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転生するならチートにしてくれ!─ご令嬢はシスコン兄貴─  作者: シギノロク
一章 十二歳、王子と婚約しました。
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9.レグルス王子にエンカウントした

 レグルス王子の誕生パーティーは盛大に執り行われるらしい。

 ついでに婚約の発表も一緒にされるということなので、俺を着飾ってくれたメイドたちも気合が入っていた。

 メリーナもいつもよりもかなり張り切っている。


 逆に俺のテンションはだだ下がりだった。

 これで婚約が確定してしまうのだと思うと、気分の上げようがない。


 俺が暗い顔をしていると、メリーナは「おまじないです」と言って、着替える前に薔薇のジャムの入った紅茶を淹れてくれた。

 察するに、メリーナは俺が緊張して暗い顔をしているのだと思い込んでいるようだった。


 俺も仕方なく覚悟を決めた。

 黒い髪をアップにし、淡いラベンダー色のドレスにシルバーのヒールを履き、ガーネットのついた耳飾りとネックレスを付けてパーティーに臨む。

 ぶっちゃけると、男なので似合っているのかどうかは分からない。

 それでも、ピンクは断固として却下し続けた俺の為にメリーナが長い時間掛けて選んだものなので、俺は無言でそれを着た。


 俺たちが城に着くころ、パーティーの会場は既に多くの人で賑わっていた。

 早めに出てきたはずなのに、どうやら出遅れたようだ。

 俺たちオブシディアン家も王子に挨拶をしなければと思うが、王子は大勢の人に囲まれていた。


「アルキオーネ!」

 大勢の中から声がした。


 レグルス王子が俺を見つけ、駆け寄ってくるのが見えた。

 俺はぎょっとして逃げたくなったが、王族を前にそんなことが出来るはずもない。

 黙ってレグルス王子のそばまで近寄る。


 周囲の視線が痛い。

 コソコソと声が聞こえる。

 王子の婚約者が俺だということがすぐにバレてしまったようで俺の胃はキリキリと痛んだ。


「これは、オブシディアン伯爵、久しぶりだな。初夏に伺ったとき以来か……」


「ええ、先日、我が屋敷にいらしたときは不在でして、十分にもてなすことができず申し訳ございませんでした。この度はお招きいただきありがとうございます、レグルス王子殿下」

 お父様がレグルス王子に挨拶をする。


 そう言えば、俺が熱を出して倒れたとき、お父様は他国にいて外交官として働いていたんだ。

 なかなか帰って来れなくて、確か、レグルス王子とは入れ違いだったはずだ。


「オブシディアン伯爵、今後は親戚となるのだ、堅い挨拶はいいだろう」

 レグルス王子は鷹揚に笑う。


「娘はまだ婚約者の身です。恐れ多くてそういう訳には参りませんよ」

 お父様は笑いながら首を振った。


 こいつはアホか?

 いくらなんでも伯爵と王族じゃ身分が違いすぎるだろうが。

 俺はツッコミたくなるが笑顔を作り、静かに黙っていた。


「奥方は、今日はまた一段とお美しくいらっしゃる」


 確かにレグルス王子の言う通り、烏の濡れ羽色した髪を結い上げ、エメラルドグリーンのドレスを着たお母様はエキゾチックな美しさがあった。


「恐れ入ります、陛下。この度はおめでとうございます」


「ありがとう。そう言えば、お父上のドゥーベ様はお元気か?」


「まあ、私の父まで気にかけて下さり、光栄ですわ。父は今、ジェード侯爵のご子息に剣を教えているそうです。アルキオーネの誕生パーティーに来ると言っていたので、近々お目にかかることになるかと思いますわ」

 お母様は鈴を転がすような声で笑う。


「ジェード家にいるのか! それは聞いてなかったな……まあいい。ドゥーベ様にお会い出来ることを楽しみにしておこう」


「ありがとうございます。父にも伝えておきますわ」


 お母様とレグルス王子の会話を俺はぼーっと眺めた。


 お父様とお母様に丁寧に挨拶するのはとても律儀で素晴らしいことだと思うが、痛い視線の中待つ俺の身にもなってほしいものだ。


 アルキオーネの名前を呼んで駆け寄ってきたくせにこの仕打ち。

 いい加減飽きてきたぞ。

 ここから逃げてやろうか?


「さて、アルキオーネ。待たせたね。手紙では熱はあのあとすぐに下がったと聞いていたが、大丈夫だったかい?」

 急にレグルス王子がこちらに向かって話しかけてくる。


 漸く、俺の番か。

「ええ、この通り、すっかり良くなりました。きっとレグルス様がお祈りをして下さったおかげですね」

 俺は慌てず騒がずスマートに返すよう努めた。


「そうか、良かった。今日は何となく顔色も良いようでほっとしたよ」


「ご心配をおかけしました。最近は運動を始めたので多少体力もつきましたから、そのおかげかと」


「そうか。それなら良かった。しかし、無理はしないでおくれ。君はわたしの大切な伴侶となるのだから」

 レグルス王子はそう言うと、俺の右手の甲にキスを落とした。


 あ?

 あああああっ!

 キス!?

 俺、男にキスされた?


 俺はすぐさま手を洗いたい衝動に駆られる。

 ああ、今すぐトイレに駆け込みたい。

 石鹸で何度も洗った上に三回ぐらいアルコール消毒したい。

 悔やまれるのは、この世界のトイレにアルコール消毒用のスプレーが置いてないことだった。

 せめて、早く、一刻も早く、俺をトイレに行かせてくれ!


 周囲から女性の悲鳴が聞こえた。


 その声にすぐに我に返る。

 ここでそんな醜態を見せるなんて男が廃る。


「まあ、レグルス様、恐れ入ります」

 俺は余裕のあるふりをしながらそう言ってやる。

 しかし、その裏では、ワナワナと身体が震えそうになるのを堪えるのに必死だった。


 鎮まれ!

 俺の右手よ、鎮まるのだー!!

 やっぱり、この天然王子には勝てないのか。

 俺は悔しくて心の中で血の涙を流していた。


「王子、ここにいましたか。陛下がお呼びです」

 護衛のような格好をした少年が割って入るような形で声を掛けてくる。

 背は大きく、アルキオーネやレグルス王子より年上だろうか。

 深い緑の髪に翡翠のような瞳をした少年だった。


「リゲルか、今行く」

 レグルス王子はそちらをちらりと見る。


「それでは、アルキオーネ。また、あとでゆっくりと話そう」

 レグルス王子は俺に向かってそう言うと、その場を名残惜しそうに去る。


 レグルス王子がいなくなると、集まっていた視線は一気になくなった。

 嵐が去ったな。

 俺はほっとして心の中でため息を吐いた。


「リゲル……そう。あの方がジェード侯爵のご子息なのね」

 お母様がレグルス王子たちの背中を見ながら、小さくそう呟く。


「じゃあ、あの方の屋敷にお祖父様がいらっしゃるのですか?」


 レグルスを呼びに来た少年のことを思い出す。

 確かに背も高ければ、筋肉もしっかりついていた。

 筋肉量と剣の腕は比例するものでもないと思うが、見た目はめちゃくちゃ強そうだった。


 いいな。

 アイツ、お祖父様に剣を習っているんだろ。

 羨ましいな。俺も習いたいな。


「ええ、確か貴女と同じ歳だったはずよ」


「え? ええ!?」

 驚きのあまり、ご令嬢とは思えぬ声が出た。

 まずい。


 お母様は一瞬驚いたような顔をするが、すぐに笑顔に戻る。

「そうよね。驚くのも無理はないわ。同じ歳のレグルス王子殿下と比べても、頭一個分、身長が違うもの」


 お母様の言葉に俺は赤べこのように頷き続けた。


「おお、ジェード侯爵の長男の話なら私も知っているよ。すごい方で、五歳のときから剣を握り、十歳のときには八つも上の騎士見習いに勝ったとか聞いたな。騎士見習いといっても相手は八年近く剣の腕を磨いてきた相手だそうだ。素晴らしい才能の持ち主だよ」

 お父様の言葉は驚くべきものだった。


 いやいや、十歳の子どもが十八歳の青年に勝ったなんて本当か?

 すごいを通り越して怖いんだけど。


 俺はリゲルの背中を目で追いながら、そんなこと考えていた。

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