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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
一章 十二歳、王子と婚約しました。
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7.お願い、お父様!

 ***


 完全に熱が下がったので、俺は真っ先にお父様に会いに行くことにした。

 勿論、お願いごとを聞いてもらうためだ。


 熱が下がる前にお願いごとなんてしたら、「熱が下がってからにしなさい」と言われるに決まっている。

 だから、今日までずっと我慢をしてきた。


 やっと、言える。

 そう思うと、嬉しい反面、断られたらどうしようかと緊張していた。


「お嬢様、本当にそんなことを頼みに行かれるのですか?」

 後ろをついてきたメリーナはいつになく緊張したような口調で言った。

 俺の緊張が移ったのだろうか。


 メリーナには、俺のお父様へのお願いごとが何なのかを既に話していた。


「ええ、レグルス様の婚約者になったからには、もう二度と情けないところを見せたくないの」

 俺はメリーナに向かってそう言った。

 俺だけじゃない、俺の中のアルキオーネの部分も同じ気持ちだった。


 俺はお父様の書斎の扉をノックした。

「どうぞ」

 お父様の声がした。


 俺は緊張しながら扉を開く。

「失礼致します」

 軽く会釈をしながら部屋に入る。


 嗚呼、大学の面接より緊張する。

 掌に「の」か「人」でも書いて飲み込んでおけばよかったと後悔するが、今更過ぎる。


「おお、どうしたんだい?」

 お父様は書類を書く手を止めて、笑顔をこちらに向ける。


「お父様にお願いがあります。わたくしに魔法と剣の稽古をつけてください。お父様がご無理であれば教師をつけていただくだけで結構です。何卒、お願い致します」

 俺はお父様に向かってそう言った。


「剣? アルキオーネ、まだ熱でもあるのかい?」

 お父様はオロオロと立ち上がると、俺の額に手を当てた。


「いえ、お父様。わたくし、痛感致しました。外でお茶をするだけで熱が出てしまうような弱く、何も出来ない身体をなんとかしたいのです。このままではわたくしはレグルス様の足でまといです。わたくしはもっと強くならねばなりません!」

 俺はお父様を強く見据えた。


 自分の弱さを痛感し、どうにかしなければならないのは事実であった。

 が、レグルス王子の為なんてのは嘘だ。

 俺は俺が生きる為に強くならなければならないのだ。

 しかし、それをバカ正直に言ったところでお父様が納得するはずがない。

 お父様が納得するアルキオーネが言いそうな理由を考えた結果がこれであった。


 現にお父様は唸りながら考え込んでいる様子だった。


「お願い致します」

 俺は念を押すように今度は頭を下げてお願いをした。


「魔法だけではダメかね?」

 お父様は諭すように優しく俺に問う。


「それでは足りないのです。わたくしに圧倒的に足りないのは体力です。レグルス様が危険に陥ったときですら助けられず、倒れてしまうような、そんな妃にわたくしはなりたくないのです」


「そうか……しかし……」

 お父様はドカッと座ると、困ったように頭を抱えた。


「お父様、お願い致します」


「いや、ダメだ。熱を出したばかりなんだ。一度に二つもなんて無理だ。まずは魔法から始めよう」

 お父様は頭を振ってからそう言った。


「では……!」


「魔法を使うのだって体力が要る。まずは魔法。熱も出さず、上手く魔法が使えるようになったら、剣術を教えることを考えてやろう」


「ありがとうございます!」

 俺は嬉しくて飛び上がりたいような気持ちになった。

 しかし、淑女はけしてそんなことはしないのだ。

 俺は静かに喜びを噛み締めた。


「今のところは考えるだけだぞ? プレイオーネが何と言うか分からないからな。相談しておくよ」


 プレイオーネ――お母様のことだ。

 確かにお母様は心配性だ。

 反対するかもしれない。

 それでも、考えてもらえるだけで嬉しかった。


「それで結構です。よろしくお願いします」

「剣はともかく、魔法は少々不得手だ。とりあえず、優秀そうな教師を探しておこう。これでどうだい?」

「ええ、お父様に教えていただけないのは残念ですが、とても嬉しいです。お願いをきいてくださり、本当にありがとうございます」

「では、教師が決まり次第、すぐにでも魔法の稽古を始められるよう体調を整えておくのだよ」

「はい、お父様!」


 こうして俺は魔法の稽古をつけてもらえることになった。


 これで、俺は変わるんだ。

 アルキオーネであることを理由に、できることを怠け、大切な人に辛い思いをさせてしまった情けない自分から。


 俺はレグルス王子以上の男になる。


 そして、両親もメリーナも泣かせずに、アルキオーネの運命を変えてやるんだ。

 俺は決意を新たにした。


 ***


 魔法を教えてくれる教師はすぐに見つかった。

 ディーナという女教師で教え方が上手い上に、俺の体調を見ながら授業の進め方を考えてくれるような優秀すぎる教師だった。

 ディーナのおかげで授業も楽しく、熱が出ることもなく、魔法の稽古は順調だった。


 アルキオーネはすぐにごくごく初歩的な魔法なら使えるようになっていた。

 マッチ棒に灯る火程度なら簡単に出せるようになったし、水もコップ一杯程度ならすぐに出すことが出来た。

 土の魔法はイメージが難しくまだまだだったが、五センチ程度の土を隆起させ、誰かを転ばせることくらいはできるようになった。勿論、淑女なのでそんなことはしないのだが。


 そんな中でもアルキオーネが特に得意だったのは風の魔法だった。

 風を起こし、落ち葉を集めたり、一時的に雨を凌げるような空気の層を自分の頭上に作ったりすることができるようになった。


 出来ることが増えてくると、魔法を使うのが楽しくなってくる。

 俺は勉強やレッスン以外の時間では積極的に魔法を使うことにした。

 例えば、使用人が落ち葉を掃いていたら魔法でそれを手伝うとか、洗濯物が飛んできたら魔法でそれを上手くキャッチするとか、生っている果物を採るときに使ってみたりとか、大抵は使用人たちのお手伝いのようなことをしていた。


 そうすると、使用人たちとも自然と打ち解けることが出来た。

 使用人たちは色々なことを知っていた。

 街の噂や、玉子が簡単に剥ける方法などといった裏ワザのようなもの、知らないことをどんどん教えてくれた。

 俺は思いがけず、たくさんの先生を手に入れることになった。

 覚えることがたくさんあるので毎日がとても楽しかった。


 魔法とはまた別に始めたことがある。

 それは筋トレと散歩だ。


 筋トレと言うと、腹筋だとか腕立て伏せを想像すると思うが、残念ながらアルキオーネは全くそれが出来なかった。


 仕方ないので俺はプランクをすることにした。

 プランクというのは、両肘をつき、うつ伏せの体勢になるもので主に体幹を鍛えることができるらしい。

 アルキオーネの場合は、通常のプランクすら無理だったので、週三回、膝をついたプランクをしている。


 前世の俺は「こんな半土下座姿勢が本当に筋トレになるのか?」と疑問に思っていたのだが、アルキオーネの腕や腹筋、背筋あたりに意外にも効いているらしい。

 翌日は筋肉痛で動くのがキツい。


 今後はスクワットやバックエクステンション、クランチ、腕立て伏せなんかもやりたいのだが、道のりは長そうだ。


 散歩の方は、毎日軽く三十分ほど庭園を歩いたり、廊下を歩いたりというものなので、大したものでもない。

 それでも、筋トレの翌日はあまりにもツラいので時間を少し短くしたり、散歩自体お休みにしたりと様子を見ながらやっている。

 アルキオーネの体だ。無理は禁物だもんな。


 ゆるくだが、運動を始めたことでお腹が空くようになったおかげでご飯が美味しく、心なしか肌ツヤがよい。


 勿論、筋肉を増やそうとしているので、食事はタンパク質多め、脂質少なめ、炭水化物少なめを意識はしている。


 と言っても、この世界ではタンパク質だとか炭水化物という概念がないらしい。

 メリーナなんか、「トウモロシのポタージュよりブロッコリーのスープにしてください」と言ったら、「どちらも野菜なのは一緒でしょう? 好き嫌いはよくありません」とお説教をしてくれた。

 トウモロコシとブロッコリーでは糖質の量が違うのだが、炭水化物という概念がないのだから糖質と言っても分からないのだ。

 俺は、野菜の糖質に関しては諦めて、ご飯は食べない、パンは食べないを突き通すことにした。

 その分、肉や魚介類、大豆製品、卵、乳製品は食べるからと約束をして。


 未だに果たされぬ、剣の稽古をつけてもらうこと以外は全て順調だった。

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