第六話
はぁ、もう高校に部活見学行ってから一週間が経っちゃった。未だに私は部活どうしようか決めてない。
どうしよう、やりたいのはやまやまなんだけど、やっぱり中学最後のあの試合が、ナイフのように私の心に鋭く刺さっている。
それでもやりたいなぁ、やりたい。やりたいよぉ……でも、怖い。
だってここが頑張り時って時にあろうことか空振りで失敗なんだよ、中学で最後の試合だったんだよ、半年くらいたったけど未だに立ち直れないんだよ……。怖くなったっておかしくないよね。
『佐伯 美紀奈』
「はい」
マイクで名前を呼ばれたので、私は悩むのを中断してはい、と返事をした。
今は入学式の途中で、新入生全員の名前を読み上げている最中だ。私は一年四組だったから割と暇だったので安心してゆっくり悩んでいられたというわけなの。安心してゆっくり悩むっていうのも変なことだけど。
全部で八組まであって、確か一年全員で三百人だったかな。よく覚えてないや。
ちょっと学校に着くのがギリギリであまりしっかりとクラス表見れなかったんだけど、ざっと見た限りじゃ私の友達とはクラスが離れてしまったみたい。私を合わせて晴中からは五人来たんだけど、見事にバラバラだ。
知らない人ばっかりだけど、うまくクラスに馴染めたらいいんだけどな。
『橘口 春樹』
「はい」
知った名前が聞こえてきて、思わずビクッとしてしまった。まぁ一緒の学年で一緒の学校なんだから名前が出てきても驚く必要はないんだけど、私の真後ろで声がしたのよ。ビックリしたってしょうがないよ。
チラッと後ろを見ると、私の視線に気づいた春樹がニコッと笑ってくれた。爽やかだ。
人生の門出とも言えるであろう高校の入学式にピッタリと似合っている春樹の笑顔が見えた。周りには桜が咲き誇っているように見える。青春だな、まさに春だ。春樹ってまるで歩く春のようだ。
春樹によって春を感じれて満足した私は前に向き直った。
ふと右を見てみる。そこには驚くほどにシャキッとした女の人が座っていた。メガネを掛けていて髪は肩ぐらいまで、キリッとしてて頼りがいのありそうな人だ。少し斜め前をじっと眺めてて、その顔はキラキラと輝いている。
その視線を追ってみると、来輝高校の校章の幕が垂れ下がっていた。
もう一度右隣りの人を見てみる。やっぱり顔が、いやそれどころかよく見たら全身が輝くオーラに包まれている。
おそらくすっごくこの高校に入りたかったんだろうな。私もすっごく入りたかったけど、隣の人には負けると思う。
次は左を見てみる。そこには髪がぼさぼさで、いかにも何事にも無関心ですよ、という感じの人が……いや、よく見ると目はキラキラと輝いている。やっぱり新たな高校生活への期待に満ち溢れているようだ。
私は周りを見回してみることにする。ゆっくり、ゆっくりと色んな人の様子を見てみたけど、例外なくみんなキラキラしてる。悩んでいる人なんていないのかな?
とにかく、平和をいっぱい感じた。やっぱりみんな期待してるんだね。
それもそのはず、この来輝高校は創立五年にも関わらず様々な偉業を果たしている。例えば超難関大学への合格者、全国一位だったり、色んな部活で全国大会出場を果たしていたり、授業の一環でやった化学実験で新発見をしたり……。
何よりも、自由な校風とフレンドリーな雰囲気で、説明会に来た人をどんどん虜にしていっているといわれているの。もちろん私もその一人よ!
そしてみんなを虜にするような説明をした上に、この高校の創立者である緑川弘校長先生が、舞台の横で出番を待っている。どんなことを話すんだろう。
『校長先生のことばです』
一年全員の名前を呼び上げ終えたようで、校長先生のことばが行われるようだ。
舞台の横手からゆっくりと階段を上って、マイクを持って話し始める。
『えー、新入生の皆さん、初めましての人もそうでない人もこんにちは。校長の緑川弘です』
校長先生の挨拶に対して何人かの人が挨拶を返した。話はまだ続いている。
『受験戦争は辛かったでしょう。よくウチに入るために頑張ってくれましたね。お礼を言います。有り難うございました。そして入学おめでとうございます』
校長先生からの労わりの言葉とお礼の言葉に、反応を困ってしまう。照れくさいような、でもそう言ってもらえると嬉しいような。
校長先生ってこんなこと言う人なんだなぁ。
『さて、苦しい受験戦争を終えましたが、勉強はまだまだ終わりませんよ。もちろん高校生活はそれだけではありません。部活動は必須ですからね、毎日の努力で何かをやり遂げてください。そしてそれだけでもありません、ウチはコミュニケーションを重視しています、だから学校行事はもちろん、普段の授業でも全校生徒で何かやろうと予定しています。皆さん、高校生活を楽しんでくださいね』
普通校長先生の話なんて誰も聞かないと思ってたんだけど、みんながみんな校長先生に釘付けになっている。私もなんだけどね。
みんなの顔を見ると、本当にみんなキラキラしてるんだけど、校長先生はみんなよりもさらに顔がキラキラしてるんだよね。もちろんオーラも輝いている。来輝高校の校長にピッタリな気がする。さすが校長先生だ。
『高校生活は忙しい、そしてとても充実していますよ! 余すことなく全てに力を注いで一つ一つのことを大切にしていけば、きっと掛けがえのない思い出を手に入れられます! そして人間関係を大切にして、色んな人と関わって掛けがえのない友達を作れば、きっと楽しすぎて常に笑い続けずにはいられない人生を手に入れられます! かく言う私もその一人です』
確かに、校長先生は常にニコニコ笑い続けている。作り笑いなんて感じは一切しない、その上あまりにも幸せだからか、校長先生の笑顔を見てると不思議と私まで幸せな気分になってくる。強烈なオーラだ。憧れるなぁ。
『コミュニケーション能力は一生の財産になります。何をするのにも人との繋がりはとても大切なことです。だから、臆せず色んな人に話しかけましょう、そして大切な人をどんどん増やしていってください!』
なんだか輝きすぎて校長先生を直視できなくなってきた。あぁ、テニスのときだけじゃなく、今もサングラスが欲しい。
私もあんなに輝く人になりたいな。いつか、私を見るのにサングラスが欲しい、と言われるような人になりたい。
『最後に、皆さんが卒業のときに幸せすぎて笑顔が止まらない人になっていることを切に願っています』
そう言って校長先生のことばは終わった。体育館にいる校長先生以外の全ての人が拍手をしている。
申し訳ないことに、私は思わずそんなことを願われても……と思ってしまった。でも、校長先生のような人になるってことだったら私は本当にそうなりたいな。
『では、これで入学式を終わります。一年生の皆さんの退場です、拍手で送りましょう』
一組からどんどん一斉に起立して体育館から出て行く。拍手なんてされたらハラハラするなぁ。
間もなくして四組である私たちも退場のときが来た。
目が合うと気まずいかな、と思って私はあまり周りを見ずに目の前の人の背中だけを見て歩いた。
それでもちょっと気になったから周りを見回してみると、上級生の人もみんな輝くオーラを発していた。
本当にみんなが輝いている学校だな。私もそんな風になれたらいいな!
高校生活への期待は高まるばかりだ。




