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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
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13.ドレス選びも楽じゃねえ

 俺は複雑な気分だった。


 レグルスの気に入る女の子を探せば、結婚も死亡も回避できるのではないかという期待。

 嗚呼、レグルスの誕生パーティーが待ちきれない。

 勿論、それが終われば、俺の誕生日とミモザとのデートも待っている。

 楽しみすぎる。


 しかし、レグルスの誕生日パーティーの前には、化け物の調査の結果が出る。

 いなければよいのだが、化け物がいたとなった場合、お父様が討伐隊に参加することになる。

 激しく不安で胃が痛む。

 おかげで胃に効くというハーブティが欠かせなくなっている。


 まるで夏休み前の期末試験である。

 結果が出るまで憂鬱で仕方ない。

 いや、期末試験なら努力のしようがあるが、こちらは努力したくてもできないのだから性質が悪い。

 しかも、調査がいつ終わるのか明確な日付も分からない。


 力も権力もない俺にできる努力なんてない。

 何をして待っていろというのだ。

 祈祷か?

 神に祈りを捧げればいいのか?

 俺を女にした神に祈ってもお願いを聞いてくれる気が全くしないのだが。


 そんなもやもやとした気持ちを抱えたまま、毎日のように、農家のお手伝い、日々の勉強、お母様と剣の練習、花火の打ち上げの練習、筋トレ、その合間に使用人の皆とのふれあいタイムというスケジュールをこなしていく。

 やりたいこと、やることがたくさんあることはいいことだ。

 その分、じっくり考える時間もないから精神的に楽だ。

 体が多少重く疲れている気がすることさえ、心地いい気がしてくる。

 ドMかよ。


 さて、今日のスケジュールは、農家のお手伝いはなし。午前中は歴史の勉強、マナーのレッスン。午後はお母様と剣の練習。

 比較的時間にゆとりのあるスケジュールだ。

 空いてる時間はふれあいタイムと筋トレかな。

 花火の打ち上げの自主練も有りだ。


 俺は朝から肉を平らげながら、そんなことを考えていた。


「お嬢様、ドレスは如何致しますか?」

 食後のハーブティーを持ってきたメリーナが問う。


「ドレス?」

「はい。レグルス王子のお誕生パーティのドレスと、お嬢様のお誕生パーティのドレスです」

 メリーナは自分が着る訳でもないのに楽しそうな笑顔を浮かべて言う。


「……わたくしが選ぶと大変なことになりそうなので、今回もメリーナにお願いしてはいけませんか?」


 男の服装ならいざ知らず、女の子の服装を選ぶセンスがゼロな俺には、富士山、いやエベレスト級に高いハードルのように思える。

 だって、アクセサリーから靴、ドレスに髪型まで考えなきゃいけないんだろ?

 メリーナに全部任せた方が上手くいくのだから、俺が選ぶよりその方が絶対いいだろう。


「二つも考えるのは大変なんです。お願いします」

「じゃあ、以前の組み合わせでいいです」

「お嬢様の身長がどれだけ伸びたのかお忘れですか?」


 そうか。俺は育ち盛りの年頃だった。

 身長だって伸びるはずだ。

 靴のサイズだって変わっているかもしれない。


「じゃあ、レグルス様の誕生パーティーとわたくしの誕生パーティー、別のものではなく一緒のドレスで小物を変えてください」

「そんなことしたら、レグルス様に手抜きしたって思われてしまいますよ」

「思われても結構ですよ」

「何を言ってるんですか。王子に恥かかせてはいけません。全てはオブシディアン家のためです。今日は午後に仕立て屋に行きます!」


 きた! メリーナの最終兵器。「オブシディアン家のためです」だ。

 こう言われては何を返しても親不孝者と取られかねない。


 しかし、こちらには午後からお母様と剣の練習というスケジュールがあるのだ。

 こっちだって必殺「家族との団欒を大切に」という技があるのだ。

 お母様と一緒に過ごす時間は限られている。

 家族の時間を邪魔できるメリーナではないはずだ。


「午後からはお母様と剣の練習が……」

「いいわね。お母様も行ってもいいかしら?」

 それまで黙って俺たちのやり取りを見ていたお母様が口を挟む。

 行ってもいいというのは勿論、仕立て屋に行くのにということだろう。


「え?」

「あら? ダメだった?」

「でも、剣の練習……」


「それなら帰ってきてもできるじゃない」

 お母様はとてもいい笑顔で首を傾げる。


 メリーナは勝利を確信したようににっこりと微笑んだ。


 あああ、退路を断たれた。

 味方だと思っていたお母様は敵だったのか。

 容赦なく後ろから機関銃で撃たれた気分だ!

 悪気がない分、つらい。


 そういうわけで俺はメリーナとお母様に追い詰められ、午後からのお出かけを余儀なくされた。


 ***


「もうこれでいいでしょう!」

 仕立て屋に来てからかれこれ二時間くらい経つ。

 俺は痺れを切らして叫んだ。


 この世界の洋服は既製品というものがほとんどない。

 デザイン画を選んで、布を選んで、オプションをつけて、採寸して、仕立ててもらう方式だ。

 まるで、キャラメイクの自由度が高すぎるゲームみたいだ。

 何時間かけてもキリがない。


 メリーナとお母様は不服そうに唇を尖らせた。

 二人とも可愛いけど、それで許されると思うな。

 俺はもう限界なんだよ。


「じゃあ、お嬢様はどれが良かったですか?」

「私のお勧めはこれね」

「嗚呼、それは私も好きです」

 メリーナとお母様は女学生のように楽しそうに、チュールのついているドレスのデザイン画を指す。


「下の布は赤、チュールは黒がいいと思うの」

「そうですね。伯爵令嬢の黒髪には赤がよく映えますから」

 お母様の言葉にお針子が頷く。


 赤に黒……派手すぎるだろ。

 こんな色を着たら顔が負けないか?


「あの、私はもっと地味な……」

「じゃあ、これは? これも似合うと思うの」

 お母様は俺の言葉を遮りながら、スパンコールとビーズ、ラメが散りばめられたドレスのデザイン画を指す。


「嗚呼、それも素敵でした! それなら生地を紺のベロアにしたらいいと思うんです。きっと大人っぽくて夜空みたいで可愛くなるはずです!」

 メリーナは興奮したように拳を握り、手を震わせて力説した。


「それも派手……」

「あ、ラベンダー色のドレスで白い刺繍も可愛いですよね」

「アルキオーネはパステルカラーも似合うのよね。パステルカラーのグリーンの生地で素敵なものがあったわよね。あれに銀の糸で刺繍をしたらどうかしら? 白も捨て難いけど、キラキラしていた方が可愛いと思うの」


 ダメだ。このままだと一生止まらないぞ。

 俺がさっさと決めないと終わりそうもない。


「お母様たちの最初に言っていた、紺色のやつと赤いやつで結構です」

 俺は観念したように二人に言った。


「やっぱり、そうだと思ってました!」

「イメージがガラッと変わるからこの二つにしましょう!」

 二人は嬉しそうに頷く。


 俺は採寸をしてもらう。

 その間にお母様とメリーナがアクセサリーや靴について相談しているようだった。


 もう全部二人の言う通りにしよう。

 困ったら最初に言われたやつにする。

 よし、そうしよう。

 採寸中にそう心に決めた。


 採寸が終わると、案の定、二人は悩んでいる様子だった。


「やっぱりダイヤモンドがいいですかね」

「レグルス王子の誕生パーティーは夜だから光るものがいいけれど、あまり華美じゃない方がいいわね」

「そうなるとこれはちょっと……」

「嗚呼、アルキオーネ、いいところに!」


「はいはい、靴は靴屋に、アクセサリーは宝飾店に行ってから決めましょうね」

 俺はため息を吐いた。


 ***


 それから靴屋と宝飾店をまわった。

 俺は最初から決めていた通り、お母様とメリーナに最初に言われたものを選んだのでここからは早かった。


 全てのものを選び終える。

 あとは出来上がったドレスと選んだ小物を屋敷に持ってきてもらって、細かいところを直してもらうだけだ。


 トータル四時間半。

 長かったぜ。

 これでやっと家に帰れる!

 そう思ったのに……


 宝飾店から出たときだった。

「嗚呼、泥棒!」

 なんだか頼りない男の人の声がした。


 俺とお母様は声のする方を向いた。

 向こうからこっちめがけて男が走ってくるのが見えた。


 もしかして、あれが泥棒?


 走ってくる男は何やら喚いている。

 聞き取りづらいが、「捕まえられるもんなら捕まえてみろ」とか、「トロイやつから何を盗ってもいいだろう」とか叫んでいるようだ。

 ヤバい言動をしているアイツは泥棒に間違いなさそうだ。


「アルキオーネ、下がっていなさい」


 俺はお母様の言う通り、後ろに隠れた。


 いや、まさかとは思うが、お母様はあの男を倒すつもりじゃないだろうな。


「お母様?」

「課外授業よ。立ち向かってくる相手はどうやって倒すか。見てて頂戴」

 お母様はそう言って微笑んだ。


 やっぱり、倒すってことかよ。

 いつもは「危ないことはやめて」と泣くくせに自分はいいのか?


「ナイフも持っていないし、動きも鈍いから大丈夫ね」

 お母様はそう呟く。

 そして、グリーンに白の刺繍の施された日傘を構えた。

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