表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
四章 十四歳、田舎生活謳歌してます。
74/126

1.領地での暮らし

この章は十四歳といいつつ、誕生日前なので十三歳~十四歳の話になります。

メインが一応、十四歳の予定なので十四歳とさせてもらってます。

「いいか、俺がこの女を殺すんじゃない。この国がこの女を殺すんだ!」

 目の前の男が叫ぶ。


 ミモザは覚悟を決めた。

 いよいよ、自分の命も終わりか。

 ぐっと目を閉じ、来るであろう衝撃と痛みを待った。


 剣の衝突する音がした。

 甲高く、まるで金属と金属がぶつかり合うような音。


 自分が待っていた音ではない。

 そう思ってミモザは恐々と目を開いた。


 濡羽色とでもいうのだろうか、黒は艶やかに青や紫帯びて輝く。

 そこに濃い紅色の布がはためいた。

 それが少女の長い髪と真紅のストールだと気付くまで時間はかからなかった。

 ミモザはその黒と赤のコントラストに目を奪われる。

 こんな、命の危機というときに目を奪われるなんてと思うが、理性とは逆に瞳はじっとそれを見つめていた。


「ミモザ様!」

 気遣うように振り返る少女の瞳はヘーゼルから緑に輝いていた。

 不思議な色だとミモザは思った。


「ど、うして?」

 ミモザはうわ言のように呟く。


 見覚えのある顔が微笑みを作る。

「どうして? 当たり前じゃないですか」

 余裕のない声。


 いつもそうだ。

 危険を顧みず、この(ヒト)は私を助けに来る。


 まるで、絵本の中の騎士のようだ。

 姫に忠誠を誓う騎士は姫に危機が迫ると、ちょうどこんな風に助けに来る。

 子どもの頃は絵本の中のそんな世界に憧れていたことを思い出す。

 勿論、ミモザはそんな世界に憧れるような子どもではない。

 それでも、目の前の少女の行為に胸をときめかせていた。


 鼓動する心臓の音を聞きながら、ミモザは少女の言葉を待った。


「勿論、わたくしがそうしたいから、です!」

 そう言って剣を弾く。


 遅れて斬撃の音がした。

 目の前の少女が切られたのかと驚いたが、違ったらしい。

 倒れたのは自分を切り殺そうとしていた男だったことに気づく。


 そして、周囲から、わっと歓声が上がった。


 ***


 空を見上げる。

 鈍色に暗く垂れ込める雲は雨粒を落とさずに器用に這っていく。

 昼間だというのに思わず部屋の明かりをつけたくなるような天気だ。


 王都での生活と比べてオブシディアン伯爵領での暮らしは穏やかの一言に尽きる。

 数か月前まではレグルスやリゲル、ミモザにアルファルドが俺の周りをうざったいくらいにまとわりついてきたのにそれがない。

 心が休まるような、物足りないような複雑な心境だ。


 勿論、教師や使用人の皆は優しく、色々なことを教えてくれるし、メリーナやアントニスだっていつも一緒にいるのだが、やっぱり友だちというのとは違う。

 俺って結構、寂しがり屋なのかも。


 俺はため息を飲み込んだ。

 今、ため息を吐いてしまえば色々なものが自分の中から出ていってしまいそうだと思った。


 なんだこのセンチメンタルな気分は。

 こんなの全然俺らしくない。


 気分を変えよう。

 そうだ、レグルスに嫌われる作戦でも考えるのはどうだろう。

 アルファルドの件もあって忘れていたけど、婚約破棄の件は全く進んでない。

 このままだと、俺は普通に死ぬか、レグルスと結婚しなきゃいけない羽目になる。

 一口に嫌われると言っても、死ぬほど嫌われたりしては俺の生命も危ない。上手い具合に嫌われないとならない。


 今までやってみたものは、手紙を素っ気なく返す、レグルスの嫌いなカエルをプレゼントする、化粧を滅茶苦茶派手にしてみる、会話をするとき「はい」しか言わない、目の前で大声で叫んでみるなどなど。


 全部効果がなかったんだよな。

 だって、レグルスの奴、全部いいように解釈するんだぜ?


 手紙を素っ気なく返すのはシャイな性格だから。

 嫌いなものをプレゼントするのは好き嫌いをなくす為。

 派手な化粧は少しでも魅力的に見せたいから。

 会話が素っ気ないのは体調不良。

 目の前で叫ぶのは元気な証拠。


 お前はどんだけいい奴なんだよ。

 好意的に解釈し過ぎだろうが。

 本当にこんな奴が王子で大丈夫なのか?


 いや、こんな王子にしてしまったのは、多分、俺がレグルス誘拐事件で受けるであろうトラウマをないものにしてしまったからなのだ。

 トラウマがあったらあったで、暴君俺様になるわけだから、結果としてはこっちの方が付き合いやすくていい奴なんだけど。


 こうなったら、責任を取るしかないか。

 もう、いっそ結婚してみるとか?

 子どもをつくるとか無理だけど、それ以外なら仲良くやれそうな気もする。

 今のレグルスは俺様じゃないし、虐めてこない。

 寧ろ、未来の国王なわけだからお金も持っているし、包容力もあって、俺に優しい。男であること以外は本当にいい婚約者だ。


 でも、その唯一の難点が俺としては譲れないポイントだ。

 レグルスが女の子だったらな。

 きっと可愛くて、ちょっと我儘で、純粋な子なんだろうな。

 俺は有り得もしないことを妄想する。


 いいな、レグ子。

 レグ子なら結婚してもいいのに。


 いや、そうなってくると世継ぎ問題があるよな。

 子どもを作らないのは無理だろうし、そもそも、俺が女でレグルスが女の時点で婚約はないよな。


 俺はため息を吐いた。

 嗚呼、結局、ため息を飲み込んだ意味がなかったな。


 ノックの音がした。

「お嬢様、お手紙をお持ちしました」

 いくつもの封筒を持ってきたのはメリーナだった。


「ありがとう」

 俺は手紙を受け取った。


 手紙は三通。差出人を確認する。

 レグルス、リゲル、ミモザ、いつもの面子だ。

 レグルスは今まで通り週二、三回ペース、リゲルは週一、ミモザは返事を送るとすぐに手紙をくれる。

 こういう、よく手紙を書く人のことをなんと言うんだっけ。


「皆さん、筆忠実(ふでまめ)ですね」


 嗚呼、それだ。

 前世では手紙なんて書く習慣なんてなかった俺は一通書くにも時間がかかるというのに、皆よくやるよ。

 おかげで腱鞘炎になりそうだ。


「そうですね。わたくしは筆無精な方なのでなかなか返事を書くのが辛いです」

「そうだったんですか? 楽しそうに書いているように見えていましたが……」

 メリーナは意外そうな顔をしてから含みのある笑いをする。


 俺は首を傾げた。

 一体何を想像しているのだろう。


「私に照れ隠しするなんてよっぽど皆さんのことがお好きなんですね」

「え?」

「だって、手紙を受け取ったときも嬉しそうに顔を綻ばせていたじゃないですか。あの顔、手紙を書いているときとか、皆さんと会っているときの顔と一緒でしたよ?」


 メリーナの言葉に顔が熱くなった。

 どんな顔して手紙を受け取っていたんだよ。

 確かにアイツらに会えないと退屈なのは事実だが、アイツらは俺を振り回して疲れさせる奴らだぞ。

 振り回されるのが楽しいだなんてドMになった覚えはない。


「それは違います。断じて違うと思います」

「ほら、また照れ隠しをする」

「だから、それはー……もういいです。これからディーナの授業があるんです。その前にこれを読みたいので、メリーナは下がっていてください」


 俺はメリーナの背中をぐいぐいと押しやり、扉の方に向かう。


 メリーナはこちらに首を傾け、「はいはい、分かりました」と言いながら、微笑んでいた。

 完璧に子ども扱いだ。

 ムカつくが、これ以上何か言われると面倒だ。

 ここはぐっと堪えよう。


 俺はメリーナを追い出すと、手紙を広げた。


 レグルスの手紙だ。代わり映えのしない白い便箋に、今回はデネボラの様子が綴られていた。

 デネボラはまだ体調が悪く、時折傷が痛むので蟄居しているとのことだ。レグルスの手紙で蟄居という言葉を知ったが、どうやら部屋から出ない状態を指しているようだ。

 貧血が酷く、体調が悪い日になるとベッドで体を起こすのもやっとの様子らしい。

 艶やかな金の髪は艶を失い、ふっくらとした健康的な美貌はやつれ、幽霊のように儚い。

 見るからにおいたわしい姿だという。


 レグルス誘拐事件からもう十か月も経つというのに、まだ体が癒えないというのはきっと他に何か別の病気を患っているのだろう。心配だな。

 とはいえ、俺にできることは何もない。

 今度、お見舞いに伺うことができるかレグルスやお父様に相談しよう。


 俺は次の手紙を広げた。

 リゲルの手紙だ。どうやらこれは悩み相談の手紙らしい。

 こういうのは新聞の悩み相談に投稿した方が有益な助言が得られるだろうに。


 手紙の内容はこうだ。

 最近、ミモザの様子がおかしい。

 いつも手紙を書いているし、物憂げな表情をして窓を見ながらため息を吐くことが増えた。

 時々、「離れたところにいるから駆除できない。悪い虫をどうやって駆除しようか」なんて独り言を呟いている。

 もしかしたら、ミモザは病気か何かなのかもしれない。

 どうしたらいいだろう。


 嗚呼、なるほど。

 俺は手紙を読みながら頷いた。


 リゲルよ、それはきっと恋の病という病気だ。

 だから、心配しなくても大丈夫だ。

 なんだ。ついにミモザの恋がリゲルにバレたのかと思って焦ったが、勘違いをしているならそのままにしておいた方がいいだろうか?

 相手がアルファルドだということがバレたらヤバいしな。

 リゲルとアルファルドは仲が良くない。

 バレたら絶対反対されるだろう。


 よし、俺は知らないふりをして「ミモザ様が心配ですね」とか適当な手紙を書いておこう。

 それがいい。人の恋路を邪魔する奴は犬に食われて死ぬがいいとか言われるし、よほどの覚悟のない奴が邪魔していいわけがない。

 そもそも友人としては、ミモザとアルファルドがくっつくのは賛成派だし、俺が言うのもなんだけど、リゲルは少し過保護だ。

 妹離れのいいチャンスだろう。


 俺はリゲルの手紙をそっと閉じた。


 よし、最後はミモザだな。


 香水なのだろうか。封筒を開くと、石鹸のような清潔感のある香りがした。

 ミモザらしい香りだ。


 白い便箋には淡いミントグリーンのラインが引かれており、四葉のクローバーと白い花の絵が描かれている。

 男どもの素っ気ない便箋と違って、女の子の選ぶ便箋の可愛いこと。

 貰っただけでテンションが上がる。

 俺も手紙出すときはこういうところに気を使おうっと。


 さて、内容の方はどうかな。

 便箋に目を落とす。


「お嬢様!」

 突然、メリーナの声がした。

 さっき出ていったばかりだというのに何の用だろう。


 俺は慌てて手紙をテーブルの上に置く。


「メリーナ? どうかしまし、た?」


 いきなり扉が開いた。


 俺は呆然とそちらを見つめた。

 深緑の髪に翡翠のような柔らかい緑色の瞳の少女が大きく両手を広げて立っている。

 その後ろには困った顔をしたメリーナがいた。


「ミモザ様?」


 ミモザはつかつかと音を立てて、俺の前に立つ。

「お姉様! 私、今日からここに泊ります!」

 そして、大きな音を立ててテーブルを叩いた。


 嗚呼、神様、これは物足りないと思った俺へのプレゼントですか?

 俺は頭を抱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ