29.新たな決意
櫓にいた野盗たちは憲兵に連れて行かれた。
広場にいた野盗たちもレグルスとディオンとエリックが数人捕まえてくれたし、それ以外にも数人、憲兵の方でも捕まえてくれたらしい。
化け物の格好の奴らに確認した人数と捕まえた人数があっていることから、野盗たちは全員捕まったようだ。
俺は憲兵たちに身分を明かし、彼らの身の上を話し、寛大な措置をとって欲しいとお願いした。
帰ったら、お父様にもきちんとお願いしよう。
あとは彼らがきちんと職に就けるように手はずを整えておく必要があるな。
うーん、やることがいっぱいある。
社交界のシーズンまでに間に合わなかったら俺だけこっちに残って色々手を回す必要があるかもしれないな。
これですべてが解決……というわけにはいかなかった。
俺は横目でアントニスと、ミラとミモザの謝罪合戦を見つめた。
「すみませんでした!」
アントニスが勢いよく頭を下げた。
「いえ、私がちゃんとアントニス殿から離れなければこんなことには……」
ミモザはしおらしく首を垂れた。
「それを言ったら、私がちゃんとミモザ様の手を繋いでいなかったからだわ。ごめんなさい」
ミラも頭を下げる。
「いや、護衛が護衛対象を見失うなんてあってはならないことです」
「でも、あんなに人がいるところで離れ離れになってしまう危険性は私だって分かっていたはずなの。ミラ様の手を握るなり、アントニス殿のベルトでもなんでも掴んでおけばよかったんだわ」
「そうよね、やっぱり私がミモザ様の手をしっかり握っていれば……」
「いえ、私がミラ様の手を握っていなかったせいなのよ」
こんな調子でずっと三人は謝り合っている。
かれこれ十分以上そうしているのではないだろうか。
このままじゃ話が進みそうにない。
帰れなくなる可能性も出てくる。
ミラとミモザはもう一度、オブシディアン家の屋敷に泊まる気なのだろうか。
そうなると、リゲルもお泊まりだな。
レグルスとアルファルドはなんて言うだろう。
やっぱり泊めることになるのかな。
うん、面倒なことになるぞ。
さっさと話しを終わらせよう。
「えっと、つまり、わたくしたちがいなくなったあと、広場に人が増えすぎてしまってミモザだけはぐれてしまったということですよね。そんなの誰が悪いとかないでしょう。人混みの中では大人だってはぐれてしまうことがありますもの」
俺はそう言って、三人の話に割り込んでやる。
前世の記憶を思い出す。
家族で遊園地に行ったとき、真っ先にはぐれたのは父さんだった。
トイレに行って迷子になるとかそういうわけではなく、普通に一緒に歩いていて急にいなくなった。
携帯があったからよかったようなものの、無ければ暫く迷子だっただろう。
大人も迷子になるのだ。
まだ十三歳くらいのミモザがはぐれてしまっても誰も責めることはできないだろう。
ミモザは納得していないような表情だった。
仕方ない。追い打ちを掛けよう。
「それに、皆が悪いなら、わたくしやリゲルだってミモザを残して行ってしまったので悪いはずです。言ってたらきりがありません。言い合いっこなしにしておきましょう?」
俺はリゲルの方を見た。
リゲルはちょっとばつが悪そうに頭を掻きながら苦笑いをしている。
これ以上悪いところ探しをすると、豊穣祭に行く切っ掛けを作った俺が最終的に悪いことになったり、お母様が責任感じて出てきたりしそうだ。
正直面倒になる。
やっぱり、人間適当が一番。考え過ぎるのは良くない。
「でも!」
ミモザが叫ぶ。
「でも、ではありません。これ以上言うと、暫くわたくし黙り込みます」
俺はそっぽを向いた。
勿論、本気じゃない。
このくらい大げさにやった方がミモザには効果的なだけだ。
「そ、そんなこと言われたら何も言えなくなるじゃない!」
案の定、ミモザは可愛らしく拗ねるように頬を膨らます。
「あら、よく分かりましたね。何も言えなくするためにそうしているのです」
「い、いじわる!」
ミモザは顔を真っ赤にして叫ぶ。
本当にからかうとミモザは可愛い。
思わず顔が緩む。
「いいですか。皆悪くないんです。でも、気になるようでしたら、今度からはぐれないような工夫をしましょう。どうです?」
「分かった。そう思うことにする」
ミラはため息を吐いて頷く。
アントニスの方を見る。
アントニスはガクガクと大きく頭を振って頷いた。
ミモザも渋々頷く。
よしよし、こちらはもう大丈夫そうだな。
あとはもう一方の問題を解決する必要があるようだ。
いつの間にか、リゲルとアルファルドが喧嘩をしていたようだ。間にレグルスが入っているのが見える。
「俺の方が一人多く倒した。だから俺が勝ち」
「いや、あそこではそうかもしれないけど、その前に俺の方がたくさん倒してるんだから俺の勝ちだよ」
「いや、二人ともアルキオーネにお願いされたことをやってないんだから、それ以前の問題だと思うぞ」
訂正。二人で争っているんじゃない。
レグルスも参戦して三人で争っているらしい。
「もう、こっちは何をしているんですか!」
「いや、向こうの話が長そうだったから誰が今回一番アルキオーネの役に立ったか決着をつけようかと……」
「あのう、意味の分からない争いはやめてください」
俺は大きなため息を吐いた。
「意味はある」
「そう、一番役立った人がこれからアルキオーネを守ることにしようかという話になったんだ」
「そうは言うが、最終的には婚約者のわたしがアルキオーネを守るから安心して欲しい」
「あ、抜け駆けはダメだよ、レグルス!」
「アルに決めてもらおう。誰が一番役立ったと思う?」
三人がわちゃわちゃと話し出す。
コイツら、一人一人でいるときは馬鹿じゃないのに、三人集まるとどうしてこうも馬鹿になるんだ。
俺の部屋に忍び込んで来たときといい、本当に何なんだ。
三人寄れば文殊の知恵の逆を行く三人に嫌気がさす。
全員殴ってやろうか。
「そもそも、役に立つとか立たないとか、まるで人を道具のように言うことに疑問を感じます。貴方がたは道具ではないのでそう言う目で見たことがございません」
俺は苛々とそう返す。
「でも、誰が一番偉いとかあるでしょ?」
アルファルドが食い下がる。
「ないです!」
俺はきっぱりと叫んだ。
コイツは本当に馬鹿か。
偉いとか偉くないならここにいる中で一番偉いのはレグルスに決まっているだろう。
勿論、そう言う意味でないのは分かっている。
だから、ないと言ってやったのだ。
「いいですか、私を守るのはアントニスです! これから先も変わることがありません。大体、リゲルはいつもやり過ぎるし、アルファルドは私の話を聞かないし、レグルス様は王子なので危ないことは控えていただきたいと思います。よって、守っていただかなくて結構です!」
「ええ! 確かにやり過ぎかもしれないけど……」
「怒られた……」
「わたしだって戦えるぞ!」
「文句は受け付けません! 以上!」
三人は不服そうだったが、俺はそこで無理矢理話を終わらせた。
アントニスがいればこと足りるし、今回に敵が一人や二人なら自分で何とかできることも分かった。
何故、この三人に守ってもらう必要がある。
俺は守られるべきお姫様ではない。
自分を守るすべを持たないミラや何度も攫われているミモザを守るべきだろう。
だめだ。多少ゲームに比べにまともだと思っていたが、やっぱり本質的にコイツらはポンコツだ。
任せておくわけにはいかない。
これは本格的に俺が強くなって、俺の体もミモザもミラも守れるようにならなくては。
俺はそう心に強く決めるのだった。
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