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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
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15.レグルスの誕生パーティー

 レグルスの誕生日も近くなったころ、化け物の調査が終わったという知らせが届いた。

 結果は特にそういった生き物がいたような痕跡はないということで、化け物はいないだろうと結論が出た。

 これでお父様も化け物退治をしなくて済んだわけで、俺の悩みはなくなった。


 しかし、何故、そんな噂が出たのだろう。

 考えてみたものの分からない。

 誰かが冗談で言ったことを本気にする人がいて噂になったのかもしれない。

 そこまで深い理由などないのだろう。


 そう思い直し、俺たちは安心してレグルスの誕生パーティーに出席することにした。


 レグルスの誕生パーティーは前回同様、大勢の人で賑わっていた。

 値踏みされているような視線をいくつか感じるが、もう慣れっこだったので、今更、胃痛を感じることはなかった。

 そんなに王子の婚約者が珍しいのかよ、としか思わない。

 少し神経が図太くなったみたいだ。


 俺は辺りを見回す。

 リゲルやミモザ、ミラの姿は見つからない。

 両親以外の知っている人が見当たらないので少し緊張するな。


「アルキオーネ!」

 レグルスの声がした。

 声の方を見ると、嬉しそうな顔をして人混みを掻き分け、駆け寄ってくるレグルスの姿があった。


 その後ろには、ちゃんとリゲルもいる。

 リゲルは今回もレグルスの護衛としてついて回っているらしい。

 本物の騎士のようだ。


「嗚呼、よく来てくれた、オブシディアン伯爵」

 レグルスは早口でお父様に挨拶をする。


「恐れ入ります。レグルス様、誕生日おめでとうございます」

「ああ、ありがとう」

 レグルスはなんだかそわそわしているような様子だった。


「オブシディアン伯爵夫人もようこそ」

「ありがとうございます。お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう。楽しんでいってくれ」


 レグルスはお母様にも早口で手短に挨拶を済ませる。

 そして、すぐに俺の方を向いた。


「アルキオーネ、久しぶりだな。会いたかったよ」

 そう言って俺の両手を掴むとぎゅっと握る。

 まるで逃がさないと言わんばかりだ。


 そんなことをしなくても逃げ出すつもりはないのだが、レグルスの目は真剣だった。

 というか目が()えーよ。


「ええ、わたくしも……」

「本当か!」

 俺の言葉を遮ってレグルスは嬉しそうに叫ぶと俺を抱きしめた。


 どよっと周りがざわめくような声がした。

 視線が痛い。


「同じ気持ちだなんて本当に嬉しいぞ」

 そう言って、俺の額にキスを落とす。


 あ?

 あああああっ!

 キス!?

 俺、またキスされたのか!

 嘘だろ?


 俺はすぐに顔を洗いたくなったが、軽く化粧をしているので、流石に手のようにトイレに行って水で洗うわけにもいかない。

 パーティーが終わるまで我慢するしか無さそうだ。


 クソ。レグルスめ。

 油断しきっていたらすぐこれか!

 お前は何処ぞの少女漫画の王子様かよ。

 壁ドン、床ドン、顎クイ、バックハグ……全部、女子が嫌がったら犯罪なんだからな!

 世が世ならてめぇは犯罪者だ。

 この世界に生まれたことを感謝しろ、馬鹿王子!


 周囲から女性の悲鳴が聞こえる。

 その声にすぐに我に返った。

 ここでそんな醜態を見せるなんて男が廃る。


 俺はレグルスをぐいっと押し、空間を作り出す。

「レグルス様ったら、こんなところで恥ずかしいですわ」

 そして、首を傾げ、微笑みながら、そう言ってやる。


 しかし、その裏では、ワナワナと身体が震えそうになるのを堪えるのに必死だった。

 男のキスなんて全然嬉しくないんだからな!

 恥ずかしいどころか鳥肌が立つかと思ったわ!

 ふざけんなよ!


「レグルスばっかりずるいよ」

 ぼそっとリゲルの声が聞こえた。

 えっと、嫉妬しているかのような発言が聞こえたのだが、俺ってば、まさか耳が悪くなったんじゃねえよな?


「リゲル?」

 俺は首を傾げてそちらを見た。


 俺の声にリゲルは笑顔を作る。

「お久しぶりです、アルキオーネ様」

 リゲルは社交界用の言葉遣いで話してくる。

 王子の婚約者と次期侯爵が仲がいいとなると、詮索されたり、下世話な妄想をされるからだろう。

 流石は気遣いのできる男だ。


「ええ、お久しぶりです、リゲル様」

 俺もリゲルに倣って丁寧な言葉遣いを心掛けた。


「先日は妹がお世話になりました」

「いえ、とても楽しい時間でした。また是非、泊っていただきたいと思っていますの」

「それはどうもありがとうございます。妹も喜びます」


 俺とリゲルが微笑みあっていると、面白くない顔をするのはレグルスだった。

 頬を膨らまし、じっと俺を見ている。


 なんだよ、その顔は。

 全く面倒臭い奴だな。


「今日はわたしの誕生日だぞ?」

 不貞腐れたような顔をしてそう言う。


「ええ、心得ておりますわ。レグルス様、お誕生日おめでとうございます。今年もレグルス様にとって幸多からんことをお祈り申し上げておりますわ」


 お前にふさわしいような婚約者を見繕ってやるから、俺なんて忘れてさっさと幸せになれよな!

 そうすれば俺も幸せになるし。

 そんなことを考えながら、俺はいつもよりも感情を込めて微笑んでやった。


「そうか! わたしの幸せを祈ってくれるのか!」

 レグルスの顔は急に明るくなる。

 アルキオーネの可愛い笑顔でイチコロなんだから、可愛いほど単純な奴だ。


「勿論です」

 俺は頷く。

 勿論、笑顔も忘れない。


 レグルスは嬉しそうに何度も頷いた。


「王子、そろそろ他の方も挨拶をお待ちです」

 リゲルはそっとレグルスに耳打ちする。


「嗚呼、そうか! じゃあ、また! パーティーを楽しんでくれ!」

 そう言ってから、すっかり上機嫌になったレグルスは俺に向かって手を振りながら、リゲルの誘導する方へ歩き出した。


「あ、ありがとうございます」

 俺はスキップでもしそうなレグルスの背中を見送った。


 ***


「貴女がレグルス王子の婚約者のオブシディアン伯爵令嬢ね!」

 腕を組みながら俺に声を掛けてくるご令嬢がいた。


 俺はそのご令嬢の顔を見るなり、さっと顔から血の気が引いた。


 そのご令嬢は、ピンクの綿あめみたいにふわふわした髪、童顔の甘ったるそうな顔をしていた。

 この手の顔の女の子は確かに可愛いのだが、俺は少し苦手なタイプだった。


 べたべたしてきて俺に好意があるんだと思いきや、告白すると「昴くんはわたしにとってお兄ちゃんみたいな存在なの。だから、恋愛対象じゃないの。ごめんね」と言われ、翌日には「昴君にストーカーされたの、怖い」なんて吹聴されるのだ。

 そして、俺は他の女子や男子から呼び出しを食らい、立ち直れないくらい精神的にボコボコにされるんだ。

 俺は騙されない。分かっているぞ!


 俺は辺りを見回した。

 残念なことにお母様とお父様は知り合いと話していてここにはいないし、ミラやミモザといった知った顔も近くにいないようだ。


「えっと、どちら様ですか?」

 俺は身構えながらご令嬢に尋ねる。


「私が誰でもいいのよ! 大事なのは貴女がレグルス王子の婚約者かどうかということよ」

「は、はあ……」

「何よ、その気の抜けた返事は!」

 ご令嬢は叫ぶ。


 うん、激しく地雷臭のするご令嬢だ。

 早くここから逃げ出した方がよさそうだ。

 俺はそう判断して、微笑む。

 困ったときは微笑むに限る。


「わたくしはオブシディアン伯爵令嬢です。間違いありません。ご用件は以上ですよね? それではさようなら」

「ちょっと待ちなさいよ!」

 ご令嬢が俺のドレスを掴む。


 ちっ、勢いに任せて逃げようとしたのだが、そうはいかないようだ。


「すみません。友人を待たせていますし、わたくしは貴女に用事がないので失礼します」

 俺はそう言って頭を下げた。


 因みに友人たちは未だ見つからない。

 待たせている友人なんていない。

 嘘である。


「だから、待ちなさいってば!」

 ご令嬢も負けじと俺のドレスを掴む。

 俺は走って逃げだしたかったが、ドレスが破られてしまうことを恐れて動けなくなった。


 俺が困って何もできずにただひたすら頭を下げていると、大きな声がした。

「何をしているんですか、アダーラ・モルガナイト!」

 大きなつり目に直線的で角度のある眉の少女がぴしゃりとご令嬢の手を払いのけた。

 そして、俺とご令嬢の間に入ってくる。


「ベガ様?」

 俺は驚いて目を丸くした。

 俺の味方になっている少女はベガ・カーネリアンだった。


 アルファルドルートのライバル令嬢であるベガが何で俺を助けてくれるのだろう?


「私の友人に何の用事ですか?」

 ベガの気の強そうな瞳がアダーラと呼ばれた少女を睨みつけた。


「別に、貴女には関係ないでしょう?」

「貴女の方が関係ないでしょう、下がりなさい!」

 ベガの声にアダーラは何も言えなくなる。


 ベガは俺に向かって微笑む。

「さあ、行きましょう、アルキオーネ様」


 俺はベガに手を引かれるまま、歩き出した。

 後ろでは悔しそうな顔をしてアダーラが俺のことを睨み続けていた。

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