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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
二章 十三歳、男友達ができました。
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27.やっぱりお前、弱いんだな

 アクアオーラはぐっと腕に力を込める。


「心配してくれるのか? 大丈夫だよ、憲兵たちが来る前に、さっさとお前たちを殺して出ていくからな」

 アクアオーラは自信満々にそう言って、ナイフを俺に近づける。


 鋭く光るナイフを見ても、俺はちっとも動揺しなかった。

 それよりも緩くキツく気まぐれに締めてくる腕の方が死を意識させる。 

 アクアオーラは俺の首をじわりと絞めた。


「ぐっ……」

 喉が締まり、短い声が漏れた。

 また締めてきやがって。

 俺は睨みつけるようにアクアオーラを見上げる。


「おっと、お前は人質だから殺すのは最後だ。まずは、男どもを殺さないとな。全く、こんなに早く復讐の機会が舞い込むなんて本当に私は運がいい!」

 アクアオーラは大きな声を上げて笑った。


 本当にそんなことが出来るのと思っているのか。

 このまま、俺を殺せたとしても、リゲルやアントニスを殺すなんてアクアオーラには無理な話だろう。


 レグルスのときのことを思い出す。

 あのとき、アクアオーラはアントニスにやられっぱなしだった。

 アントニスとリゲルの二人ならこんなやつさっさと倒すことができるはずだ。


 そう。

 人質である俺さえいなければ二人は動けるんだ。

 一瞬だけでもいい、隙をつくることができれば俺だって逃げ出せる。


 俺はリゲルとアントニスに目線を送った。

 二人と目が合う。

 何となく、通じあったような気がした。

 俺たちは頷く。


 アクアオーラは自分が俺たちより優位に立っていると信じ切っている。

 油断している今ならいける。


「イグニス!」

 そう叫ぶと、アクアオーラの袖口が勢いよく燃えた。

 アクアオーラは慌てて腕を振った。

 火はすぐに消え、アクアオーラは安堵の表情を浮かべた。


 が、俺の方が早かった。

 拳を握り、アクアオーラの鳩尾めがけ、肘鉄を食らわす。

 不意打ちを受けて、アクアオーラはお腹を抱え、体をくの字に折った。


「イグニス!」

 振り返って、追い討ちにもう一発。

 前髪に目掛けて魔法を放つ。

 前髪が燃え出す。


「うわあああぁぁ!」

 アクアオーラは焦ったように自分の頭を叩いた。


「アルキオーネ!」

 リゲルが大きく両腕を広げる。


 俺は転がるようにリゲルに向かって走った。

 バランスが上手く取れないまま走ったので、止まれずに俺は勢いよくリゲルに体当たりする。

 リゲルは難なくそれを受け止めた。

 リゲルからは血の匂いに混じって、石鹸のような香りがした。

 リゲルに抱きしめられながら、流石は兄妹だなと思った。


「アントニス!」

 俺は顔を上げて叫んだ。


 声よりも早くアントニスの剣がアクアオーラに振り下ろされる。

 アクアオーラの肩がざっくりと斬られ、血が噴き出した。


「あああああああ! くそっ! くそおおおおおおぉぉぉ!」

 アクアオーラは肩を抑えながら叫んだ。

 そして、床に膝をつく。


 アントニスは素早くアクアオーラの頭を床に押し付けた。

 短く鈍い音とともにアクアオーラの前髪に点っていた炎が消える。


「消火完了っと」

 アントニスが笑いながら手を離すと、アクアオーラは白目を剥いて痙攣していた。


 アクアオーラの奴。

 弱い。弱すぎる。

 やっぱりお前、弱いんだな。

 俺は気絶するアクアオーラに合掌した。


「アルキオーネ?」

「嗚呼、また暴れないようにお祈りをしてました」

 リゲルが不審そうに俺を見るので、咄嗟にごまかす。


 そんなお祈りするわけないのに、リゲルは「なるほど」と頷いた。

 素直な奴だな。


「とりあえず、縛っときますか」

 アントニスはそう言うと、アクアオーラの腕を後ろ手に縛った。

 その手際のいいこと。腕を縛るのに慣れているように見えた。

 俺はアントニスの過去が気になった。


 アクアオーラはしぶとかった。

 アントニスが縛り終えるとすぐに目を覚まして暴れ出す。

 げ、コイツ、石頭かよ。


「何度も邪魔しやがって! お前ら殺す! 殺す!」

 アクアオーラの汚い叫び声を上げる。


「うるせえな」

 そう言いながら、アントニスはケツを蹴り上げる。

 そして、無防備になったアクアオーラのケツポケットを探った。


 アクアオーラは負けじと芋虫のように暴れ始めた。


 リゲルはその様子を見て、ため息を吐いた

「アルキオーネ、ちょっとごめん」

 リゲルは俺を離すと少し下がるように指示する。


 リゲルは天井から下がる布を勢いよく引っ張った。

 ブチブチと音を立てて布が落ちてくる。


「アントニス殿、これで」

 リゲルは布をアントニスに渡した。


 まさか、こんな大きな布で猿轡はできないだろう。

 ということは、これで隠せということなのだろうか。


 アント二スもそう解釈したようで、頷くと、アクアオーラの上に布を被せた。


 そういえば、鶏を大人しくするには、目隠しすると大人しくなると聞いたことがある。

 まさか、人間にも同じ効果があるなんてことはないよな?

 俺はじっと布の下のアクアオーラを見つめた。


 アクアオーラは布の下で叫び声を上げながら、バサバサと動いていた。

 大人しくなる様子はない。


 リゲルは布の下で動くアクアオーラに向かって何度か蹴りを入れた。

「ねえ、これだと、蹴る方も何処に蹴りを入れるか分からないんですよ。次は頭かな? お腹かな? 肩かな? 嗚呼、足かもしれないなぁ。当たりどころが悪いと折れますかね?」

 感情を込めず、淡々とそう呟く。

 そして、大きくもう一度蹴りを入れた。


 その使い方は予想できなかった。

 流石リゲル。残酷なことを考える。


 さらにダメ押しに一言。

「静かにしていたら、俺だって蹴らないんですけど仕方ないですよね?」

 リゲルはアクアオーラの上に足を乗せてぐりぐりと踏み躙ってそう言った。


 アクアオーラは途端に暴れるのを止め、静かになった。


 リゲルは満足したように足を下ろした。

「黙らせたよ」

 こちらを向くリゲルの顔は笑顔だった。


 子どもたちが目の前にいるからと配慮していたのだろう。

 最小限の暴力行為で終わらせたかったからこんなやり方をしたのは分かる。

 でも、それにしたってやっていることがどぎついのは変わらない。


「ええ、ほんとに静かになりましたね」

 俺はリゲルだけは怒らすまいと心に誓いながら、そう言った。


 せっかく静かになったのだ。

 憲兵が来るまでこのままにしておこう。


「そう言えば、アントニス。何かポケットに入ってましたか?」

 俺はアクアオーラに関してはもう何も触れないことにして、すぐに話題を変えた。


 アントニスはふうっと息を吐いた。

「嗚呼、そうでした。鍵を見つけましたよ。俺だと子どもを怖がらせますからね、お二人で出してあげてください」

 アントニスはそう言って笑いながら、俺たちに鍵の束を渡す。

 確かに。怖い目に遭った後だ。

 大男のアントニスが近づいてきたら怖いよな。


 俺はそれを預かると、頷いた。

 俺たちはそれを使って扉を開けていく。

 子どもたちは戸惑いながら、檻から出てきた。


 ぼんやりとしているのが気になるが、とりあえず怪我などはなさそうだ。

 ひとまず、良かった。


 リゲルが子どもたちの人数や名前を確認する。

 ここはリゲルに任すか。


 俺は大きく伸びをした。

 ずきりと右腕が痛んだ。

 俺は腕を摩る。

 くそ。アクアオーラめ。


 それにしても、何だか今日一日が酷く長かったな。

 俺はため息を吐いた。


 ***


 憲兵たちが到着したころには、外はもう真っ暗でいつもなら夕食を済ませているような時間になってしまっていた。


 向こうがあたっていた業者の方に誘拐犯の仲間がいたらしい。

 人数が多く手間取ったが、芋づる式に捕まったという。

 だから、時間がかかったらしい。


 ある程度の状況説明を終えると、憲兵たちは「遅いので、後処理はこちらに任せてもう帰っていい」と言ってくれた。

 俺たちは疲れていたし、素直にそれ言葉に従った。


 後処理を任せ、リゲルと別れてから、俺とアントニスは血でドロドロになったコートを街でこっそりと処分してから屋敷に帰った。

 血塗れのコートなんて持って帰ったらメリーナが卒倒してしまう。

 これは大事なミッションだった。


 勿論、処分したなんて言えないので、コートは失くしたことにした。

 前日も帽子を失くしていたし、メリーナが不審に思うことはないようだった。

 ズボンについた小さな血痕を見つけられたときはひやりとしたが、アントニスが俺に絡んできたごろつきを倒してついたシミということにして事なきを得た。


 ただ、帰りが遅くなってしまったので、メリーナには多少怒られた。

 それ以外はメリーナに泣かれたりということは特になかった。本当によかった。


「お嬢様、明日の予定は?」

 就寝前、メリーナが俺に向かって聞いた。


 明日――ガランサス三日目は誰とも約束はしていない。

 それに今日は散々歩き回ったり、動き回ったりして肉体的にも精神的にも疲れていた。

 何も考えたくない。


「明日はお休み! ディーナも家庭教師のみなさんもガランサスでお休みなので、わたくしもお休みします! アントニスもメリーナも明日はお休み! 一緒にだらだらしましょう!」

 俺はそう宣言した。


 メリーナは目を丸くしたが、くすくすと笑う。

「では、アントニスにも伝えておきますね」


 こうして、宣言通り、ガランサス三日目はアントニスとメリーナと三人で屋敷でだらだらと過ごしたのだった。


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