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前編

4月27日、日間ランキング4位になってました。

ありがとうございます!

4月28日、日間ランキング3位に上がりました。

ありがとうございます!!

 

 魔の森を中心とした世界。その南、ルジャレス国。普段は西の国と簡素に呼ばれている、その王宮。


 16才になり、王都にある学院を卒業した貴族令息令嬢は、王宮舞踏会にてデビューするのが慣わしになっている。

 デビューの令嬢は純白のドレス。まっさらなそれは、これからどんな色にも染まることを表しているのだろう。


 先日学院を卒業した私も、もちろん純白のドレスを着て参加している。

 学院の友人達と楽しくおしゃべりしながら、国王陛下のご臨席を待っているのだ。


 陛下がご臨席された後は、デビューする子息から順にあいさつが始まる。といっても、数が数だから数人まとめてしまうこともある。成績優秀者はひとりであいさつができるけれど。


 あいさつが令嬢に移り、最後に私がひとりで陛下の前で淑女の礼をとる。


「主席卒業、ルナーー」

「ルナリア! 貴様との婚約を破棄する!!」


 ……陛下の御前でなにやらかしてんのよ。このバカ者が。


「……バカなの?」


 思わず口から本音が漏れても仕方ないと思うの。やれやれ、と陛下のため息も聞こえたし。

 私は声のした方を向いた。


「……バカなの」


 今度は疑問じゃなかったわ。バカね、正真正銘の。


 私の視線の向こうには、私を呼び捨てにしたバカと、そのバカの腕にぶら下がっている娼婦(ビッチ)とその取り巻きふたり。確か騎士団副団長子息と子爵子息だったかしら。


 陛下を後ろに庇うような位置での対面に、なにを思ったのか声を荒げたのはバカだった。


「貴様! 父上に近寄るな!! この売女が!!」


 私と陛下のため息がかぶった。デビューの挨拶を途中で遮ったのはそっちだろうに、なんという勘違いをしてるのかしらね。


「貴様は父上に色目を使い、この俺様の愛しいマリアを傷つけ苛めた! よって貴様との婚約を破棄する!! マリアにひざまづいて詫びろ! そして出ていけ! 貴様などこの国に不要だからな!!」


 言ってやった! とばかりにふんぞり返ってるけど、まだ理解してなかったのね、このバカ。


「でんかぁ、わたしぃ、あやまってぇ、もらえたらぁ、それでゆるしてあげますぅ」

「マリア、君は優しすぎる。未来の王妃に仇なしたものを許してはいけない」

「でんかぁ」


 なんの茶番なのかしら。それとも私の目がおかしくなったのかしら。だから心優しき男爵令嬢(ビッチ)に謝れとか言われるの? ていうか、未来の王妃って言った? この国の王族をご存知ないとか言うの? バカなの? ええ、バカなのよね。知ってるわ。


 私は手に持った扇でバカ達を指した。そして命じる。


「衛兵、この不敬な愚か者達を捕らえよ」

「「「「はっ!」」」」


 そのつもりで近くにいたらしい、しかも近衛達がバカ達を捕らえる。陛下の護衛はともかく、近衛がなんで下級兵士の真似事をしてるのかしら。


「なっ! なにをする! 俺様を誰だと思ってるんだ!」

「いやぁ! はなしてよぅ!」

「殿下になにをする! その汚い手を離せ!」

「マリア!」

「でんかぁ」


 耳障りなわめき声をあげる愚か者達の前に、カツンとヒールの音と共に立つ。


「貴様ぁ! なんの真似だ!? 父上だけでなく兵士にも股を開いたとでもいうの、がぁ!?」


 聞くに堪えない暴言の途中で、近衛の一人の拳が(うな)った。ステキ。後で名前を聞こう。


「ぎ、ぎざまぁ! なにをする!!」


 まだそんな気力があるのね、呆れるわ。


「俺様は王太子だぞ! 未来の国王だぞ! その俺にこんなことをしてただですむと思うのか! 父上っ、こやつらに罰を! 極刑を!!」

「なんだか、とてつもない勘違いをしてらっしゃるようね。さすがに学院に通って歴史を学んだら理解すると思っていたけど、妄想もそこまでくると罪だわ」


 陛下と王弟殿下に目視で問いかける。あきれたような、諦めたような表情で頷くのを見て承認されたと認識する。


「なんだと!!」

「まず、ひとつ目の勘違いを正しましょう」


 扇をバカの目の前に突きつける。


「っ、な!?」

「あなたは王太子ではないわ。そして王族でもない。厳密に言えば、王弟殿下の子として籍は登録されているけれど、実の子ではないのよ? 何度も訂正してあげたのに、なぜ嘘を真実だと思い込んだのかしら」

「……は?」

「え?」


 バカと令嬢(ビッチ)がポカンとした顔になる。あなた達歴史の授業聞いていたの? この国の王族に王子はいないのに。王弟殿下以降王女しか産まれていないと習ったはず、知らない人はいないのに。庶民ですら知ってる事実なのよ? あなた達バカなのね。知ってたけど。


「バカなことを言うな!! 俺様が王子じゃなくてなんだというのだ! その上叔父上の子だと!? 不敬にもほどがあるぞ!!」

「私は事実を述べているわ。あなたは王族じゃない」

「いい加減にしろ!!」

「ルナリディアの言う通りだ。そなたは王族でも王子でもない」

「なっ父上!?」

「儂には息子はおらぬ」


 埒が明かないやり取りに、とうとう陛下が口を開いた。


「なにをどう思い込んだのか、そなたは突然自分は王子だ! と叫んで王宮に居座ったのだ。父である大公がいくら説明しても聞かず、しまいには大公を見下す始末。子供の遊びかと大目に見てやろうともしたが、呆れてものが言えなかったわ」

「いくらなんでも、ものの分別はつく歳でしたからね。大公家から籍を抜く承認を頂きに陛下へお目通りを願ったのですが、まさかそこで国王の息子である、と宣言をするほど愚かだったとは」


 陛下と大公閣下によるさすがは兄弟と言える流れるような会話。その中に必要な説明は全て入ってる素晴らしさ。見習いたいわ。

 周りの貴族達は知っている事実だけれど、おさらいと自分達に非はないとさりげなく主張するためのものだから、王族を貶めないためにわざとらしく驚いたりしている。


「は、な……あ」


 そうなのよね。大公閣下の唯一の跡取りであった嫡男が、大公妃と恋人との子供だったのは公然の秘密とも言えるものだったわ。もちろん知っているのは公爵家以上の者だけだけど。大公妃の父親は野心溢れる策略家で、恋人との間に子ができた娘を、これ幸いとばかりに大公家に嫁がせたの。さすがに陛下に差し出さなかっただけまだ良識はあったかもしれないわ、常識も良心もないけど。


 大公妃は罪悪感に押しつぶされる前に罪を告白。大公がその恋人を保護しようとした時にはすでに侯爵の手の者によって還らぬ人になっていたそう。それを知った大公妃は大層嘆き、産後の肥立ちが思わしくないのと重なってお亡くなりになった。


 子に罪はない、と大公家で育てられたバカは、10歳の時侯爵家に籍を移すために王宮に来たの。バカを跡取りとして大公妃の父親を隠居させようとしたのね。まぁそれも叶わぬ夢と消えたわけだけど。


 なんの天啓を受けたのか、バカは自分は王子で王太子であると(のたま)ったのだ。もちろん、その場で説明からの説教を受けたにもかかわらず、その思考は変わらず。王宮に居座り居丈高にふるまい始めた。大公家に連れ帰っても閉じ込めてもなぜか王宮に戻ってくる。


 わがままな使い方しかしないけど、魔力はそれなりにあるのが災いしたわね。なにを壊そうと誰かを傷つけようとおかまいなしなんだもの。監視しつつ傍観するしかなかったのよ。


「これは誰もが知っていることよ。各家に通達されているもの」


 周知徹底、基本よね。なのに、バカの取り巻きと令嬢(ビッチ)はなぜそれを知らないのかしら。昔から不思議だったのよね。王宮の中庭でバカに(かしず)いて次期国王とかもてはやしてたから、バカにつき合って合わせてるだけだと思ってたのに、まさか本気でそう思ってたなんて。


 本当に。


「バカなのね」



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