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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
六章 十四歳、記憶探ししています。
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4.合法的なお姉様とは?

「……ミモザ」

 リゲルは少しだけきつい声でミモザを呼ぶ。


 ミモザは体をビクンと飛び上がらせた。


「あの、あのね……お姉様」

「はい」

「引いたりしないでね?」

「えーっと……話が見えませんが?」

「いいから! 嫌いにならないと約束してくれなきゃ話せないわ!」

 ミモザは首を振ってそう言った。


 何をそんなに嫌がるのだろう。

 俺が引くこと前提で話をされるとなんとなく怖い。


 ミモザは俺の顔を見ながら泣きそうな顔で小さく唸り声を上げ始めた。

 まるで俺の許しを待っているみたいだ。


 仕方ない。

 俺はゆっくりと頷く。

「分かりました。約束します。嫌いになりませんから」


 ミモザは少し表情を強張らせて小さく咳ばらいをした。


「あのね、お姉様に合法的にお姉様になってもらうためにどうしたらいいのかと以前考えたことがあったの。手っ取り早いのはお兄様とお姉様が結婚することだけど、お姉様には婚約者がいるでしょう? それで、私がお姉様の兄弟と結婚すればいいんだと思ったわけ。ほら、お姉様のお家には子どもがお姉様しかいないようなのに、なぜかお姉様は家も継がずにお嫁に行くことになっているでしょ。だから、公にされていない兄弟が要るんじゃないかって思ったのよ。それでお母様に聞いたら、案の定、あっさりと弟君がいることを教えてくれたの」

 ミモザは一気にそう言った。


 うん。今の会話、めちゃくちゃ突っ込みたいところがあるぞ。

 まず、合法的にお姉様になってもらうってなんだよ。今だってお姉様って呼んでいるじゃないか。

 それから、俺とリゲルを結婚させようと一瞬でも考えたことがあるのかよ。そりゃあ、義理の姉になるけどそこまで姉になってもらいたいのかよ。

 あと、ミモザ、お前にも婚約者がいるだろ。なんで俺の弟と結婚しようとするんだ。

 大体、ミモザの奴、好きな人がいるって言ってたじゃないか。人のこと散々尻軽とかビッチとか呼んでくれたけど、お前も大概じゃねえか。


 色々言いたいところを俺はぐっと我慢する。

 勿論、話の腰を折りたくなかったからだ。


「なるほど、それで弟のことを知ったんですね」

「そう。そこからは簡単だったわ。名前を聞いて、それをひたすら図書館で調べたり、人を雇って調べてもらったりしたの」

「ちょっと待ってください! ミモザはわたくしの弟の名前を知っているんですか?」

 俺は慌てて声を上げる。


「アルキオーネ、まさか自分の弟の名前まで知らないっていうんじゃないよね?」

 リゲルが問う。


「そのまさかです。弟の名前も知らないんです! 全部秘密にされているんです!」

 俺は大きく頷いた。


 リゲルはなんだか可哀想なものを見るような目で俺を見る。

 何かムカつく。


 いや、でも自分の弟の名前を忘れているってのはなかなかないことだよな。

 知らないんじゃないんだ。

 覚えていたはずなのに忘れているんだろ。

 確かに可哀想な奴だよな、俺。


「ミモザ、お願いです。名前を教えてください!」

 俺の言葉にミモザは頷いた。


「アークトゥルス。お姉様の弟の名前はアークトゥルス・オブシディアンです」

「アークトゥルス……」


 背筋がぞわりとした。

 その名前には聞き覚えがあった。

 この感覚は、「枳棘(ききょく)~王子様には棘がある~」関連の名前を聞いたときの感覚だ。


 攻略対象者とも、ライバル令嬢とも違う名前。

 ということは、もしかして、アルキオーネを殺す黒幕なんじゃ?


 いや、違う。そんなはずがない。

 だって、弟が自分の姉を殺すだなんてそんなことありえないだろう。


 大体、アルキオーネは優しくてお淑やかなご令嬢という設定。

 レグルス関連さえなければ目立たないし、恨まれたり、嫉妬されるような性格ではないはずだ。

 そんな子が実の弟に殺される?

 そんなクソみたいなシナリオあってたまるかよ。


 ほら、この手のゲームにはお助けキャラとか、当て馬キャラみたいなのがいるだろ。きっとその手の立ち位置で出て来たに違いない。

 だって、ライバル令嬢の弟だろ。

 そんなしょぼい立ち位置の奴が黒幕だなんておかしいに決まっている。


「お姉様?」

 ミモザの声に俺ははっとした。


「あ、あの……わたくし、何かしましたか?」

「いえ、お顔が少し……」

 ミモザは言葉を濁す。


「顔……ですか?」

「すごい顔をしているから心配になっただけだと思うよ」

「はあ、すごい顔ですか」

「そ、顔が凍りついたみたいに硬いよ? 名前を聞いただけで、まるで殺人鬼に出遭ったみたいな顔してる」

「殺人鬼だなんて……そんな顔を?」


 俺は笑顔を作ろうとしたが上手く笑えなかった。頬が蝋でできているみたいに硬く冷たい。


「何か、俺たちに言えないことでもあるの?」

 リゲルは首を傾げる。

 翡翠色の瞳が見透かすようにじっと俺を見つめている。

 

 もしも、ここで前世のことを、自分の身に起きていることを洗いざらい話したらどうなるのだろう。

 今まで考えもしなかったが、そんなことがふと頭を過ぎる。


 俺の中身を全部知られたら、中身が全くの別人のようになってしまったのだと知られてしまったら、二人はどう思うのだろう。


 もしかしたら、リゲルもミモザも受け入れてくれるかもしれない。

 俺が生きるためにどうしたらいいのか一緒に考えてくれるかもしれない。

 レグルスと婚約しなくていい方法も考えてくれるかもしれない。


 でも、怖い。


 俺は男だ。大人しくも、優しくも、お淑やかでもない。ゲームの設定上のアルキオーネに戻れない。

 みんなの考えるアルキオーネだって全然違う。俺は人助けが好きなわけではない。偶々、行動していたらそれが上手くいっただけだ。

 期待されているアルキオーネに俺はなれない。

 俺はただ演じているだけだ。


 中身を知られたら最後、嫌われるかもしれない。

 嘘を吐かれた、騙されたと怒るかもしれない。

 突き放されたら、俺は誰の側にいればいいんだ。


 怖い。恐い。こわい。


「こわいんですよ。実は弟がいて、そのことを自分は一切思い出させないんです。まるで、知らない世界に迷い込んでしまったみたいで。だから、そんな顔をしていたのかもしれません」

 俺はそう言って無理矢理笑った。


 俺はやっぱり黙ることにした。

 なんだかんだ言って今持っているものを手放すのが怖かった。


 死にたくない。男と結婚したくない。

 でも、俺は誰にも必要とされないことが一番怖いのだ。

 誰かに甘えられて、必要とされることが今までも、これからも俺には一番必要なことだった。


 きっと自分のことは自分で何とかできる。

 だから、黙っているのが一番なのだ。


「そう……」

 リゲルは腑に落ちないような顔をしていたが、それ以上何か聞いてくることはなかった。

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