9.収穫のお手伝い
「アルキオーネさま、魔法の方は順調?」
お世話になってる農家の四女、ドルカが問う。
俺は農家で収穫のお手伝いをしているところだった。
これが終わったら、家に帰って午後からダンスのレッスンと勉強、剣の自主練が待っている。
田舎暮らしってスローライフじゃなかったのかよ。
毎日毎日やること沢山じゃねぇか。
と思いつつも、自分が望んだことなのでお口にチャックだ。
「えーっと……」
俺はどう答えるか悩みながら、フィサリスというトマトに似た野菜の入った箱を運んでいた。
ドルカの言う魔法とはディーナと練習している花火の魔法のことだった。
実はディーナにお願いした花火の魔法はこの農家の子どもたちのリクエストであった。
何かの話の拍子に俺がガランサスで花火を見たって言ったんだ。
そうしたら、子どもたちが「花火を見てみたい」って言い出した。
でも、花火を作って飛ばしてとなると、予算も時間も掛かる。
それじゃあ、魔法で再現できないかと言う話になり、何故か豊穣祭までに俺がその魔法を覚えられるかという賭けになったのだ。
確かにイマイチ派手さのない豊穣祭に花火でも打ち上がったら盛り上がるだろう。
せっかく、ミモザも豊穣祭に参加してくれるのだ。
楽しい祭りにしたいと俺はその賭けに乗ることにした。
今のところ、光の球を飛ばすところまではできるようになった。
しかし、花火のように見えるようにするには、その後が肝心だ。光の球を空中で四方に弾けさせると、花火のようにぱっと光が咲くのだ。
俺の場合、その弾けさせるタイミングが上手くいかず、光が消えてしまう。
ディーナは色々な方法を使ってタイミングを教えてくれるのだがなかなか上手くいかない。
そこさえ上手く行けば、弾けた後の光の消えるタイミングを変えたり、弾けさせる回数を変えたりすることで、様々な花火を再現することができるというのにだ。
「勿論、上手くいってるよね」
同じく農家の三男のソロンが俺の代わりに答える。
ソロンは俺よりも二つも年下のくせに俺と同じものを持って、俺の倍の速さで歩く。
今、ちょっと躓いてるんですなんて言えるわけがない。
俺はドルカを見た。
ドルカはこちらをキラキラした瞳で見つめていた。
「勿論です」
俺は年上の見栄でそう胸を張って答えた。
「本当に? 豊穣祭でやったら絶対盛り上がると思う。楽しみだなあ」
ドルカはそう言って、俺の倍の数の箱を運んでいた。
因みにドルカは俺より一つ下だ。どうも体力が違うらしい。
「楽しみにしていてくださいね」
俺はソロンとドルカに笑いかけた。
確かにドルカの言う通り、花火の魔法が出来るようになったら、豊穣祭は盛り上がること間違いなしだ。
早く出来るようになればいいのだが。
「フランクさんの楽しみにしてるって」
三女のミルカが俺たちの会話に入ってくる。
「ははは、頑張りますね」
俺は乾いた笑い声を上げてそう言った。
フランクが知ってるってことは色んな人が知っているんだろうな。
できなかったらなんて言われるんだろう。
できないくせに大口叩いてとか悪口を言われる未来しか見えない。
いやいや、頑張ろう。
お父様とお母様、オブシディアン家の名前に泥を塗るようなことはできないもんな。
俺は頭を振った。
俺たちはフィサリスの箱を納屋に運び込む。
まだ、畑には収穫したフィサリスが沢山あるんだよな。
早く運ばないと。
「お、アルキオーネ! 花火とかいうのはどうなってる?」
長男のキリルが肩を叩いた。
キリルは農家の長男らしく浅黒い肌で健康そうでマッチョな体をしている。
いい三角筋と大腿四頭筋してるんだよな。
確か年は俺が死んだ歳くらいだったはずだ。
「先ほどその話をしていたんですよ。一応、練習は順調です」
俺はしれっと嘘を吐いた。
嘘は悪いことかもしれないが、嘘から出た真って言葉もあるだろ。
順調だと思い込んだ方が上手くいきそうな気もする。
イメージトレーニングって大事だって言うし。
「豊穣祭でやるつもりなんだろ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫って何かあったんですか?」
「お前、領主の娘なのに知らないのか?」
キリルはため息を吐く。
「う、すみません」
俺は言葉に詰まった。
お父様やセバスティアンは何か言っていたかな。
考えるも何も思い当たる節はない。
「化け物が出たから豊穣祭が中止するかもって噂があるんだよ」
ソロンが箱をどさりと置いてそう言った。
俺たちが話している間にもう戻って箱を持ってきたらしい。
「化け物?」
「そう、口が大きくて鋭い牙がたくさんあるらしいよ」
「あら、私が聞いたのは目が沢山あるって……」
「子供を攫って食べるんだぞ」
「毛むくじゃらで手足がたくさんあって不気味らしいわよ」
俺の質問に口々に答えてくれる。
皆の話をまとめると、口が大きくて、目や手足が沢山あって、子供を攫って食べる毛の生えた不気味な化け物が出たということらしい。
そんなわけあるかよ。
ここがファンタジーの世界でも、今までそんな生き物を見たことも聞いたこともないぞ。
ここにいる生き物のほとんどは前世の生き物に似ている。
違いといえば、名前が違うとか、簡単な魔法が使えるとか、サイズがやや大きめだとかその程度の違いであからさまに化け物みたいな造形をした生き物はいない。
ドラゴンとかユニコーンとかキマイラだとか、そういう生き物はここでだって絵本や物語の中だけの幻想動物だ。
じゃあ、絵本や物語の中にそんな化け物のごった煮みたいな生き物が出てきたものがあったかというとやっぱり覚えがない。
「そんな化け物が出てくる物語ってありましたっけ?」
「物語じゃないの。本当なんだから!」
ドルカが大きな声で叫ぶ。
どうやら俺が信じきっていないことが伝わったらしい。
「いえ、信じてないわけではないんです。ちょっとくらいはいるかもしれないと思っています。でも、そういう化け物にもお父様やお母様がいるはずでしょう? もしも本当にそういう化け物がいるなら以前にも目撃されているはずです。だとすれば物語に出てくるはず。人を攫って食べるのなら注意しないといけませんから」
「つまり、そういう物語がないということは嘘の可能性か高いってこと?」
ソロンは興味津々に俺に顔を近づけて聞く。
いや、待てよ。
ここでいないと断定して後々そういう化け物が見つかったとなるとオブシディアン家の沽券に関わるな。
ここは少し濁しておく方がいいだろう。
「嗚呼、でも、そうとも言い切れません。今まで見つかっていない生き物が突然見つかることもありますから」
嘘じゃない。
前世の話だが、地球上では毎年何万種類も新種が見つかってるって聞いたこともあるし、きっとこの世界だって似たようなもんだろう。
「そうなると、やっぱり中止になるかも」
「いやいや、領主様が何とかしてくれるだろ」
「討伐隊も出るって噂もあるしね」
「じゃあ、安心ね」
皆、口々に話して自己解決していく。
俺が話に入る隙間がない。
いやいや、討伐隊とか俺は全く知らないぞ!
勝手に納得しないでくれ。
これで討伐隊とか出なかったら完璧に俺が悪者になるじゃないか。
そう言いたいのに入れない。
俺がオロオロしていると、兄妹の後ろにおかみさんの姿があった。
おかみさんはキリル、ミルカ、ドルカ、ソロンの頭に順番に拳骨を落としていった。
「何をサボっているんだい! 日が暮れちまうよ!」
おかみさんは大きな声で怒鳴った。
俺たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。




