表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
三章 十三歳、子育て始めました。
62/126

12.察しがいいのか、悪いのか

 ミモザが扉を開けると、そこにはリゲルがいた。


「アルキオーネ!」

 リゲルは俺たちを見るなり、椅子から立ち上がった。

 そして、大きな足音を立てて歩いてくる。

 普段は物音一つ立てずに走ることだってできるはずなのに、なんでそんなに大きな音を立てて歩く必要がある。

 もしかして、何か怒らせたか?


 考えてみるも、思い当たる節はない。

 最後に会ったのは、アルファルドを見つけた次の日の朝。

 それ以来、リゲルに会うことはなかったはずだ。

 会ってもいないのに怒らせるようなことができるわけないよな。

 いや、もしかしたら、会いに来ないことを怒っているのか?

 でも、実の母親に狙われているアルファルドを連れてリゲルの家に行くなんてできないし、怒られても困るんだが。


 リゲルが俺を見下ろす。

 やっぱり、リゲルは身長が高い。

 頭二つ分くらい大きい気がする。

 こうして見下ろされると威圧感があるな。


「どうしたんですか?」

 俺はリゲルを見上げて問う。

 いろいろ考えた末に、ストレートに本人に聞くのが一番と判断した。


「どうしたじゃないよ。なんで、アイツがいるんだよ!」

 戦ってもいないのに、珍しくリゲルは声を荒げる。


「アイツ……アルファルドのことですか?」 

「そう! アイツはユークレース家に帰ったんじゃないのか?」

「帰ったけど、色々ありまして、オブシディアン家で預かることになりました。レグルス様から何か聞いてないんですか?」


「アルファルドがアルキオーネの家にいることしか聞いてない。詳しくは話せないと言われた!」

 リゲルは不快感を滲ませながら語気を荒くする。


 おいおい、レグルス。

 リゲルに何にも説明してくれなかったのかよ。

 確か、帰り際に「わたしからリゲルには説明しとくから安心してくれ」とか言ってはずなんだが。


「詳しくは話せないのはわたくしも一緒なんです」

 レグルスが言わないのであれば、なおのこと俺が言えるはずもない。

 当事者のようで、オブシディアン家は部外者なのだから。

 俺は困ってしまって、そういうことしかできなかった。


 リゲルは俺の言葉を聞くなり、眉尻を下げた。


 おい、ここで泣くのは反則だからな。

 メリーナやミモザが泣くだけで困ってしまっていたのに、どうしたらいいんだ。

 女が男を慰めるときって肩でも叩けばいいのか。 


「あ、あの、詳しくは話せないんですけど、お家の事情なんです。ほら、そういうのって軽々しく話しては家名に傷がつきますし、どうか察してください」

 俺は慌ててリゲルに縋りつくようにしてそう言った。


 リゲルは首を横に振った。

「俺ってそんなに信用ないかな?」


 嗚呼、もう察せと言ってるのに、コイツは何でこんなにしつこいんだよ。


「わたくしはリゲルを信用してますよ。リゲルだってそうでしょう? だから、言いにくいことだって打ち明けてくれたし。……でも、そういうことではないんです。わたくしはただの協力者で、実際のところ部外者なのです。お話できるとしたら、アルファルド本人かユークレース伯爵に許可を得なければできないのです」

 俺は言葉を濁しながらも、リゲルが納得できそうなギリギリのところを探って話したつもりだった。


 しかし、リゲルは俺を見下ろして、ただ悲しげな表情をするだけだ。


「お兄様は……」

 ミモザが呟く。


「ミモザ様?」

「お兄様は、拗ねているのよ。仲がいいと思っていたレグルス王子は婚約者(アルキオーネさま)を頼るくせに自分には何も言わない。友だちだと思っていたアルキオーネ様は自分を頼ることもないし、ずっとアルファルド様にかかりきり。だから、苛々しているんだわ」

「ミモザ!」

「何よ。本当のことでしょう? こんなの八つ当たりよ!」

 ミモザはリゲルを鋭く睨みつけた。


「うっ」

 どうやら図星だったらしい。

 リゲルは言葉に詰まり、言い返すことができなくなる。


「アルキオーネ様、ごめんなさい」

 ミモザはリゲルの代わりと言わんばかりに頭を下げた。

 リゲルは気まずそうに下を向く。

 どちらが年上なのか分からないな。


「ミモザ様、顔を上げて。貴女に頭を下げられてはわたくしが困ってしまいます。それに、リゲルに何も言わなかったのはわたくしが悪いんです。すみません」

「じゃあ……」

 リゲルは顔を上げた。


「でも、言えないことが多すぎるんです。アルファルド様がここにいることだって本当は秘密なんです。それをレグルスが貴方に伝えたということは貴方を信用しているんです。嘘じゃありません」


 リゲルは急に目を見開いた。

「あのさ、お家の事情とか居場所が秘密って、危ないことじゃないよね?」

 流石はリゲル。

 さっきの察しの悪さはどこへやら、急に冴えたことを言い出す。


「それも……」

「それも言えないこと?」


 それを答えたらもう全部言ってしまったも同然じゃないか。

 当然、俺は何も言えなくなって黙り込む。


 リゲルは納得がいったようで大きく頷いた。

「そう、それが答えだね。ようやく分かった。アルファルドを隠さなきゃいけないってことはアルファルドは誰かから狙われているんだね。しかも、ユークレース家は安全じゃないってことだ。つまり、ユークレース家の身内の者の犯行ってことかな。身内の醜聞は隠しておきたい。でも、アルファルドの身は守りたい。だから、アイツは立場的にも遠いオブシディアン家にいるんだ」


「流石ですね」

 レグルスのときのような鮮やかな推理に、俺はため息を吐いて肯定するしかなかった。


「全く、レグルスの奴、回りくどいことを……こんなの察せるわけないじゃないか!」

 リゲルは苛立ったように叫ぶ。


「お兄様、それよりも、きちんと謝ったらどうです?」

 ミモザは冷たい目で兄であるリゲルを見つめた。

 美少女の冷たい目というのはそれはそれでくるものがあるのだが、ミモザの瞳はリゲルの戦っているときの瞳にあまりにも似ていて、背中がひやりとした。

 本当に、ジェード家は兄妹そろってそっくりだ。


「アルキオーネ、ごめん」

 ミモザの言葉にリゲルは慌てて頭を下げた。


「いえ、意図せずですが、仲間外れにしてしまったのはわたくしたちです。つらかったでしょう? 本当にすみませんでした。リゲルのことを大切なお友だちと思ってますから、これからもこれに懲りずに仲良くしてください」

 俺は手を差し出しながら微笑んだ。


 リゲルはほっとしたような顔をして、俺の手を握った。

 リゲルの手は温かいを通り越して熱かった。


「はいはい。これでお兄様のお話はおわり。今日は私の用で来たんだから、お兄様は下がってよ」

 ミモザはそういいながら、俺とリゲルの繋いでいた手にチョップを入れた。


「用?」

 俺は首を傾げた。


 確か、害虫駆除とか言ってたけど、リゲルの護衛というわけではないのか。


「あ、もしかして害虫駆除ってのが用だと本当に思っていたの? あんなの冗談よ。本題はこっち」

 ミモザは愉快そうに笑いながら、リゲルに両手を差し出した。


 え、何が始まるの?

 俺は少し動揺しながら、ミモザとリゲルの動きを見守った。


 リゲルはため息を吐くと、なにやら包みを取り出す。

 淡いミントグリーンの包みを受け取ると、ミモザはそれをそのまま俺に渡した。


「これは?」

「ガランサスのお礼……というかお返しするものです」

「開けてもよろしいですか?」

「勿論」

 ミモザが頷く。


 俺はテーブルの上で包みを開いた。 

 中にはコートと帽子、真紅のストールが入っていた。

 ほんの少し黒みがかったような濃い紅のそれは、まるで秋に咲く深い赤の薔薇のような色だと思った。


「コートと帽子は確かにお貸ししたものですが、これは?」


「嗚呼、それ、アルキオーネ様にぴったりだと思ったの! アルキオーネ様って艶やかな黒髪をしているから。ピンクも捨てがたかったのだけど、そう言う色はお嫌いだと聞いたから赤にしてみたの。ダメかしら?」

 ミモザの目が潤む。

 美少女がそんな顔をすると、本当に勘違いしそうになるからやめてくれ。

 俺はまともにミモザの顔が見れず、ストールに目を落とす。


「いえ、素敵です」

「よかった! 大切に使ってね」

 ミモザは太陽のように明るい笑顔を俺に向ける。

 どうしたの、ミモザさん。

 急に来たデレ期に俺は動揺していた。


「でも、貰う理由が……」

「あるの! 私があげたいの!」

 ミモザは可愛らしく手をばたつかせ、我儘を言って見せる。


「では、いただきます」

 俺が恭しく頭を下げると、ミモザは満足げに微笑んだ。


「あとね、アルキオーネ様にお願いがあるの」

「わたくしにできることでしょうか?」

「できるできる。というか、貴女は許可してくれればいいだけだから!」


 クエスチョンマークが頭の中に浮かぶ。

 とはいえ、考えても無駄だ。


「聞きましょう」


 俺の言葉にミモザは明るい顔をした。

「お姉様って呼ばせてほしいの!」

 ミモザはそう言うと、俺の手を握った。


 お姉様?

 血縁関係はないが、一応年上の女であることは間違いない。

 お兄様の女友だちだからお姉様なのか?

 いやでも、この使い方、正しいのか?

 もしかしたら、ミモザなりの親愛の表現なのかもしれないし、無下にするのもどうなのだろう。


「何故ですか?」

「だって、私、ずっと姉が欲しかったの! アルキオーネ様が姉だったら嬉しいなって思って……」


 なんだか引っかかるような気もするんだが、断るようなことでもないんだよな。


「そんなことでよければ」

 俺は戸惑いながら頷く。


「ありがとう! お姉様」

 ミモザは俺を抱きしめた。

 ミモザからは廃墟のときと同じ、石鹸のようないい匂いがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ