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第八話

「っしゃーーーーーー!」


 じゃんけんに勝った元気のいい男子は膝をついて仰け反り、思い切り叫ぶ。いやいやいやいや、そこまで喜ぶようなことなの?

 一方、負けた男子は膝と手をついて四つんばいになって悔しがっている。しかもグーで床をドンドン殴っている。なんだかなあ……もういいや。


「よっしゃ勝った、俺の勝利だ、一番は俺のもの!」

「クッ、僕の計算は完璧だと思ったのに……まだまだ勉強が足りなかったか」


 なんか浸ってるね。でもそんなことよりも早く自己紹介始めて欲しいな。


「よーし、じゃ決まったみたいだから俺が司会するな」


 そう言って出てきたのは一回戦敗退の春樹だ。仕切るの好きなんだね。


「んじゃ、勝ったお前、自己紹介しろよ」

「おう、もちろんだ! 俺の名前は伏田桐也(ふしたきりや)だ。好きな言葉は『一番』で、好きなことは一番になること。好きな数字はもちろん『1』だ。一番がかかってたからさっきまで変なキャラだったけど、普段は普通だから安心してくれ。みんなよろしくな! 気兼ねなく話しかけてくれよな!」


 すっごい「1」に固執してるね。まさか、それでじゃんけんにも必死だったのかな。

 自己紹介が終わったみたいなのを見て、もう少し続かせようと春樹が質問をする。手はグーの形にして伏田君の口元に持っていって、まるでマイクのようにしている。


「んじゃ、好きな食べ物は?」

「もちろんイチゴ! あとイチジクにライチに一味唐辛子!」

「さっすがだな! んじゃ嫌いなものは?」

「2だ。2ほど最悪なものはねえ。だってあともう一歩で1じゃねえか。その残念な感じが嫌いだ」

「よし、じゃ最後に座右の銘だ」

「え、座右の銘? うーん……一番は一番だ。かな」

「意味わかんねえけど、お疲れ! じゃ、次はさっき負けたヤツ。2位だったから2番だ」

「な? 悔しいだろ?」


 まるでインタビューのような自己紹介が終わり、次の人へ。2番って聞いたら伏田君が賛同を求めた。まぁ、確かにその気持ちはわかるけどね。


「僕の名前は仙道智晴(せんどうともはる)。好きなものは学ぶこと。今やりたいことは学級委員長。嫌いなことは無駄なことだ」

「じゃ、好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」

「好きな食べ物は白葱とマグロの目玉。頭に良いらしい。嫌いな食べ物は、ない。強いて言うなら風味しか出さないバニラエッセンスかな」

「あはは、さすがだな。じゃ最後に座右の銘」

「学ぶことは無駄ではない」


 言い切った後に仙道君は席へ戻った。学級委員長になりたかったんだね。食べ物の趣味に関してはちょっと変だな。


「じゃ、次誰行く? 俺はまぁ5番目でいいけど」

「じゃあ私が――」

「私が行くわ!」


 先に名乗りをあげようとした女子の声を押しつぶして、私の前の席の女子が叫んだと同時に教卓の前に行く。もう一人の女子は迫力に驚いて固まっている。確かにすごい声だったしね。ここで言わせないと地震でも起きそうなくらいにすごい迫力だったわ。


「学級委員長志望の小暮杏奈(こぐれあんな)です! 好きなものは色々あって、嫌いなものも色々です! どうか、学級委員長は私にやらせてください! さっきの彼ではなく、是非私に!」


 闘争心むき出しだよ、ビックリした。春樹も少し驚いているし、隣でスタンバッている女子も驚いている。ん? なんだか後ろから熱いオーラがくるような。

 後ろを向いてみる、と思いっきり睨みを利かせて小暮さんを見ている仙道君がいた。怖いよ。ちなみに、池内先生は腕組みしてうんうん頷いている。


「じゃ、好きな食べ――」

「今私は学級委員長になれるかどうかでいっぱいなの! 好きなものなんて思いつかないわ!」

「す、すいません。じゃ、次……」


 凄まじい! なんて凄まじい自己紹介なのよ。まさか学級委員長志望ということを言いたいがために一番に自己紹介したかったのかな。


「私は木梨葉奈(きなしはな)です。好きなものはイチゴパフェで、嫌いなものは苦いもの。好きなことは色んな人と楽しむことだら、みんな気軽に話しかけてね!」

「んじゃ、座右の銘は?」

「和気藹々!」


 そう言って木梨さんは席に戻っていった。明るくて活発そう、そして可愛いな。目がパッチリしていてハキハキしてるの。


「じゃ、次は俺な! 俺は樋口春樹。好きなことは遊ぶこと。だから昼休みとか一緒に遊ぼうぜ! んで好きな食べ物はしょうが焼き。嫌いなものはきのこ類全般だ。座右の銘は自分らしく生きる! みんな仲良くしてくれよな! どんどん話しかけてきてくれ!」


 春樹の爽やかな自己紹介も終わり、これで5人の自己紹介が終わった。

 先生は未だに腕組みをしてうんうん頷いている。なんで? いつまでそうしてるのよ。しかも頷き方が変なの。力が抜けたように頭が降りて、重たそうに上に上がるの。まるでこっくりこっくり……って、寝てるじゃない!

 どうしよう、言おうかな。でも大きい声出すの恥ずかしいし、でもこのままじゃなんかダメな気がするし。春樹が気づくよね。


「先生、先に言いたかった5人はもう言ったぜ。次、先生が言わなくていいの?」


 春樹が話しかけるけど、先生は起きる気配も全くなく、春樹は春樹で気づく様子は微塵もない。何で気づかないのよ。


「先生? 終わったんだって!」

「…………トリ……に、く……」

「え? トリがいいの? はぁ、しゃーねーな。んじゃ次は右端から順番に行く? じゃ、お前から」


 あれ? 春樹が先生の居眠りに気づくことなく次に進んじゃった。先生鳥肉って言ったんでしょ? それがなんでこんな流れになるの? いや、別にいいんだけど。トリがいいの? ってどういう……あ、最後がいいって認識しちゃったんだね。納得。

 私が考え込んでいる間にも自己紹介は進んでいく。司会はさっきと変わらず春樹。一人ひとりが教壇に立ってするみたいだ。みんな緊張しながらも春樹の誘導に従って自己紹介していく。

 しばらくして私の番がきた。緊張するけど席を立って前に出て深呼吸。落ち着けたらいいのにな。


「私は佐伯美紀奈です。好きなものや嫌いなものは一つに絞れないほど色々あります」

「んじゃ、座右の銘は?」


 あぁ、この質問がきたか……。ずっと考えていたんだけど、う〜ん……ダメだ、思いつかないよ。


「お、思いつきません」


 あ〜恥ずかしいよ。俯かずにはいられない。答えられなくて顔が真っ赤になってしまうよ。


「え、ないの? 思いついたりしない?」


 少し戸惑ったように春樹が聞いてくるけど、思いつかない。無言で首を横にふる。


「そっかぁ、んじゃしゃーねーな。じゃ、代わりに目標は?」

「目標? うーん……ない、です」


 恥ずかしい、何も答えられないじゃない! でも、目標なんてないよ、来輝高校に入るっていう目標だってもう達成しちゃったもん。


「マジ? じゃ、趣味」

「えっと……ありません」

「クソッ、好きな音楽は」

「……特に」

「ぬあっじゃ、好きなテレビ番組」

「断定できるものはちょっと……」

「うそだろ? じゃ……一年で好きな季節! これならあるだろ」


 うーん、春は色んな花が咲いて綺麗だし、色んなことの門出のようだし、賑やか。あとぽかぽか陽気でおひるねが最高だから結構好き。じゃあ春ね。

 あ、でも夏も、暑い毎日だけど一日頑張ったあとに食べる冷たいアイスは最高だし、夏祭りや花火大会、あと忘れちゃダメなのが夏休み。好きに決まっているじゃない。

 秋だって、調度いい気温で色んなことがはかどるし、文化祭や体育祭で活気があってすき。あと紅葉がとっても綺麗だし、旬な食べ物とかも多くて好き。

 そして冬はとっても寒いんだけど、だからこそこたつでぬくぬくするのが幸せ。蜜柑なんて格別よ。それにクリスマスや大晦日があるし、新年には初詣におせち料理、わいわい出来て楽しい上に雪が降ると尚最高。だから好きなの!

 うーんどうしよう、春も夏も秋も冬も好きよ。うーん……もういいや、無難に今にしよう。


「春です」

「おぉ、答えが出たんだな! すっげえ長考だったな」


 確かに。結構悩んだからね。笑顔で春樹は言ってくれるけど、なんだか申し訳ない気持ちになる。


「お疲れ! んじゃ次の人」


 自己紹介を終えて席に戻る。はぁ、緊張した。まさかこんなに長い間前に立ってることになるなんて思わなかったわ。

 しばらくすると最後の人までいったようで、先生の番になる。でも未だに寝ているみたいだな。


「先生、自己紹介終わったぞ! トリだ、先生の番だぞ!」


 春樹が呼びかけるけど、ピクリともしない。相当熟睡しているようだ。


 キーンコーンカーンコーン……


 チャイムが鳴って静まり返る中、先生の寝息だけが聞こえる。


「……みんな、帰ろっか」


 春樹の声に万丈一致、みんな荷物を持って教室を出る。電気も消して、先生だけを取り残して教室を去った。

 先生はちょっとだらしないみたいだけど、色んな人がいて楽しいクラスになりそう。明日から楽しみだな。

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