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本格的な夏が訪れ、学校の生徒たちの装いは夏服へと変わっていた。


暑い日差しに耐えながら、微はクーラーの効いた涼しい教室へと入った。

既に登校して自席に座っていた由乃は微に気付いて振り返った。


「おはよ...あら、髪切ったの?」

「ん...まぁ」


微は髪を切っていて、前髪は長めで、後ろと横をサッパリとさせた髪型で涼しそうではあった。


「前髪、切らなかったのね」

「人の視線が苦手なんでな」

「視線を合わせていなくても、それなら分からないわね」

「そんなとこ」


微はまだ切ったばかりで気になるのか、サッパリした後ろ髪を撫でている。

そんな微を由乃は見つめていたので、微は睨みながら由乃を見返した。


「何だ」

「いえ、カッコいいわ。好きよ、その髪型」

「...あっそ」


由乃の言葉に喜んだわけではないが、ここまで真っ直ぐ言われると恥ずかしかったのか、微は顔を背けた。



今日から体育の授業はプールとなり、微たちのクラスは、更衣室で水着に着替えてプールへと出た。

屋外にプールは設置されている為日差しがキツく、微の目は自ずと細くなっていく。


男女合同で行うので、しばらくすると女子が来て、全員集まった。


「怪我のないように〜」


体育教師があーだこーだ言ってる事を聞き流しながら、微はボーッとしていると、準備体操の時間になっていた。


準備体操を終わらせたところで、シャワーを浴びて暑いのでさっさとプールへと入っていく。


プールの中は冷たく、火照った体を一瞬で冷ましてくれた。


「和泉〜温泉じゃねぇから浸かってねぇで泳げ〜」


微はあまりにも気持ち良くてボーッとしてたら教師に注意された。


特に友達のいない微は、黙々と一人で25mプールを何往復もした。

その何回目かに、後ろから聞き覚えのある声の女子に呼び止められた。


「微」

「...何だ」


由乃もちょうど微と同じタイミングでプールから上がったらしく、一人で泳いでる微に声をかけたらしい。


「一人なら、私と競争でもする?」

「しない、くだらない」

「負けるの嫌なのかしら?」

「見え見えの挑発だな。悪いがそんな事でムキにならない」

「あら残念」


そう言って由乃は女子の泳ぐコースへ、微は男子の泳ぐコースへとお互い戻っていった。


(話しかけてくんじゃねぇよ...)


微は周りからの視線を避けるため下を向きながら、そうなった原因の由乃を恨んだ。



授業もそろそろ終わりそうで、プールの中から出てプールサイドで喋ったり、シャワーを浴びに行っている生徒たちが多くなって来た頃、由乃は最後の一本を泳いでいる最中だった。


すると、前の方で急に一人の女子が溺れたように水中で暴れていた。

どうやら足が攣ったようだ。


(助けなきゃ...!)


由乃は泳ぐスピードを上げていち早く溺れている女子の元へと行って、介抱しようとした。

だが、溺れた場所はプールの中で一番深い真ん中辺りで、周りの人はまだ溺れた事に気付いていない。


(失礼だけど...ちょっと重い...)


由乃はとりあえず呼吸が出来るように顔を水の外へと出せたのだが、一人でプールサイドに連れていくのは難しいと感じた。

そこで周りに助けを求めようとしたその瞬間、誰かにその女子と一緒に持ち上げられた。


「きゃっ...!」


由乃は誰かと思って見てみると、驚いた事に助けに来てくれたのは微だった。

真剣な顔で、女子二人を抱えてプールサイドに連れて行った後、気付いて来てくれた先生に溺れていた女子を受け渡した。


「牧田さんは!?大丈夫!?」

「あ...はい、私は助けようとしてたんですけど...」


由乃は呆気に取られながら先生と受け答えしていると、微が何事も無かったかのようにプールから上がってシャワーを浴びに行ってしまい、お礼を言うタイミングを逃してしまった。



その後、更衣室で女子たちは微の話で持ちきりになっていた。


「カッコよかったねぇ!さっきの和泉くん」

「いつも機嫌悪そうで気怠げだから、ああいう時何も出来ずに見てるだけの人だと思ってたのに」

「ねぇ〜カッコよかった」

「しかもその後普通にシャワー浴びに行ってて、男子たちの冷やかしに目もくれなかったしね〜クールでカッコいいわ〜」


由乃はその話に耳を傾け、何故か面白くないという感情を持ちながら着替えをしていると、隣で着替えていた女子が由乃に声をかけた。


「牧田さんも大丈夫だった?結果的に助けられてたけど、牧田さんが一番最初に気付いて助けたんだもんね?」

「え、ああ...まぁそうだけど、あなたの言う通り、私も助けられた側だわ」

「それでも、ううん、そうじゃなかったら、あの子死んでたかも...。だから牧田さんは胸を張って良いよ」

「ふふ、ありがと」


由乃がそう言って微笑むと、その女子は照れたように顔を赤くした。

そして話題は微についての話に変わった。


「でもビックリした。和泉くんがあんな大声出せるなんて...」

「微が、大声?」

「聞こえてなかったの?和泉くん、凄い大きな声で『牧田ぁ!!』って叫んでいち早くプールに飛び込んだんだよ?」

「そう...なの...?」

「うん、やっぱり彼女さんだからなのかなぁ?あんな心配そうな顔した和泉くん初めて見た」

「彼女じゃ...無いわよ?」

「あれ?そうなの?私てっきり...。だって和泉くんが誰かと喋ってるのなんて牧田さんくらいしか見た事なかったから...ごめんね?」

「いえ、そんな事より、その話本当?」

「うん。ところでさ...牧田さん」

「何かしら?」

「胸、そろそろ隠して」

「...ごめんなさい」


あまりに驚いて、由乃は着替える手が止まってしまっていた。


(本当に...?あの微が...?)


着替えた後保健室へ向かい、溺れた女の子の見舞いに行った。

凄い勢いで謝罪と御礼の言葉の嵐を受けた後、無事を確認して保健室のドアを開けた。

すると、ちょうど同じタイミングで微がドアの前にいて、お互い驚いた。


「っ...!」

「...!微...」


微は由乃の横をすり抜けて、由乃と同じように女子の安否を確認した。唯一違ったのは、謝罪と御礼を受ける前に切り上げたところくらいだ。

保健室から出ると、保健室の前で待っていた由乃に捕まった。


「微、ありがとう。あなたのおかげで...」

「当たり前の事をしただけだ。別に俺じゃなくても助けられた」


微はそう言ってどこかへ行こうとしたので由乃はとっさに腕を掴んだ。微はその手を振り払おうとしたが、そうされる事を予想していた由乃は、予め強く握りしめていたので、なんとか振り払われずに済んだ。

諦めた微は、由乃を睨みつけた。


「離せ」

「微、いち早く助けに来てくれたらしいじゃない。珍しく名前まで叫んでくれて」

「...!聞こえてたのか...」

「いいえ、周りの子たちから聞いたわ。聞かされた時は嘘だと思ったけど...」

「ちっ...」

「ありがとう。やっぱり微は優しい人だわ」


由乃は柔らかい笑顔を微に向けた。微はその顔が苦手らしく、顔を背けた。


「ありがとう、嬉しかったわ。助けてくれたのが他の誰でもなく、微で」

「そうかよ...」

「だから、これはちょっとしたお礼」


そう言って由乃は微の頰にチュッとキスをした。

急にそんな事をされて、微は何が起こったか分からないといった顔をして由乃を見た。


「???」

「ふふふ、ありがとっ。微」


由乃は微の手を離し、いたずらが成功した子供のような笑顔で去っていった。


微は舌打ちをした後、


「くそっ...!」


そう言ってその場を離れた。

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