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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
一章 十二歳、王子と婚約しました。
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3.会ってやろうじゃねえか、王子様

 *** 


 婚約の申し出を受けることにしてから早二か月が経つ。

 それなのに、婚約者様であるレグルス王子は一向に会いに来る気配がない。

 というか、きちんと婚約の話が進んでいるのかも分からないような状況だった。


 なんだ、王子よ。アルキオーネほどの美人を嫁にできることに怖気づいたのか。

 いや、まさか、アルキオーネの中身が男だとバレたわけでもないよな。


 来ないなら来ないでこちらは有難いが、情報がないのは気もそぞろとしていて気持ちが悪い。

 気持ち悪いが、なにか行動して興味があると思われるのも癪に障る。


 今日も俺はできることが何もないので、普段通り、家庭教師の授業を受けたあと、のんびりとアフタヌーンティーを楽しむことにした。

 しかし、一人でお茶とは味気ないものだ。


「メリーナ、貴女もお一ついかがです?」

 お側付きのメイドに菓子を勧めた。


 メリーナは困ったような表情をして小さく首を振る。

「ありがとうございます。光栄でございますが、お嬢様のものをいただく訳にはまいりません」


「あら? 伯爵令嬢の言うことが聞けないのですか。少しだけだから、ね?」

 俺はメリーナの困った顔が見たくて意地悪な冗談を言う。


 メリーナはますます困ったような顔をした。

 本当に可愛いメイドさんだ。

 アルキオーネも可愛いが、メリーナも俺の好みの顔をしていた。


 この世界の女の子は本当に可愛すぎる。

 スピカといい、アルキオーネといい、メリーナといい、三者三様、顔も良ければ性格も良い。


 本当になんで俺は女に生まれてしまったんだ。

 俺はこの世界に女として転生させた神を恨んだ。

 もう攻略対象とか贅沢言わないからモブでもいいから男にしておいてくれたらワンチャンあったかもしれないのに。


 いや、俺の性格、見た目からしてないか。

 モブ同士でくっつくのがオチだな。


 いや、待てよ。

 メリーナがこんなに可愛いんだから、モブもきっと可愛いぞ。

 クソ。やっぱり、モブでもいいから男が良かった!


「失礼します、お嬢様。ご主人様がお呼びです」

 お父様の執事であるセバスティアンが恭しく言った。


「ありがとう、セバスティアン。じゃあ、メリーナ、こちらは下げてくれますか? 残念ですが、今度のお茶は一緒にしましょう」

 私はにっこりとメリーナに笑顔をつくってみせた。


 メリーナは困ったような顔のまま、笑顔を返してくれた。


 嗚呼、本当に可愛いメイドさんだな。

 俺はルンルン気分で廊下を歩いた。


 それにしても、お父様はなんで俺を呼ぶのだろう。

 何だか嫌な予感がした。


 俺は首を振る。

 やめよう。

 せっかく、メリーナの笑顔が見れて癒されたばかりなのだ。

 不吉なことを考えるのは精神衛生上良くない。

 だたでさえ、レグルス王子のクソ野郎と婚約という悪夢が現実になっているのだ。

 これ以上の悪夢なんか要らない。御免蒙る。


 先を行くセバスティアンが扉をノックした。


 よし。気分を変えよう。

 きっとお父様の部屋には可愛い猫耳の女の子がいて可愛らしいポーズをとっている。

 お父様の性癖に疑問を抱かずにはいられない妄想だが、そう考えると幾分気持ちが楽になった。


「お待たせ致しました、お父様……」

 そう言いながら、扉を開けた。

 そして、俺は絶句して、その後の言葉を続けることが出来なかった。


 お父様と一緒にいたのは、猫耳の可愛い女の子などではなかった。


 悪夢よ、再び。

 そこにいたのは、金髪に真紅の瞳の少年だった。

 透けるように白い肌に、長い睫毛、薔薇色の唇をした少年は男とは思えぬほど整った顔をしていた。

 少年は王子という言葉が良く似合っている。


 あ、あの写真の少年だ!

 そう思うが、唇が震えて、俺は何も言えなかった。


 少年と目が合う。

 少年の瞳は吸い込まれそうなほど深い赤い色をしていた。

 俺は石化したように動けなかった。


「アルキオーネ、どうしたんだい?」

 お父様が絶句して動かなくなった俺を見て、不審そうに尋ねる。


「あ、嗚呼、申し訳ございません。まさかレグルス王子殿下も一緒にいらっしゃるとは思ってもみなかったもので。とんだご無礼を。申し訳ございません」

 お父様に声をかけられた途端、呪縛が解けたかのように声が出るようになった。

 俺は慌ててその場を取り繕った。


 なんで、ずっと音信不通だったレグルス王子がここにいるんだよ。

 前もってアポとっとけよ。急すぎるだろうが。

 お父様もせめて心の準備する時間をくれよ。

 俺は心の中で毒づく。


「嗚呼、こちらこそ急に押し掛けてすみませんでした、オブシディアン伯爵令嬢。この近くに用があったもので婚約者の顔をついでに見ておきたくて……」

 レグルス王子ははにかむように笑った。


 うっ。目が潰れるかと思うほどの眩い笑顔に一瞬、俺は目を細めた。

 なんていい笑顔してるんだよ。


 これがこの国の第一王子か。

 あのゲームの中の性悪男に顔以外似ても似つかない。

 暴言のぼの字もないじゃないか。

 自分の記憶と目の前のレグルス王子どちらが正しいのか分からなくなってしまった。


 もしかして、このレグルス王子は良い奴だったりする?

 それなら気持ちが男だから結婚は無理だけど、友だちにはなれるかもしれない。


 急に目の前が明るくなったような気がした。


「光栄ですわ。ありがとうございます、レグルス王子殿下」

 俺は自然と笑顔で返事をする。


「嗚呼、オブシディアン伯爵令嬢、わたしのことはレグルス王子殿下ではなく、レグルスとお呼びください。貴女は婚約者なのですから」

「畏れ多いですが、そう呼ばせていただきます。では、レグルス様はわたくしのことをアルキオーネと呼んでいただけますか?」


「ええ、勿論です。アルキオーネ」

 レグルスは笑顔を俺に向けた。

 俺が女だったらきっと恋に落ちてしまうような、そんな穏やかで優しい笑顔だった。


 ゲームの中のレグルス王子では、有り得ないような表情に俺は驚いて固まる。


 そうか。

 ゲームの作中のアルキオーネもこういうレグルス王子の一面を知っていたから、あんな酷いことを言われても黙ってついていったのかもしれない。

 アルキオーネは健気だな。

 やっぱり俺の中で嫁にしたいナンバーワンはアルキオーネだ。最近、浮気していてごめんよ。


「そうだ、アルキオーネ。殿下を我が家の庭園にご案内してはどうだろう?」

 お父様が思い出したように提案する。


 なるほど、気を利かせて言ってくれているんだな。

 後は若い二人でってやつか。

 俺は心の中で何度も頷いた。


「そうですね。レグルス様、せっかくですから、是非ご覧になっていただけませんか? 今の時期、それは見事な薔薇が咲くんです」


 オブシディアン家の庭師の腕は素晴らしく、毎年この季節になるとそれは見事な薔薇が咲く。

 勿論、それ以外の季節もその季節に合わせた草花が植えられているので、庭園はいつ行っても違った表情をみせてくれる。


「なるほど。アルキオーネがそこまで言うのなら是非、拝見させていただこう」

 レグルス王子はそう頷いて立ち上がる。


「では、お父様、行って参ります」


 ***


 俺はレグルス王子を庭園へと案内した。


「これはみごとな……」

 レグルス王子はため息を吐く。


 庭園には赤や黄、ピンクといった様々な色の薔薇が綺麗なグラデーションを作っていた。


「レグルス様、今の季節も良いのですが、他の季節もそれはそれは素晴らしいんです」


 見事な薔薇が見れる今の季節も良いのだが、俺のおすすめは雪の降る庭園だ。

 雪の季節は見事な白と椿の赤のコントラストが素晴らしい。

 アルキオーネは病弱なのでなかなか雪の季節は外に出してもらえないのだが、王子がいたら少しくらい許してもらえるかもしれない。

 俺は下心もあってそう言った。


「これは母上にも見せたいほど美しい。ほかの季節にも是非来てみたいものだ!」

 レグルス王子は興奮したように俺の手を取る。


 言葉遣いも先程より砕けた話し方だ。

 どうやらこちらが素らしい。

 十二歳らしい素直な口調だと好感を持った。


「是非、よろしければ、今度はお母様とご一緒にいらしてくださいませ」


「しかし、母上はいつも忙しいようでな。なかなか一緒に出かける機会がないのだ」

 レグルス王子は下を向いて落ち込む。


「では、いくつかの薔薇を持ち帰られて見せるのはいかがでしょう?」


「良いのか?」


「ええ、勿論です。色は……そうですね、レグルス様の瞳のような真紅の薔薇はいかがでしょう。手配いたしますわ」

 優しくお淑やかな伯爵令嬢を長年やってきた俺は息をするようにレグルス王子を気遣ってやった。


「すまないな。よろしく頼む」

 レグルス王子は素直に礼を述べた。


 それから俺とレグルス王子は他愛もない話をした。


 レグルス王子の母は薔薇が好きで王宮にも専用の薔薇園があるとか、今やっている勉強の話とか、レグルス王子は薔薇の蜂蜜を紅茶にいれるのが好きだとか、ほとんどがどうでもいいような話ばかりだった。

 話している間は不思議とレグルス王子への嫌悪感はなかった。

 寧ろ、年相応の少年のようで、俺は子どもの頃に戻ったような気持ちになっていた。


 いずれは俺をいびってくる嫌な奴なんだけどどうしてもそう思えないんだよな。

 心の中でそう呟いた。

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