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夏休みが終わって新学期、九月になったが残暑がまだまだ微たちを容赦なく灼熱地獄へと誘っている。


「暑い...」

「ならここに来なくても良いんだぞ?」


現在微は例のごとく流と一緒に屋上にいた。

流はこの暑さをものともしないほど涼しげな顔でタバコをふかしている。


「流は暑く無いのか?」

「暑いわけないだろ」

「何たらかんたら火もまた涼し。か?」

「前半分からないのか...。まぁそんな感じだな」


流は3本目に入ろうとしたところで、微がそれを止めた。


「流、吸い過ぎだ」

「ん?ああ...すまん。勝手に咥えてた」

「珍しいな。イライラすることでもあったか?」

「別に、ただ仕事を少しミスっただけだ」

「ミスった?流が?」

「私にだって失敗はあるさ」


流が仕事をミスするのはとても珍しい事だった。

流に完璧に仕事が出来るイメージのあった微は、それを聞いてひどく驚いていた。


「まぁ...辛かったら言えよ。飯くらいは作ってやるから」

「ああ」

「だが、タバコは休みの度二本まで。これは破るな」

「...分かった」


流は咥えていたタバコを箱に戻した。

微が床に座り込んでいたので、その隣に両足を揃えた横座りをした。


「微、最近牧田とは仲良くやれているのか?」

「別に、仲良くする必要も無い」

「微、友達は...」

「友達じゃない。ただのクラスメイトで、それ以上の関係はいらない。例えそれが、あいつ(牧田)じゃなくても」


微は何故かとてもイライラし始めて、流に冷たくそう言い放ってしまった。

流は相変わらず飄々とした表情と態度で微を見つめる。


微は拗ねて屋上から出ていってしまい、流は屋上に取り残されてしまった。


(いかんな...。怒らせてしまったか...)


微は教室に帰るところで由乃に会った。


「あ...微」

「あ?なんだ...お前か」


夏祭り以来会ってなかった由乃と微。


「お前か...とは失礼ね微。というか...何故そんなに不機嫌なのかしら?」

「そう思うなら、話しかけてくるな」


微は冷たく言い放ち由乃に背を向けた。

由乃はその態度が気に入らず、微を追いかけた。


「........」

「........」

「........」

「........」

「...いつまで着いてくるつもりだ!!」

「やっと振り向いてくれたわね」


いつまでも着いてくる由乃にしびれを切らした微は、後ろを振り向いて由乃に怒鳴った。


「微、どうしたの?」

「どうもしない」

「どうもしてる顔だわ。微は態度と顔に出やすいのね」

「笑ってんじゃねぇ」


由乃はクスクスと笑った。

微と由乃はそのまま、庭の方へと向かった。

庭にはベンチがあったので、由乃はベンチに座り、その隣の空いたスペースをポンポンと叩き微を呼んだ。

微は珍しく文句を垂れずに大人しく座った。


「何でそんなイラついてるか当ててあげましょうか?」

「........」

「私のことでしょう?」


由乃がそう言うと、微は少し曇った顔をした。


「別に...お前にイラついてるわけじゃない...」

「あら、じゃあ何にイラついているの?」

「どちらかというと、自分自身にだ」


微は少しずつ自分の気持ちを話し始めた。ずっと心の中にあった思いを。


「友達とか、いらないんだ本当に。いなくても、生きていける。その場限りの関係で済むのならわざわざ深入りしなくたって良いと思ってる」

「うん」

「出来たら出来たで良いこともあるんだろうが、その分気を使ったりだとか、一緒にいなければいけないとか、余計なルールみたいなものに縛られるのが嫌だ」

「確かにそのきらいはあるわね」

「俺は自由が良い。その自由が無くなるくらいなら、もう誰とも関わらない方を選ぶ」

「極端じゃないかしら」

「極端だと自分でも思うが、それで済む話だ」


微は冷たい目をしていた。

遠くを見つめて、同時になにかを思い出すように話した。


「そもそも一人じゃいけないなんて誰も決めてない。わざわざ周りに合わせなくたっていいわけだ」

「そうね」

「くだらないものに身を任せて痛い目を見るくらいならって思う」

「それは違うわ微」


今まで話を聞いていた由乃が、微に初めて反論した。


「他人を遠ざけたり、一人になりたがるのは勿論あなたの勝手だけれど、それでその人たちの関係まで否定してはいけないわ。あなたのいうくだらない関係を、何よりも大事に思う者もいるのだから」

「........」

「それにくだらなくなんてないわ。私はそのくだらない関係に微となりたいと思っているわ」

「だから、それは嫌だと...」

「全員が全員あなたの想像通りになるかしら?」

「どういう意味だ」


由乃は微の目の前にしゃがんで、微の両手を、自分の両手で包み込むように握る。


「十人十色。この世界に色んな人はいくらでもいるわ。あなたの様な人、私の様な人、どこかできっと波長が合う。どこかにあなたを理解してくれる人がいる。そしてそれが、私であったら良いなと思うの」

「お前が...俺を?」

「ええ、あなたを理解してあげる。あなたを肯定してあげる」

「何だその上から目線は...」


微はそっぽを向いてしまった。

由乃はその行動に笑った。


「ふふっ、そうね、少し上からだったわね」

「それでも...それでも俺は、一人で良い。誰にも理解なんてされなくても良い...」


微がそう言って由乃の手から自分の手をスルリと引き抜いた。

すると由乃は、俯いて見えない微の顔を覗き込んだ。

急に覗き込まれた微は驚いて少し引いてしまった。だが、なぜか由乃の目から目を離せなかった。


「ああそっか...微、あなた...怖いのね」

「は...?」

「今まで一人で生きてきて、他人の力なんてアテにしてこなかった。自分の力を信じて生きてこれた。でももし、他人の力をアテにした時、今より自分が弱くなる事に、恐怖を抱いてるのね」

「何を...言って...」


微は思わず立ち上がり、混乱しながらも由乃の言葉を否定した。


「怖いわけないだろ!そんな理由で一人を好んでるわけじゃない!」

「じゃあどうして?一人なの?」

「何度も言ってるだろ、楽だからだ!」

「楽だった?本当に?どこかつまらないと思ったことは?寂しいと思ったことは?物足りないなと思ったことは一度も無いの」

「な...無い...!」

「微...」

「うるさい黙れ...!」


由乃は微の首に腕を回しギュッと抱きしめた。

突然抱きしめられ、驚いた微は硬直してしまった。


「ねぇ微聞いて...?」

「なに...を...」

「もう怖がらなくて良いの。微は私が守ってあげる。弱くなって良いの、私がいるわ。私がそばにいてあげる」


由乃は微の頭を撫でてそう言った。

微はそれがとても心地良く感じて、由乃から離れる事ができなかった。


「だから俺は一人でも...」

「良くないわ。それにそろそろ一人にも飽きたでしょ?」

「........」

「一人に飽きたなら、次は二人になってみたらいいのよ。私が微の側にいてあげる」

「お前と...一緒...?」

「ええ、不満?」


由乃は微の顔を両手で包みながら微の目を見つめながらそう尋ねた。

微も由乃の目を少しだけ見てからそっぽを向いた。


「不安なだけだ」

「ふふっ、不満じゃないのね」


由乃はそう言って楽しそうに笑った。


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