22.豊穣祭の開幕
真っ赤なストールに動きにくいひらひらとしたドレス。
気が重い。
俺の気分とは裏腹に街には陽気な音楽が流れていた。
これがミモザだけだったらな。
俺はため息を吐いた。
俺、ミモザ、ミラ、リゲル、レグルス、アルファルドの六人、プラス護衛という大所帯で俺たちは豊穣祭に参加していた。
この人数では移動するだけで疲れる。
それに、コイツら全員ちょっと変わっているから、まとめあげるにも一苦労だ。
楽しむ前に神経を使ってしまう。
「あの、人数が多いと動きずらいので一旦、二つか三つのグループに分かれませんか?」
受け入れられないとは思っていたが、俺はとりあえず提案してみた。
「そうね。この人混みにこの人数ははぐれてしまいそうだわ」
ミモザはあっさりと頷く。
「俺もそう思う」
「確かに一人だけはぐれるなんてことになったら危険だもんね」
アルファルドもリゲルも頷く。
思っている以上に同意してくれる人は多いらしい。
「でも、どうやって分かれるの? どうせ皆アルキオーネと一緒がいいんでしょう?」
ミラが首を傾げた。
いやいや、そんなわけあるかよ。
レグルスとミラはそうかもしれないが、リゲルはレグルスかミモザの護衛をしなきゃならないだろうし、ミモザも俺よりはアルファルドといたいだろう。
でも、そうなると、分かれるときに揉めそうなのは確かだ。
「アルキオーネを掛けて勝負をするか?」
わくわくとした表情でレグルスが問う。
「そんなのお兄様やレグルス様が強いに決まっているじゃない。狡いわ」
「いや、カードゲームなら、アイツは弱い」
「アルファルドは喧嘩を売ってるのかな?」
「お前とは一言も言ってない」
「俺の方を向いて言ってたら誰だって俺のことを言ってると思うはずだよね?」
「カードゲームなら私でも勝てるかしら?」
「わたしはカードゲームをしたことがないのだが……」
皆がやがやと好き勝手に喋っている。
嗚呼、もう収拾がつかない。
「分かりました! 組み分けはグーチョキパーで決めますよ。手を出さない人は置いていきます。ご了承くださいね!」
俺は叫ぶ。
皆は喋るのを止め、慌ててさっと拳を出した。
***
組み分けの結果、俺とミモザ、レグルスとアルファルド、ミラとリゲルという三つのグループに分かれた。
「夕方まではこのグループで行動しましょ。じゃあ、お姉様行きましょう」
ミモザは嬉しそうに俺の腕に自分の腕を絡めて腕を組んだ。
「ええ」
俺は微笑みながら頷く。
俺たちは予定通りだからいいとして他の人たちはどうだろう。
レグルスとアルファルドは不服そうな顔をしていた。
それもそうだろう。
こんなところまで来て、はとこ同士で組まされているのだから。
可哀想だが仕方ない。
レグルスたちは、まあ何とかするだろう。
リゲルとミラの方はどうだろうか。
俺は横目で二人の様子を見た。
「じゃあ、リゲル様、私たちも行きましょう」
ミラはニコニコと笑う。
「ミモザが心配だな」
リゲルは俺たちの方を心配そうに見つめている。
「大丈夫。それなら……」
ミラはリゲルに何かを耳打ちしていた。
それを聞いてリゲルは驚いたような顔をしてから嬉しそうに頷く。
どうやら、放っておいてもあちらは上手くいきそうだ。
俺とミモザはみんなと別れて街を歩いた。
街は王都のような派手さはないが領の中心地ということもあり、それなりに栄えており、祭りの参加者も多い。
手始めに何をしようかな。
「せっかくですから、美味しいものでも食べたらどうですか?」
後ろを歩くアントニスがそう言った。
いやいや。お前が食べたいだけだろう。
顔がにやけているぞ。
「美味しいもの……食べ歩きね。何かおすすめとかあるかしら?」
ミモザは振り返ってアントニスに聞いた。
「それなら、アルキオーネ様が調べていましたよね」
「嗚呼、キリルとソロンのおすすめの屋台とか、ドルカとミルカのおすすめのお菓子とかは聞いておきましたよ」
やっぱりお肉がいいのかな。
確か、鹿とか熊みたいなジビエの串があるって聞いたな。
あれがいいかな。
でも、ミモザは女の子だし、甘いものがいいのか。
それなら、ミルカが言ってたカスタードパイとか木苺のジャムのパイとかもいいな。
どれにしようかな。
「お姉様、その人たちは誰なの?」
ミモザは急に険しい顔になると俺に向かって聞く。
俺、何かまずいこと言ったかな?
「フランクに紹介してもらった農家の子どもですけど……」
「フランク?」
「ほら、ミモザ様がお泊まりに来た日に厨房で会った野菜を持ってきてくれる人のことですよ」
「嗚呼、あの人。確か、腰を痛めて農作業が進まないで困っている農家の話をしていた人よね」
「そうです。あのときお願いしてその農家を紹介してもらったんです。キリルもソロンもドルカもミルカもそこの子です」
俺の言葉にミモザは明るい顔になる。
「そう! 奉仕活動をしていたのね、流石はお姉様だわ」
奉仕活動と呼べるほどのことではない。
ただ、収穫を手伝って、ついでに筋肉が付けばいいなくらいに思ってやっていただけの話だ。
やっぱりミモザは俺を美化する傾向があるようだ。
「いえ、褒められるようなことはしていませんよ。わたくしは筋トレついでにお手伝いしていただけですから」
「そんな謙遜をしないで。お姉様はやっぱり困っている人の味方なんだわ!」
嬉しそうにミモザは微笑む。
俺は乾いた笑いを浮かべた。
事実を言えば言うほど、ミモザは俺が謙虚でつつましい人間だと思うに違いない。
確かにアルキオーネはそうだったが、俺は違う。そんな立派な人間ではない。
何を言っても無駄な気がした。
「良かった。害虫だったら駆除しようと思っていたから……」
ぼそりとミモザは呟く。
よく聞こえなかったが、害虫とか言っていたような気がする。
まあ、農業に害虫との戦いはつきものだもんな。
なんかそういうことを言ったんだろう。
「それより、これから何を食べますか? 甘いものとしょっぱいものどっちがいいですかね」
俺は飛び切りの笑顔を作った。
アントニスがいるとはいえ、デートだもんな。
「とりあえず、しょっぱいものからがいいかしら」
ミモザはそう言うと、俺の腕にぎゅっとしがみついてから笑う。
ふと、妹は俺が死んでからどうしているんだろうと思った。
分かったとしても、もうどうすることもできないのだけど。
代わりにしているようで申し訳ないが、ミモザがこうして笑ってくれると、何だか妹といるみたいで、幸せな気分になる。
それで満足しておこう。
俺はそう思った。




