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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
一章 十二歳、王子と婚約しました。
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15.黒幕は誰だ

 王都の外れ、人気のない森にアントニスはいた。


「おい、来たぞ」

 控えめな声を上げながら、アントニスは辺りを見回す。

 どうやら、待ち合わせの相手はまだ来ていないようだ。


 アントニスはそわそわとした様子で歩き回る。

「いないのか?」

 そう言いながら木々の間を覗いたり頻りに動き回る。


 そんなアントニスに向かって近づく男がいた。

 黒いローブを纏い、目深にフードを被った見るからに怪しい男だった。

 キラリと月の光に銀色のナイフが浮かぶ。


 アントニスは早々にその気配に気づいたようで振り返った。


「お前は……何の用だ!」

 アントニスはごろつきらしく凄みながら男に向かって言った。


「貴様が呼び出したんだろう! この裏切り者!」

 男はアントニスめがけナイフを振るった。


 月の光を浴びてナイフは輝きながらアントニスの腹の脇を滑る。

 意外にもアントニスの動きは俊敏で容易く男の攻撃を避ける。


 男はぐっと踏みとどまると、くるりと体を返し、アントニスの太腿をめがけ、ナイフを振りおろす。

 アントニスは脚を大きく引いてナイフを避けた。

 素早く剣を抜く。そのままの勢いで剣を薙いだ。剣が光を放ちながら線を描く。

 その動きの早さはごろつきにしておくには勿体無いもののように思えた。


 男も素早い動きでアントニスの剣を避けると、後ろに数歩、飛び退く。


「王子の護衛のくせに鈍い動きだな」

 アントニスはぼよぼよのお腹を震わせて笑った。


 男はさっとローブのフードに手をやる。

 目深に被ったはずのフードの一部はアントニスの足元に落ちていた。


「貴様、ごろつきのくせに! 私が誰だか分かっているのか?」

 男はアントニスを睨む。


 アントニスはその言葉に笑った。

「さあ? 剣の腕が三流の護衛ってことしか分からないな」

 そして、挑発するように首を傾げる。


「私は貴族なんだぞ!」

 男はワナワナと震えながら叫ぶ。

 挑発に乗るような安っぽい男ということは間違いなさそうだ。


「その貴族様が何でまた、俺のような下々の者を狙うんで?」

 挑発するようにもう一度アントニスは笑う。

 そして、剣を構えた。


「貴様が、レグルス王子の誘拐に怖気づいて王宮に連れて帰ってくるからいけないんだ! 私の計画はめちゃくちゃになったんだぞ!」

 男は叫びながらナイフをめちゃくちゃに振り回した。

 大振りすぎる動きだ。


「なるほど……口封じというわけか。しかし、何が目的でそんな大それたことを?」

 アントニスは難なく避けながら問う。


「決まっているだろう! 名誉のためだ。上を目指すにはこの国は平和すぎる! 何かないと私は偉くなれないんだよ。だから、王子を誘拐させてそれを助け出すという計画を立てたのに……許せん! ここで死ね!」

 男は絶叫しながら突進してくる。


 アントニスは華麗に避けると同時に男の足を引っかけた。

 男は見事に地面をくるくると転がる。


「なるほど……これで十分ですかね?」

 アントニスはオマケに転がった男のケツを蹴り飛ばした。


「ああ! 十分だとも! そこまでだ!」

 高らかにレグルス王子の声が響き渡る。


「なんだと?」

 男は地面に突っ伏したまま、慌てて顔を隠すが、遅かった。


 男とアントニスを取り囲むようにレグルス王子の護衛と王宮の兵士が現れる。


 レグルス王子は月明かりに照らされて露わになったその男の顔をじっと眺めた。

「まさか、アクアオーラ卿、貴方がそんなことをするなんてな」


 男の顔はレグルス王子の護衛の中でも一番偉そうにしていた男、アクアオーラ卿その人だった。


「何を……仰られているんですか? 私は誘拐をしておきながらしらばっくれて金をせびってきたこの男を処罰しようと……」

 アクアオーラは縋るように地面を這う。


 アントニスはもう一度、アクアオーラのケツを蹴り飛ばした。


 アクアオーラはゴロゴロと転がると、木の根にぶつかった。


「見苦しいぞ! 貴様、それでも貴族か!」

 ランブロスは叫ぶ。


「いやあ、まさか、王子の護衛のお偉いさんが悪いやつだとは思いませんでしたよ。王宮で見たときは本当にびっくりしました」

 アントニスはにやにやと笑いながら敬語で話す。


「貴様!」

 アクアオーラはナイフを握り締め、立ち上がった。

 そして、ワナワナと震えながら、ナイフを振り上げる。


 アントニスは剣を構えた。


 二人は斬り合うかと思われた。

 が、すぐにアクアオーラはナイフを落とす。


 ナイフが地面の上を滑る。

 アントニスはそれを蹴ってランブロスの方に送った。


「させませんよ」

 リゲルは笑顔でそう言った。

 その手には石を持っていた。

 どうやら、リゲルが石を投げてナイフを落としたらしい。


 リゲルの言葉を聞きながら、ランブロスはナイフを拾う。

「まったく。王子の護衛責任者たる貴方がこんなことをするなんて……」

 そう言いながらため息を吐く。


「違う! いや、そうだ! 王妃! 王妃が私に命令をしてきたんだよ!」

 アクアオーラはみっともなくそう叫んだ。


「王妃? わたしの母上が計画したことだというのか?」

 レグルス王子は眉根を寄せ、怒りの形相でアクアオーラを睨む。


「そう、そうです。王妃に出世したいのなら力を貸せと言われ、王子を誘拐する計画を持ちかけられたのです。あの女、自分と国王の子どもができたからレグルス王子が邪魔になったんですよ!」


 胸糞悪い。

 俺は吐き出しそうになりながら、アクアオーラの言葉を聞いていた。

「言いたいことはそれだけですか?」

 何事もなく、罪を認めれば黙っていようと思っていたが、俺はもう我慢できなかった。


 俺は立ち上がり、レグルス王子の横まで歩くと、アクアオーラの方を向いた。


「貴女は、アルキオーネ嬢!」

 救いの神でも見つけたかのようにアクアオーラは明るい表情で俺を見た。

 女子どもなら懐柔できると思ったのだろう。

 つくづくアホだ。


「レグルス様、片方の意見を聞いて判断するのはいけませんわ」

 俺は微笑みながらそう言った。


 案の定、その言葉にアクアオーラも頷く。


 勘違いしてんじゃねえよ。

 俺は怒りでくらくらする頭を押さえながら、なお微笑みを絶やさなかった。


「ほう? では、アルキオーネの意見を聞こう」

 レグルス王子は芝居がかった口調で答える。


 期待に満ちたアクアオーラの瞳。

 すまんね、おっさん。

 アンタの期待には応えられないんだよ。


 アントニスが襲われるのからここまで全部、決まっていたことなんだ。

 そして、この後に続く俺の言葉すら全て打ち合わせの通りだ。


「いいえ、わたくしではなく、この方に聞いてみなくては……」


 俺の言葉に、前に出てきたのはテオ――デネボラの弟だった。


「お時間をいただきありがとうございます」

 テオはレグルス王子に頭を下げた。


 アクアオーラは絶望に満ちた表情でこちらを見つめていた。

 いいね、素敵な顔じゃないか。

 悪役の末路にぴったりだ。


「さあ、テオ様、お話になってくださいますか?」

 俺は最大級の笑顔でテオに話すよう促す。


 テオは頷くと、アクアオーラの方を向いた。

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