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3.憂鬱なパーティー

 さあ、楽しい社交界のシーズンだ。

 楽しい? そんなわけねえだろ。

 女の子の好き嫌いのあまりない俺が唯一苦手なあの女――アダーラ・モルガナイトと顔を合わせる危険性があるんだからな。

 そりゃあ、口調も荒くなるわ。


 俺はレグルスの誕生パーティーで起きた出来事を思い出す。

 思い出しただけで腹が立つ。

 俺に突っかかるのはいいが、他の女の子を泣かすのだけは絶対許せねえ。


 いや、でも経験上、あの手の女には関わらない方がいいんだよな。

 科を作るのが上手くて、そのくせ人を罠に嵌めたがるえげつない性格をしている女の匂いがする。

 俺の性格ではそう性悪はぶん殴りたくなるのだが、それができない。

 あれは女だし、罠に嵌められるのが目に見えている。

 そう、アダーラのような女は、直球しか投げられない猪突猛進型の俺には敵うような相手じゃないのだ。

 許せねえし、ムカつくけど逃げなければならない。

 あの口の悪いベガが無視をしろと言ったのも、付け入る隙を与えるなということなのだと理解している。


 でも、やっぱり俺の性格的には逃げるくらいなら迎え撃ちたい。でも、それが罠とか詰んでないか?

 こっちから罠を嵌めるような狡さが俺にあればなあ。

 アクアオーラのときはアイツがチョロ過ぎたのと、皆が協力してくれたからなんだよな。

 でも、こんなことで協力してなんて言えない。

 だって、アルキオーネは可愛くて優しくてたおやかな女の子なんだぞ。

 罠とか悪事とか似合わないじゃん。


 やっぱり無視しかないのか。

 嗚呼、本当に嫌だ。会いたくねえ。

 俺は深々と溜め息を吐いた。


 そんなわけで憂鬱な社交界シーズンが開幕したわけだが、今宵の舞踏会は想像以上に最悪だった。


 俺はレグルスの横で笑顔を振りまく。

 いや、俺だって好き勝手に歩き回ったり、ミラやミモザと話したいんだよ。

 婚約者とは言え、レグルスとずっといなきゃいけないという決まりもないのに、何故レグルスの横から離れられないんだ。

 いや、レグルスはデネボラのことがあって精神的にちょっと不安定なのはわかる。

 俺の屋敷に泊まったときも、アルファルドとリゲルと一緒に寝たがったりしていたし、ちょっとどころじゃなく不安定なのかもしれない。


 でもさ、逃げられないように俺のドレスの裾をさり気なく掴んでいるのはちょっと違うと思うんだ。

 お前にはリゲルという護衛も、アルファルドというはとこもいるだろうに、何で俺の側にいたがる。


 さっきから頬がぴくぴくと痙攣していた。

 笑顔のし過ぎで顔が引き攣ってきたみたいだ。

 どうやら、俺の頬はもう限界だった。

 レグルスの横だとひっきりなしに人が集まってきて休憩できない。


「あ、あの……レグルス様?」

「嗚呼、どうした?」

「わたくしもご挨拶したい方が……」

「おお、そうだったか! 気づかず済まない。一緒に行こう」


 おい、おいおいおい、そう言う意味じゃねえよ。

 俺は頬を休ませたいの。

 お前が一緒に来たら意味がねえだろ。

 俺は睨んでやりたいところを我慢して引くつく頬を酷使し、微笑みを浮かべる。


「レグルス様のお手を煩わせるようなことは……」

「煩うなんてそんなことあり得ないよ。さあ行こう」

 レグルスは微笑む。


「あのですね!」

 俺は思わず大き目な声を上げてしまう。


「お姉様!」

 ミモザの声がした。

 振り返ると、嬉しそうな顔をして一直線に飛んでくるミモザの姿があった。


 俺はミモザが飛び込んでも大丈夫なように両手を広げる。

 ミモザはその勢いのまま、俺に飛び込んでくる。

 予想通りだ。


「ミ、ミモザ様、待って……」

 息を切らせて追いかけてくるのはミラだった。

 おっぱいを揺らしながら、あまり早そうに見えない走り方でミラは駆け込んでくる。


 嗚呼、今日もまた一段と良いおっぱいを見せていただいた。

 それだけで、もう心の中が浄化される。

 ミラのおっぱいは潤いのない俺にとってオアシスだ。

 まあ、それが恋愛に結びつくかというと、違うんだよな。

 やっぱり、俺はアルキオーネやメリーナみたいに穏やかで優しいおっとり系のスレンダーで胸だけ大きめなお姉さんに癒されたいんだよ。

 ミラのおっぱいは癒しなんだけど、ちょっとロリ系で顔が好みと違う。実に残念だ。


「もう、ミラったら、私のことはミモザと呼んでと言ったじゃない。お姉様も時々ミモザ様って呼ぶけど、それは嫌なんだって言ってるじゃない」

 ミモザは俺に抱きついたまま、顔だけミラの方に向けてそう言った。


「いえ、ここは一応公的な場で……」


「お友だち! 公的な場だからなんだというのよ!」

 ミモザは年下らしく我がままを言って見せる。

 年下らしくないのはミラを呼ぶとき様を付けないことぐらいだ。

 ミモザは今日も可愛い。


 でも、残念なことにミモザもミラ同様、恋愛対象にはならないんだよな。

 もう可愛い妹にしか見えない。

 甘やかしてドロドロにしてやりたいし、庇護欲がそそられるけど、それ以上でも以下でもない。

 恋愛対象というよりは、保護対象である。

 保護指定の野鳥とか、生まれたての子うさぎみたいなもんだ。欲情できる気がしない。

 可愛いから餌をやったり、可愛がりたい。そんな感じ。


「お姉様! 聞いているの?」

「え、ごめんなさい。全く聞いてませんでした」

「もう! ずっと、お姉様探したのよ。今まで、何処にいたの? あの女に嫌がらせとかされなかった? 大丈夫?」

 ミモザは矢継ぎ早にそう言った。

 そんなに質問されてはついていけない。

 せめて一つに質問を纏めてくれないだろうか。


「嫌がらせ?」

 レグルスが横から話に入ってくる。

 そういえば、コイツの存在を忘れていた。


 ミモザはハッとした顔をする。

 気付くのがおそいよ、ミモザ。


「いえ、なんでもありません」

「詳しく教えて欲しいな」

「本当になんでもないんです!」

 レグルスとミモザの激しい攻防戦が繰り広げられている。


「どうしたんですか、王子?」

 そこにまさかのリゲルが登場する。

 タイミングを見計らっていたのではないかと思うくらい極々自然に話に入ってくる。


「いや、ミモザが隠すんだ……」

「ミモザ、王子にちゃんと話すんだ」

 そして、リゲルはレグルスの味方となって参戦する模様。


 うん、面倒なことになる前に離脱しよう。


「レグルス様、申し訳ごさいません。少しお花を摘みに……」

 確か、女性はトイレに行くときこうやって言うんだったよな。

 下品にならないように、アルキオーネのイメージを保つためにお上品にそう言ってやる。


「お花?」

 レグルスは訝しげな表情をする。


 リゲルがこっそりと耳打ちする。

 多分、トイレのことだと説明してくれているらしい。


「そうか、それは失礼した。行ってきてくれ」

 レグルスは少し顔を赤らめて頷く。

 よし、レグルスからも許可を得た。

 逃げよう。


「あ、お姉様狡い!」

 ミモザが叫ぶ。


「ミモザ、お前は事情聴取だよ」

 リゲルは笑顔を浮かべながら、素早くミモザを捕まえた。

 何だか怖い顔で笑っているけど、俺は見ていないことにした。


「それでは、失礼致します」

 ミモザ、ごめん。

 今度、何か奢ってあげよう。許してもらえるか分からないけど。

 俺は内心、ミモザに謝罪しながら、ミラの手を引いた。


「え? ええ?」

「いいから行きますよ」

 ミラは混乱しながら、俺についてくる。


 ミラはアダーラのことを知らないし、巻き込まれるのは可哀想だもんな。

 ちゃんと連れ出してあげないと。


 こうして俺は、レグルスの横から無事に逃げ出せた。

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