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学校が夏休みに入り、微は部屋で夏休みの宿題を終わらせていた。
「ふぅ...」
「微、夏休みの宿題は終わったか?」
宿題が終わり、部屋で伸びをしていると、今日は仕事が休みの流が微の部屋に入って来た。
「何だ、仕事だと思ってた」
「今日は空けておいた」
「何で...ああそうか。今日は夏祭りか」
「一緒に行こう」
「分かった」
微と流はとても仲が良く、こうして毎年二人で一緒に夏祭りに行く約束をしている。夏祭りに限った話ではないが。
本当は微は人の多い夏祭りになんて行きたくないのだが、流が夏祭りとか意外とそういう類のものが好きなのと、一人で行かせるとナンパされるのが常なので、二人で行くのが恒例になっていた。
「そういえば昼はどうする?」
「冷蔵庫に何も無いのか?」
「無いな。どこか食べに行くか?」
「俺お金無い」
「奢るさ、行くぞ」
「ん...悪い」
流の車で、二人は街中へと出た。
そこら辺にある有料駐車場に車を止めて、街中を歩きながら店を探した。
「何が食べたい?」
「ラーメン」
「じゃあ気になってた所行って良いか?」
「ん」
流が気になると言っていたラーメン屋に行って、二人でラーメンを食べた。
すぐに食べ終わって店を出た。
「意外に、美味しくなかったな」
「麺が少なかった。二度は来ないな」
「2時か...。帰ろう微」
「ん」
微と流は帰り、夏祭りまで微の家で暇を潰してから出掛けることにした。
時刻は夕方、町が夕焼け色に染まった頃、二人は夏祭りがやっている神社まで歩いて向かった。
近付くにつれて民謡や太鼓の音が聞こえて来て、一緒に歩く子供たちが走って二人の横を追い抜いて行く。
神社に着くと大勢の人で賑わっていた。
「例年より人が多くなったか?」
「そうでもないだろ」
「そうか?」
二人は奥に入って行くと、出店がいっぱい並んでいる場所に来た。
「微!焼きそばがあるぞ」
「ん、食べる?」
「うむ!」
目をキラキラさせた流が焼きそばの列に並び、他の出店に何があるかを探してキョロキョロしている。
「流、落ち着け」
「あ、ああ。すまない。だがやはり何度来ても飽きんな」
「俺はもう飽きてる」
「む...なら着いて来なくても良かったんぞ?」
「流一人だとすぐナンパされるから、お目付役としてな。面倒ごとになってもアレだろ」
「そうか...。毎年ありがとうな、微」
「ん...」
流があまりにも嬉しそうに笑うものだから、微は少し照れくさくなって顔を逸らした。
「っ!!」
顔を逸らして見た視界に、見覚えのある顔があった。
由乃だった。
「くそっ...!」
「どうした微、相当イラついた顔をして」
「知り合い...たくもなかった奴がいた。おかげで早々に帰りたくなった」
微が見ていた所を流も見た。
「牧田じゃないか...。マズイな」
「家が近いからな」
「見たところ、帰りそうにないな」
「どうせ今来たところだろ。学校の奴に会うとはな...」
「バレたくない身としては、見つかるのはマズイな」
「とりあえず平静を装えば気付かないだろ」
「景色に同化だな」
二人は気にしない様にしてそのまま列に並び続け、目的の焼きそばを食した。
「美味いな」
「ああ、並んだ甲斐がある」
「他は何が食べたい?」
「微は何か食べたいものはないのか?」
「俺は無い。流が食べたいものを一緒に食べる」
「そうか...?でも食べたいものがあったら言うんだぞ?買ってやるからな」
「自分で買える」
微は周りを見渡して美味しそうなものが無いかを探した。
綿あめを見つけたので、その出店に行こうとしたその時、由乃に見つかった。
「あら、微?と...一ノ瀬先生?」
「ちっ」
「見つかってしまったか...」
「二人が何故一緒に?」
とりあえず道の真ん中で話が始まりそうだったので、神社を出て近くのファミレスに入って話をする事にした。
「さて...。何を聞きたい?牧田」
「そうですね...とりあえず二人がどういった関係で、何故あの場にいたのかを説明して頂けると助かります」
「そうか...。では単刀直入に言おう、私と微は、姉弟だ」
「姉弟...。確かにどことなく顔のパーツが一緒ですね」
由乃は二人の顔を見比べてそう言った。
「あまり学校のものにバレたくないが為に私は名字を父の方から借りて一ノ瀬を使っている。本当は私も和泉だ」
「それで、何であのお祭りに?」
「流が行きたいって言ったからだ。着いて行った方が流が面倒ごとに巻き込まれないで済む」
「ナンパ...とかですか?」
「そんなところだ。される理由が無いのだがな」
由乃はとりあえず伸ばしていた背筋を背もたれに預けて、深く息を吐いた。
「微と先生が、秘密で付き合っていらっしゃるのかと...」
「くだらない妄想を俺たちでするな」
「微、そう冷たく言ってやるな。牧田も誤解させてすまない」
「いえ、私は全然。そうですか...。じゃあ私はお二人のことを口外しない方が良いですね」
「当たり前だろ」
「微、私たちが頼む側だ」
「ちっ」
とりあえずは、由乃が二人の関係を言わないと約束出来た。
そこからは、ただの世間話になった。
「お二人は、仲がよろしいのですか?」
「まぁ、こうして祭りに二人で来てるしな。悪くはないんじゃないか?」
「流、話が済んだのなら早く帰りたいんだが」
「微、この夏休みは何してたの?」
「宿題。あとは寝てた」
「微らしいわ」
由乃が微の返答に笑った。
そろそろ帰る流れになって、微たちは店を出た。
外に出る頃にはもう外は真っ暗で、流は微と帰るから良いとして、由乃が一人になってしまう。
それを心配した流が、微に一緒に帰ってあげる様に提案した。
「微、牧田を送ってやれ」
「「え...」」
「牧田、というより女の子一人で夜道を歩かせるつもりか?」
「別にそんな...」
「微」
微は流にジッと見つめられ、少し怯む。
そして溜息を吐いた後、由乃の家の方へ歩いて行った。由乃は、微のその行動に驚いて微の後ろ姿を見たまま硬直していた。
すると、由乃がいつまで経っても付いて来ないので振り返った。
「早く来いよ」
「え...」
「微が送ってくれる。早く帰れ」
「あ...はい」
由乃は先に行ってしまった微に追いつく為に小走りで微の元へ向かった。
流もそれを見送ってから、微の家へと先に帰った。
帰りがけ、由乃は少しだけ嬉しい気持ちで帰ったが、微は相変わらずの仏頂面で由乃の隣を歩いている。
「微、ごめんなさい」
「は?何が?」
「お祭り、私が二人に気付いたせいで十分に楽しめなかったでしょう?」
「あー...」
微は頭を掻いて、面倒そうに答えた。
「別に、気付く事に悪気は無いだろうし、下手に黙っていられると弁解も出来ないし、見つけた時点で諦めた」
「そう...」
「まぁ...気にしなくていい。流は楽しめたみたいだし」
「流...ああ、一ノ瀬先生の事ね」
由乃の家に着いたところで、二人は分かれた。
微が挨拶もせずに家から離れると、由乃は微の服の裾を掴んだ。
「...なんだ?」
「えと...あの...」
「...用がないなら帰りたいんだが」
「用が...ないわけでは...無いのだけれど...」
由乃は珍しく言葉に詰まっている。
そして、ようやく要件を口にした。
「どうして...一ノ瀬先生は、名前で呼んでいるの...?」
「は?姉だからだ」
「じゃあ私は...?」
「別に呼ぶ必要無いだろ。苗字で分かるんだから」
「でも...」
(めんどくさ...)
微はもう帰りたさが絶頂に来ていて、由乃の腕を掴んで自分の裾から手を離させた。
「早く帰れ由乃」
「っ!?微...」
「これで満足か?」
「ええ...とても!」
由乃はとても嬉しそうに家へと帰っていった。
微はめんどくさそうに溜息を吐いて、家へと帰った。