狙われた少年は嫌でも生きる
しかし、奏汰の言う通り彼女はバンパイアだと認めざるを得ないような容姿や行動を取っている。心なしか血を吸って元気になったようにも見える。
ふと彼女を見ると何故か俺の方を向いてニンマリと笑いかけてくる。目は笑ってないが。そしてそろりそろりとにじり寄ってきている。
逃げるという手段は今さっき無くしたところだというのに体は言うことを聞かずガタガタと震えている。今クラスにはざっと見積もって20人はパニック状態から抜け出せず訳の分からない行動をしたり逃げようとして出入口に人が集まっている。しかし、出入り口近くの人は優先的に血を吸われたのか山のように積み重なっており、出ることが出来ない状態になっていた。
この現状ではクラス全員を逃がすことは出来な……ん?なんで俺は全員を助けることを考えているんだ?思い出したくもないがこいつらは俺のことを中学の時新たな標的ができるまでの約2年間いじめという名の地獄に叩き落とした奴らだぞ。高校になって印象も変えたから記憶にすら残ってないかもしれないが。しかし、この出来事は俺の心にしこりのように残っている元は30人近くいた友人も1桁まで減り、その1桁の中で今の高校に進学したのは僅か3人。その誰もが新たな友人との関係を築き俺と関わることがなくなっていった。関係が元々浅かったと言われればそれまでだが非常に辛い。
というわけで、俺はこいつらを助ける義理もなければ許せるほどお人好しでもない。
「ひっ」
「え?」
考えていて気づかなかったが、彼女のとの距離はあと2歩まで迫っていた。しかし、彼女顔にはさっきのような笑顔はなく焦りすら見えていた。
「じ…じゅ…十字………」
「十字?あー十字架か?そっかバンパイアも十字架ダメなんだったな。ふっふっふっふっ。ほれほれ近づけるもんなら近づいてみろよ」
俺は首にかけてあった十字架をこれ見よがしに揺らした。
「うっよりによって首にかけるなんて…これじゃ血を吸うどころか近づけないやん!」
「まさか校則違反で付けていたネックレスが役に立つとはな」
「折角美味しそうなニンゲンを見つけたっていうのに……」
「美味しそうなのか?」
「そりゃもう!人間で言う高級料理店にも引けを取らないほどいい匂いがします~!狙われない方がおかしいほど。」
さらりと怖いこと言うな。これからも狙われることがあるかもしれないってことじゃないか!
「お前以外のバンパイアに狙われる可能性は?」
「あるよ。当たり前でしょ」
当たり前じゃねー少なくとも俺の中でそんな事実は当たり前にしたくない!
「どうしたら狙われなくなるのですか」
「だから~さっきから言ってるじゃない!血吸わせてって!」
「嫌です」
「じゅ、十字架なんて怖くないもん!早く吸わせて!」
そして今に至る