3.楽しいお泊り
さて、お泊まりイベントといえば何をするのだろう。
やっぱり、一緒にお風呂に入って、ご飯を食べて、枕投げして、恋バナかな。
そう思っていたのだが、うちには二人が同時に入れるような風呂はない。
だから、残念だが、風呂場で裸で遭遇とか、一緒にお風呂みたいなイベントはなかった。
いや、普通、男女で過ごすってなったら、絶対にお風呂イベントはかかせないだろう。
それがないなんてどうかしてる。
そう思ったものの、ないものはないのだ。仕方がない。
それに、ミモザの裸を見たとしよう。
もしも、リゲルにバレたらどうなるか。
一応、女だから殴られたり、斬られたりはしないとは思う。
でも、下心があって見たとなったら話は別だ。
バレたら絶対にただじゃ済まないだろう。
やっぱり、お風呂イベントがなくて正解だ。
これで良かったんだ。
俺は気を取り直して、夕食をとることにした。
今日はお父様とお母様も揃っての食事だ。
いつもお父様は忙しいし、お母様も夜遅くに帰ってくるときもある。
こうしてみんな揃ってというのは本当に珍しいことだ。
多分、一週間か二週間ぶりだろう。
それに加えて、今日はミモザもいる。
食卓はとても賑やかだ。
近くにメリーナや使用人たちがいるとはいえ、一人の食事というのは味気ないものだ。
やっぱり、食事は複数人でとる方がいい。
お父様が先日まで居た国の話から、王都で流行した菓子、ジェード家の領地の特産品や政治についてなどなど、色々な話が食卓にのぼる。
こんなに楽しい食事は久しぶりだった。
食事の後は、枕投げかな?
でも、ミモザも俺もご令嬢だから、枕投げははしたないか。
それなら定番の恋バナだよな。
ミモザはやっぱりアルファルドのことだろ?
俺は……誰もいない。
怪しまれるといけないし、レグルスのことでも話すか。
そんなことを考えながら俺は食後のデザートまで綺麗に平らげた。
楽しい食事の後はいよいよ就寝前の恋バナタイムだ。
どうしよう。
本当の修学旅行みたい。
わくわくする!
「ミモザ様、お話をしましょう」
俺はベッドの上に座り込んで、自分の横をぽんぽんと叩く。
「あの、本当にこんな姿で?」
ミモザはまだ扉の近くでもじもじとしながら、顔を真っ赤に染めていた。
俺は本物の美少女のネグリジェ姿が見れたことに感動していた。
アルファルドのネグリジェ姿は確かに可愛らしかったが、あれは男だからな。
ありがたみが違う。
「ええ、勿論です! パジャマパーティーならパジャマは必須です!」
俺は力いっぱい頷く。
「お姉様は恥ずかしくないの?」
ミモザは自分のネグリジェに目を落とした。
どうやら、ネグリジェ姿が恥ずかしいらしい。
そうか。そう言えば、これは恥ずかしい恰好だった。
でも、俺はアルファルドにも、リゲルにも、ネグリジェ姿を見られている。
ここまでくれば、今更隠すこともないだろう。
一応、見た目は同性なんだし。
「ミモザ様になら大丈夫ですね」
そう言って、もう一度、ぽんぽんとベッドを叩いた。
早くしないと、メリーナかお母様が来て「まだ起きているんですか?」って言われてしまう。
そしたら、さっとミモザと布団に隠れてやり過ごすんだ。
修学旅行にありがちな先生たちの巡視みたいだ。
それすら、なんだか待ち遠しい。
俺は期待に満ちた顔でミモザを見つめた。
「それなら……」
ミモザは観念したように俺の横に座った。
「さて、ミモザ様、何についてお話しますか? やっぱり二人きりじゃないとできない話がいいですよね」
「え!」
ミモザは大きな声で叫ぶ。
おいおい、あんまり大きな声で叫ぶとまずいぞ。
「どうしました!?」
大きな音を立てて、扉を開けたのはアントニスだった。
「嗚呼! なんでもないから大丈夫です、アントニス!」
俺は慌てて叫んだ。
「そうでしたか、失礼しました」
アントニスは顔を引っ込めた。
ほらな。
アルファルドの母親が侵入した一件から、叫ぶとアントニスが入ってくるシステムが採用されたんだ。
大声を出そうもんならすぐに飛んでやってくることになっている。
「ミモザ様、大きな声を出してはいけません。秘密の話です。小さな声でお話しましょう」
「そうですね」
ミモザは何度も頷いた。
「じゃあ、何を話します? やっぱり、恋の話ですか?」
「恋ですか?」
ミモザは緊張したような声を出す。
やはり、想い人がいるらしい。
俺はもう知ってるぞ。
アルファルドだろ。
そう言ってやりたいのを堪える。
相手はツンデレだ。
無理に言わせようとすれば、絶対に認めない。
寧ろ反発するだけだ。
一度失敗しているからな。
同じ轍は踏まないぞ。
自然と言える雰囲気を作って、俺も協力する流れにしなければならない。
「ええ、そうです。お年頃なんですから、そういうお話がしたいんです」
「やっぱり、聞きたい?」
「やっぱりと言うことはあるんですよね?」
俺の言葉にミモザはしまったという顔をした。
ふふふ、ミモザさん、甘いですよ。
本当は恋バナしたくてしょうがないんでしょう。
だから、ついぽろっと言ってしまうんです。
俺にはすべて分かっているんだから隠しても無駄です。
「ほら、男性もいないし、お母様やメリーナたちも聞いていないから本心を語るのにすっっごくいい機会じゃありませんか?」
俺は「すごく」のところを強調するように力を込めてそう言った。
「でも……」
「わたくしもぜひしたいなって。ダメですか?」
俺はミモザの手を取る。
そして、ミモザの目をじっと見つめた。
ミモザは暫く考え込むようにうーっと唸る。
「そうよね……普段はそういう話はできないもの。しましょう」
観念したように頷く。
「ありがとうございます」
「じゃあ、お姉様からね」
「え……」
「えじゃないでしょう? お姉様も話したいのだから、お先にどうぞ」
しまった。
俺の恋バナ、何もないんだった。
いや、俺はレグルスの話をしようって決めていたんだ。
よかった。一応、基本方針は考えておいて。
でも、レグルスのこと好きって何処が好きなんだろう。
やっぱり、一途なところ? それとも、純粋なところ? 鷹揚としているところ?
話の最初を譲ってくれるのは優しさなんだろうけど、困る!
ミモザがわくわくとした目で俺を見つめる。
そんな期待されても面白いエピソードなんてないですよ、ミモザさん!!




