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10.謎

 テオが帰ってから、俺は自分の部屋に戻ると、まじまじとピアスの入った箱を見つめた。

 ピアスに付いていた黒い石と同じ黒い色の小箱は掌より少し小さいくらいのサイズだ。小さなピアスを入れておくには少し大きいサイズのようにも感じる。


 やっぱり、間違いだと返すべきだっただろうか。

 でも、デネボラに託されたものをテオが間違えるか?

 デネボラだって弱っていたとはいえ、会ったときは意識がはっきりとしていた。間違ったとは思えない。

 やっぱりこれは俺に宛てられたもののような気がする。


「お嬢様!」

「ひぃっ!」

 思わず大きな声が出た。

 俺はびっくりして小箱を落とした。

 コトンと軽い音がして小箱は床に転がる。


「あの、驚かせてごめんなさい」

 慌てたように視界の中に女性が入ってくる。メリーナだ。

 メリーナも驚いたような顔をしていた。

 どうやら大きな声を上げたせいで驚かせてしまったらしい。


「あ、嗚呼、メ、メリーナでしたか……」

「あの、そろそろお勉強の時間ですが……」

 メリーナは怖々と言う。

 いや、もう大きな声は出さないから。

 だからそんな怖がるような顔をしないでほしい。


「大声を出してすみません。もうそんな時間でしたか。すぐに準備しますね」


 そう言うとようやくメリーナはほっとしたような顔をする。

「じゃあ、先生を呼んできますね」

 柔らかな笑みを浮かべ、メリーナは教師を呼びに部屋から出ていった。


 俺はふうっとため息を吐いてから、足元にあった小箱を拾い上げた。


「あれ?」


 箱から中身と一緒に底がポロリと外れる。

 落としてしまった調子に小箱が壊れてしまったのだろうか。

 慌てて小箱を持ち上げ、確認するが、どうやら底が外れてしまっただけで他は何ともないようだ。

 いや、待てよ。外れたはずの底がちゃんとある。

 どうやら、これはもともと二重底になっているものらしい。

 二重底というと、何かが隠されているのが定石だろう。


 底を覗くと、案の定、中から小さな紙が出てきた。

 何やら文字が書かれているようだ。

 紙を開き、中を確認する。

 紙には『誕生日おめでとう アルキオーネ』と丸く可愛らしい文字で書かれていた。

 文字には水色の色鉛筆を使い、その周りを囲うようにオレンジやピンクの色鉛筆で可愛らしい模様が描かれている。


 女の子が描いたものだと直感した。

 いや、男かもしれないけど、男がこんな可愛い文字や絵を描くか? 

 描くとしたら相当凝り性なヤツか、可愛いもの好きなヤツだろう。

 多分、可愛い女の子が描いたやつ。間違いない。


 額面通りに受け取れば、アルキオーネの誕生日に誰かが贈ろうとしたものということだろう。

 でも、誰がこれをアルキオーネに贈ろうとしたんだ。

 ミモザの筆跡とは違うし、ミラか。

 いや、ミラはもっと大人びた文字を書いていた気がする。

 俺と仲のいい女の子はそれ以外いない。

 ダメだ、分からない。


 しかも、なんでこれをデネボラが持っているんだ。

 誰かがこれを贈ろうとしていたとして、デネボラがこれを持っている意味が分からない。


 考えれば考えるほど、分からないことだらけだった。

 デネボラに聞けば全てが分かるだろうに、何もかもが遅すぎた。

 もう、デネボラはいない。


 どうしよう。

 デネボラのことをよく知っている人物に聞けば何か分かるだろうか。

 そうだ。テオに聞いてみよう。

 テオなら何かわかるかもしれない。


 俺はすぐに便箋を手に取るとペンを走らせた。



 ***


 手紙はすぐに戻ってきた。

 しかし、それは俺の望んだ人から送られたものではなかった。

 それには『テオは家を出ました。家人も居場所を知りません』と書かれていた。

 どうやらスミソナイト家の者が代わりに送ってくれたもののようだった。


 畜生。渡されたときにテオに聞いておけばよかった。

 なんであのとき、他の人に見せてはいけないなんて思ってしまったんだろう。

 俺は心の中で悪態を吐きながら、手紙をあのピアスの入った小箱と一緒に引き出しにしまった。


 手紙には居場所が分からないと書かれていたが、俺は諦めきれなかった。

 俺はお父様を頼った。

 お父様はすぐに調べてくれたが、結局、テオの居場所は分からなかった。

 以前、テオは城で文官として働いていたようだが、俺の家に来た一週間前に仕事を辞めていたらしい。

 家に来たときは何も言っていなかったのに。


 そういえば、テオは「これからは後悔しないようにしようと思っている」と言っていたな。

 後悔をしないように家を飛び出したっていうのか。

 逆を言えば後悔していることがあるから家を出たということなのだろうか。

 何をするつもりか分からないが、何となくテオのことが気になった。


 そうは言っても、こうなっては俺にはもう探しようがない。

 普通の悪役令嬢物だと側に隠密的な人物がいて色々と調べ上げてくれるのだろうけど、生憎、うちは貴族の中でも中の中、普通の伯爵家。

 いくらお祖父様がすごい人でもそんなコネなどない。あったら良かったのにコネ。

 俺が個人的に使えるコネといえば、領にいる農家さんへのコネとレグルスの護衛へのコネくらいなもんか。こういうときは使えないコネだ。


 いや、コネがなくたって、俺の前世なんてただのシスコン大学生だから、こんなに可愛い美少女になれただけで御の字なんだよ。

 それでも、もう少し特殊能力がありますとか、すごい家系ですとか、そういう何かがあってもいいじゃないか。

 前世も平凡、今世も美少女で癒し系、婚約者が王子なだけでその他が平凡。平凡づくしで残念すぎる。


 いや、平凡の何が悪い。

 平凡だから何もできないわけじゃない。

 今は分からないけど、俺はデネボラから渡された意味を見つけてみせる。

 デネボラは俺がこれの意味を分かると思って渡したはずだ。

 分からないじゃ、済まされない。


 凡人なめんじゃねえぞ。

 俺は髪の毛を掻き上げて空を睨んだ。

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