ。

 俺は優しくミモザを抱き止める。


「ありがとう、お姉様!」

「あの、わたくしがミモザからプレゼントをいただいたのだから、お礼を言うのはわたくしだと思うのですが……」


「そうだとしても、お礼が言いたいのよ! 黙ってお礼を受け取ってよ!」

 横暴な言葉だったが、ミモザはツンデレなのは百も承知だ。

 おそらく、照れ隠しなのだろう。

 本当に可愛い奴だ。


「では、謹んでお受け致しますね」

「そう、それでいいのよ!」

 ミモザは嬉しそうに頷く。


「そうだ! お礼に何かお揃いのものを買わない?」

 ミモザは思いついたように手を叩く。


 そういえば、前世の世界では、友だちとお揃いのものを身に着ける双子コーデというものが流行ったりしていたな。

 あそこまでやるのは流石にきついが、一緒のアクセサリーを身に着けるとかくらいなら許容範囲だろう。


「お揃いのものですか。いいですよ」

「じゃあ決まり! さっそく見に行きましょう!」

 ミモザは俺の手を握ると走り出した。


「ちょ、ちょっと。待ってくださいよ」

 後ろからアントニスが慌てたような声を上げて走り出した。


 ***


 結局、俺とミモザは色違いのブローチを購入した。

 金色の薔薇の花弁のブローチだ。

 ミモザは緑、俺は赤の宝石が中心にはめ込まれている。


 因みにお礼なので代金は俺のお小遣いから出ている。

 ミモザは「私が言い出したことだし、私がお礼をしたいの。お金は私が払いたい」と言い張ったが、そこは年上の俺に払わせてほしいとお願いした。

 ミモザは不満そうな顔をしていたが、渋々俺が代金を払うことを許してくれた。


 ミモザが何か買ってくれようとするのは嬉しいのだが、貢いでもらっているようでなんだか悪いような、情けないような気がした。

 まあ、この金もお小遣いだから、自分で稼いだ金とは違うのだけど。

 やっぱりプレゼントをするなら自分で稼いだ金でプレゼントしたいよな。

 どこかでバイトがしたいな。

 でも、伯爵令嬢がバイトなんてできるのだろうか。

 バレたらお母様やメリーナに心配をかけるよな。

 仕方ない。バイトの件は保留にしておこう。


 俺たちはさっそくブローチを胸につけあうと、街を散策した。

 色々な屋台が目を引く。

 でも、せっかくのデートなのに食べてばかりなのも色気がないよな。

 さて、この後は何をしよう。


「お姉様、そろそろをプーパをつくりましょうよ」

 俺が悩んでいたのを察したのかと思うほどタイミングよく、ミモザがそう言った。


「プーパ?」

「野菜でできた人形のことですよ」

「嗚呼、それですか。そろそろ作っておかないと鍋の時間に間に合わなくなりますもんね」

 俺はミモザの言葉に頷いた。


 プーパというのは、豊穣祭の最後に鍋にぶち込む野菜でできた人形のことらしい。

 一応、自分で作ったプーパの入った鍋を食べるというのが豊穣祭のメインイベントでもある。

 ちょっとおどろおどろしいけど、せっかくだし、やっておきたい。


 俺たちはプーパを作るために、広場にやってきた。

 広場ではプーパを作るための野菜を売っていたり、無料で道具が借りられるコーナーができていた。


 俺は小ぶりな南瓜で、ミモザはルーベルムという赤い玉ねぎに似た野菜で人形を作ることにした。


 野菜と道具を並べる。

 さてと、人形を作ろう。

 俺とミモザは彫刻刀を手に取った。


 そのときだった。

 広場の北の方から叫び声が上がる。

 何か催し物がある時間帯ではない。

 ということは、今の声は歓声という訳ではなさそうだ。


 ものすごく嫌な予感がする。

 俺が何かしようとすると必ず起きるトラブル。

 そんなトラブルの匂いがした。


 関わってはならない。

 そう思うのだが、自然と口が開く。

「何の声でしょうか?」


「気になります? ちょっと見てきますよ」

 アントニスが剣を手にかけながらそう言った。


「いやいや、待ってください。今ここでアントニスがいなくなっては、困ります。わたくし一人でミモザを守りきれる自信がありません。見に行くのならわたくしが行きます!」

「アルキオーネ様一人で行動なんて無理ですよ!」

「そうよ。お姉様一人では無理だわ!」

「そうは言っても、アントニスがいない方が困ります」


 こんなヒラヒラなドレスを着て、俺一人でミモザを守るなんて無理に決まってるだろ。

 なんて無茶苦茶いいやがる。

 とはいえ、このままこうしていて待っているのも気持ちが悪い。


「じゃあ、アントニス殿がミモザとミラを見ててください。俺たちが見てきますから」

 誰かが俺の肩を叩いた。

 俺は驚いて振り返る。


 それはリゲルだった。

 俺の後ろに立つんじゃねえ!

 びっくりするだろうが。


「さ、アルキオーネ、行こう!」

 リゲルは俺の手を引き、強引に立たせる。


「え? わたくしもですか?」

「何言ってるの。アルキオーネは君しかいないよね?」

 リゲルは不思議そうな顔をして首を傾げる。


 さも俺がおかしいみたいに言ってんじゃねえよ。

 確かに俺はアルキオーネだけど、論点をずらすような質問で返してくるな。

 俺はリゲルをじっと見つめた。


「お兄様、それは無理よ!」

「え? そんなことないよ! アルキオーネは意外と強いんだから」

 リゲルはヘラヘラ笑いながら俺の後ろにまわる。

 だから、何で後ろにまわるんだよ。


 俺は首を回してリゲルを見上げた。

 リゲルはニコニコと笑いながら俺を見下ろす。


 さっきから嫌な予感が止まらないんだけど。

 俺は予感が当たりませんようにと祈りながらリゲルを見つめる。


「じゃあ、アントニス殿、二人を宜しくお願いします」

 そういうとリゲルはひょいっと俺をお姫様抱っこをする。

 そして、そのままアントニスの返事を聞く前に駆け出した。


「え、ええ? えええ?」

 俺は「え」を言うだけの機械になったように「え」を連呼し続けた。


 俺は要らないよな?

 リゲル一人で充分だろう。

 何で俺も行かなきゃならないんだよ。


 俺は助けを求めようと、リゲル越しに皆の方に目をやる。

 リゲルの背後では、ポカンと口を開いたままのミモザとアントニスと、とってもいい笑顔のミラが手を振っているのが見えた。

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