24.事情聴取をうけてみた
「何でミモザと一緒に帰れないんですか?」
相手が大人だからなのか、一応敬語ではあるが、険のある声だった。
リゲルは明らかに不満げな表情をしていた。
「それは君たちが散々暴れまわったせいなんだよ?」
憲兵の隊長格らしきおっさんがこめかみをひくひくさせながらそう言った。
俺とリゲル、アントニスの三人は憲兵たちの事情聴取を受けていた。
本当は一人一人別々に事情聴取するところを時間短縮のためにとご厚意で一緒にしてくれていた。
ミモザがここにいないのは、精神的なショックが大きいだろうという配慮から後日事情聴取ということになったからだ。
これ以上配慮を求めるのはさすがに気が引ける。
リゲルは何か物言いたげにおっさんを睨む。
嗚呼、そこに噛みつくのはやめなさい。
俺だって早く帰りたい。
でも、俺たちが誘拐犯をまともに喋れないくらいボコボコにしてしまったせいで、誘拐犯の事情聴取ができなくなってしまったのだ。
俺たちが協力しないとまずいだろう。
「リゲル、ここは協力しましょう。誘拐されて見つかっていない子どもがまだたくさんいるんです。みなさんだってそんな子どもたちのためにお仕事をしているんですよ? 喧嘩腰で話すのはやめてください」
リゲルは腑に落ちないような顔をしてからため息を吐いた。
「こっちのお嬢さんに聞いた方が早そうだな。奴らのアジトで何か気づいたことはないかね?」
おっさんはリゲルに話を聞くことを諦めたらしい。
俺の方を向いて尋ねる。
「気づいたことですか……」
正直、リゲルについていくのに精一杯だったから何かに気づく暇なんてなかった。
俺がやったことと言えば、誘拐犯の前髪を燃やしたことと吐いたこと、ミモザを泣き止ませたことくらいか?
吐いた?
そういえば、俺が吐いた後、怪しい紙を拾ったよな。
ミモザの叫び声が聞こえたせいで詳しく読めてないけど、あの紙、確か「奴隷」って書かれてたんだよな。
なんだか捨てることが出来なくてポケットに入れていた気がする。
俺は慌ててポケットを探る。
ポケットの中から質の悪いざらざらとした紙が数枚出てくる。
あった。これだ。
「そういえば、これを見つけました」
俺はそう言って俺は憲兵のおっさんに紙を渡す。
おっさんは眉を顰めて紙を近づけたり遠ざけたりしてよくよく見つめた。
そして、驚いたように目を見開く。
「これをどこで!」
おっさんは震えながら顔を上げた。
「あの廃教会ですが……? 何か?」
おっさんは考え込むように黙った。
どうやら言っていいことか悪いことか悩んでいる様子だった。
何だよ。気になるからさっさと言えよ。
俺はじっとおっさんの言葉を待った。
アントニスは待ちきれなかったのか、首を伸ばしてひょっこりと紙を盗み見する。
「ええ! これは奴隷の受け渡しの契約書じゃないですか!」
アントニスは紙を見るなり叫んだ。
おっさんが露骨に嫌そうな顔をして紙を隠す。
アントニスは舌打ちをした。
「奴隷!?」
俺は思わず叫ぶ。
おっさんは仕方ないと言わんばかりにため息を吐いた。
「そうか! 貴族の子どもを誘拐して奴隷にして売り飛ばすつもりだったんだ。ちっ、もっと痛めつけとけばよかったか」
リゲルの不穏な呟きが聞こえたような気がするが、あえて突っ込むことはしなかった。
突っ込んでもっと怖いこと聞かされたくないし。
「ま、まあ、この契約書からヤツらの仲間や奴隷業者を割り出すことができそうだな。いやあ、お手柄お手柄」
おっさんは早口でそう言う。
あ、これは俺たちにこれ以上関わってほしくないということだな。
まあ、俺たちにできることなんてないだろうしプロに任せるか。
そう思いかけるが、自分たちのやってきたことを思い出す。
俺たち誘拐犯のアジトを二つも潰しちまったんだよな。
でも、行方不明の子どもたちは全員見つかっていない。
ということは仲間がいるってことだろ?
俺ははっとして立ち上がった。
「わたくしたちの事情聴取を今すぐ終わらせて、早く誘拐犯の仲間とやらを探し出してください」
「は?」
おっさんは驚いたように俺の顔を見つめた。
おっさん、察しが悪いな。
俺はため息を吐く。
「いいですか? 誘拐犯たちにはまだ仲間がいるんですよね」
アントニスとリゲルが目を見開く。
どうやら二人には俺の言いたかったことが伝わったらしい。
「仲間のアジトが潰れたのに、残った奴らがずっと子どもたちを手元に置いておくほど馬鹿だと思いますか? さっさと子どもを売って証拠隠滅するに決まってます。こういう契約書だって破棄されてしまうかもしれません。奴隷の業者だって同じです。さっさと子どもたちを連れて逃げ出すかもしれません。そうなったら、子どもたちがどこに売られたか分からなくなります。今すぐ、探すべきです!」
おっさんは途端に顔を青くした。
「確かにお嬢さんの言う通りだ。これは一刻を争う。こうしてはいられない」
おっさんは慌てて立ち上がると、若い憲兵を呼びつけた。
「わたくしたちも手伝います!」
気づけば俺はそんなことを口にしていた。
「いや、一般市民にそんなことを……」
「わたくしたちは貴族です! こんなときだからこそ、手伝わせてください!」
俺は叫んだ。
おっさんは考え込む。
「俺はジェード家の長男です。軍や兵士にも顔が利くので人出が必要であれば呼ぶこともできます。最近、犯罪者が逃げ出したとか聞きましたよ。そちらの人手も足りないのでは?」
リゲルは静かにそう言った。
ここには多少裏に顔の効くアントニスもいる。
今すぐ動けば、犯人逮捕とはいかなくとも、子どもたちを保護することはできるだろう。
「うーん、仕方ない。無茶はしないようにしてくれれば……」
おっさんは俺たちの言葉についに折れた。
「これって暴れていいってことだよな?」
リゲルがこっそりと俺の耳元で囁く。
はっとして俺はリゲルの方を見る。
リゲルは目を輝かせて微笑んだ。
さきほどの戦いを思い出す。
飛び散る赤、鉄のような匂い、耳を塞ぎたくなるような音、激しい恐怖。
背中に戦慄が走った。
まずいことを言ったな。
俺はこの後、深く後悔することになった。




