表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
二章 十三歳、男友達ができました。
44/126

22.泣いた少女の慰め方

「ミモザ様?」

 俺はできるだけ優しい声色をつくった。


 ミモザはピクリと体を動かした。

 反応してる。

 どうやらこちらの声は聞こえているらしい。

 リゲルのときとは違い、暴れないのは声の主が女だからだろうか。

 落ち着いてくれているのはありがたい。


 俺はそっとミモザに近づく。

「わたくしが分かりますか?」


 ミモザは顔を少しあげる。

 翡翠色の濡れた瞳がこちらをしっかりと見つめた。

「阿婆擦れ」

 ミモザは即答する。


 あまりにも早い答えに俺は苦笑した。

「ええ、阿婆擦れでもなんでも結構です。わたくしが分かりますね?」


 ミモザは顔を膝に埋めてから小さく頷く。


「よかった……お怪我はないですか?」


 ミモザはもう一度頷いた。


「な……んで?」

「え?」

「なんで、貴女がここにいるのよ」

 ミモザが顔を上げてじっと俺を見つめた。

 俺の真意を見透かそうとしているように見えた。


 友だちが困っていたから手を貸した。

 それ以上でもそれ以下でもない。他意なんて何もないのに。

 ミモザには俺が兄に群がる害虫か害獣のように見えているんだっけ。

 俺は苦笑した。

「何故と言われましても……助けに来たとしか言い様がありません」


「だから、なんでなの……私、あんな酷いこと言ったのに!!」

 ミモザは子どものように泣きじゃくった。


 なんで女ってのはこんなに泣くんだ。

 俺は動揺してミモザの顔を右に左にウロウロと何度も覗いた。

「ミモザ様、ミモザ様、泣かれるとわたくし、困ってしまいます」


「だって! 貴女のこと阿婆擦れだとか、節操なしとか言ったのよ!?」


 俺はため息を吐いた。

「あと、『王子の威光に笠着て』でしたっけ? 大丈夫です。そういうのは割と慣れてますから」

 前世では、散々妹の理不尽なわがままや言い草を聞いてきた俺だ。

 そういうのには慣れっこだ。

 そんなことでは今更怒ったりしない……と思う。


「でも、貴女怒ったじゃない!」

「怒ったのは、レグルス様に対してあまりにも不敬だったからです。貴女がレグルス様に不敬を働けば、リゲルも困るでしょう? 二人は友だちですが、同時に主従関係にあるのです。どう考えてもリゲルに不利益じゃないですか」


 コイツ、俺が怒った意味が理解できてなかったのかよ。

 もう少し利口だと思っていたが、本当にガキだったんだな。

 呆れて何も言えなくなるわ。

 俺はもう一度ため息を吐いた。


「だって……だって! お兄様は私のものなの! アルキオーネ様、ばっかりずるいわ!!」

 ミモザは答えになっていないことを叫んだ後、大声で泣き喚いた。


 嗚呼、もうどうしたらいいんだよ。

 打ち手なしだ。

 口を開けば、ミモザに一言多く言ってしまいそうだ。


 大体、何を言っても泣き喚くのは卑怯じゃないか?

 もしも、ミモザを泣き止ます魔法の言葉があるなら今すぐ教えて欲しい。それを使って速攻泣き止ませるから。

 まあ、そんな便利なものあったら苦労はしないよな。


 俺ははっと気づく。

 そうか。喋ろうとするからいけないんだ。

 こうなったら、あれしかない。

 しかし、あれをしたら、はっ倒される可能性もある。

 まあ、そうなったら黙ってはっ倒されてやろう。

 俺は覚悟を決めた。


「ミモザ様、失礼します」

 俺はそう断わってからミモザを抱きしめた。


 驚いたようにミモザの動きが止まる。


 ミモザは柔らかくて温かかった。

 心地良い体温に目を瞑る。

 ミモザの深緑の髪が顔にかかった。

 石鹸のような清潔感のある香りがした。


 リゲル、ごめん!

 お前がいない間に、俺はお前の妹を抱いてます。

 下心がないかといえば、多少あります。

 柔らかくてめちゃくちゃいい匂いがします。

 本当にごめんなさい。

 でも、一応、今は俺、女なんで許してください。

 心の中でリゲルに謝りながらミモザを抱きしめる。


 ミモザは俺の腕の中でもがいた。

 俺は負けじと更に力を込めた。


 ミモザは暫くもがき続けた。

 しかし、観念したのか、次第に力がなくなっていき、俺に抱きしめられるがままになった。

 そして、鼻をすすりながら嗚咽を漏らす。


「アルキオーネ様、ごめんなさい」

 珍しく殊勝な態度だ。

 いつもそうやって、しおらしくしていれば可愛いのに残念だな。

 俺はそう思いながらミモザの髪を撫でた。


「大丈夫ですよ。怒っていません」

「本当に、本当にごめんなさい」

 ミモザはグズグズになりながらもう一度そう呟く。


「分かってます」

「でもね、私、お兄様を誰にもとられたくないの……だって、私にはお兄様しかいない。お父様より、お母様より、お友だちの誰よりもお兄様が好き。愛してる」

「ええ、見ていれば分かりますよ」


 俺だって、妹を愛していた。

 リゲルだって同じだろう。


「でも、お兄様は違う……大切なものをどんどん作っていくの」

「大切なもの?」

「レグルス王子、護衛のお仕事、剣術、そして、貴女……お兄様の中で私がどんどん小さくなっていくの」

「それは、違います!」

 俺は叫ぶ。

 ミモザの言葉は妹のことを忘れ始めている俺を責めているようで胸が痛んだ。


「大切なものが増えたって、今まで大切なものが大切でなくなるわけないじゃないですか!」

 俺は自分にも言い聞かせるように叫ぶと、ミモザをぎゅっと抱きしめた。


「アルキオーネ……様?」

「貴女が思っている以上にリゲルはきっと貴女を愛しています。だから、リゲルを信じてあげてください。リゲルは貴女の兄なのです。妹を思わないわけがない……わたくしは、わたくしには兄の気持ちが分かるんです」

 唇が震えた。


「ありがとう」

 ミモザは俺の体に腕を回すと、ぎゅっと抱きしめた。


「ミモザ様……」

「ありがとう。でも、怖いの。もしもお兄様が私を要らなくなったら……」

 回された腕は冷たく、震えていた。

 今までどれだけの恐怖や不安を押し殺してきたのだろう。


「ねえ、ミモザ様、リゲルにそれを伝えましょう?」

「でも……お兄様を困らせてしまったら?」

「今更ですね。リゲルはミモザ様に困らされっぱなしです」


 俺の言葉にミモザは小さく声を漏らして笑った。

「ふふ、そうかもね」

 ミモザは顔を上げ、俺の顔を見上げた。

 どこの水分でそうなったのか分からないくらい顔がドロドロになっている。

 嗚呼、鼻水まで出てる。

 可愛い顔をしているのにもったいない。


 俺は思わず微笑んだ。


 鼻をかんでやりたかったが、生憎とハンカチはリゲルに渡してしまった。

 もう一枚持っておけば良かったと後悔する。

 そうだ。今度からハンカチは二枚持ち歩くことにしよう。

 どうでもいいことを考えた。


「嗚呼、兄妹そろって酷い顔ですね。ミモザ様、そろそろ貴女のお兄様が来ますから、身なりは整えた方がいいですよ。」

 俺はそっとミモザに耳打ちする。


 女の子だもの。

 好きな人の前では綺麗でいたいよな。

 俺は親切心でそう言ってやった。


「お兄様がいるの?」


「ええ。ですから、ハンカチでお顔を拭いて? そんな顔では貴女のお兄様がびっくりします」


 ミモザはばっと俺から離れる。

 そして、耳まで真っ赤になると、慌てて自分の持っていたハンカチで目や鼻を拭きだす。

 なんだ、ただの可愛らしい女の子じゃないか。

 誰かを攻撃するのではなく、素直にそうしていればいいのに。


「何処に、いるの?」

 ミモザは顔を綺麗にし終わると、辺りを見回した。


「さっきはいたんですけど、今、頼み事を……すぐに来ますから」


 俺の言葉にミモザは下を向いた。

「そう……」


 さっきまでミモザに声を掛け続けていたのにいなかったことになっているのか。

 なんだかリゲルが可哀想だ。


 でも、あんなにパニックだったから仕方ないのか?

 ミモザに言ってやった方がいいのか?

 いや、やめておこう。

 言わない方がいいことはこの世にいっぱいある。

 うん。その方がいいに違いない。

 俺は一人でそう結論づけた。


 俺は笑顔をつくる。

「大丈夫。本当にすぐですから。それより、リゲルはすごく心配していたんですよ? ちゃんと元気な顔を見せてあげてくださいね?」


 完璧だ。

 無駄なことは一切言わず、フォローしてやる俺。

 散々心を砕いたんだ。抱きしめたときに下心があったのくらいはチャラにしてくれるよな?

 俺はミモザを見つめた。


「ありがとう、アルキオーネ様……」

 ミモザの奴、俺のことをすっかり様付けで呼んでいる。

 その表情は感謝すらしているようだった。

 よし、俺の下心には微塵も気づいていないな。

 これならリゲルにチクられることもないだろう。


 もしも、俺がミモザに下心を持ったことをリゲルにバレたら……

 リゲルが作り出した凄惨な現場を思い出す。

 うん、殺されるかもしれないな。

 どうかバレませんように。俺は神に祈った。


「アルキオーネ! 持ってきたぞ?」

 リゲルの声がした。


 ヤバい。

 俺の心の声がバレた?

 俺は慌てて振り返る。


 ミモザの背中が見えた。

「お兄様!」

 ミモザはリゲルに飛びつく。


 リゲルは驚いたような顔をしたが、すぐに笑顔になる。

「ミモザ!」

 リゲルはそう叫ぶと、ミモザを抱きしめた。


「お兄様、お兄様、ごめんなさい」

 ミモザはそう言って泣きじゃくた。

 嗚呼、せっかく泣き止ませたばかりなのに。


「俺の方こそ悪かった!」

 リゲルはそう言って、ミモザをぎゅっと抱きしめ続けた。


 良かった。

 でも、俺にはもう二度とこんな瞬間は訪れないんだよな。

 抱き合う二人に少し胸が痛んだ。


 俺は複雑な感情を抱きながら、二人を静かに見守ってやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ