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由乃と微は今、図書館にて図書委員の仕事をしている最中だった。
微は本棚に本を戻し、由乃はカウンターでまた別の作業を行なっていた。
本の片付けが終わり、微がカウンターに戻ってきた。
「お疲れ様」
「ああ」
「あともう少しで終わるわ」
「ああ」
微は暇つぶし用に用意していた本を読みながら、由乃の作業が終わるのを待った。
予想以上に手間取って、割と長い時間作業を続けてしまった由乃は、終わったと同時に横を見ると、微が寝ていることに気づいた。
(初めて寝てる顔を見た...)
いつもの仏頂面は無く、スヤスヤと眠っている。
その顔を可愛く思い、由乃は携帯のカメラを使って微の寝顔を写真に収めた。
ついでに起こさない様にサイレントモードで音が出ない様にしたので、まだ微は眠っている。
「微」
由乃がそう呼びかけてもまだ起きない微。
由乃はそっと微の頬を撫でた。微はくすぐったそうに蠢いたが、それでも起きなかった。
(綺麗な顔...)
微のまつ毛は女の子に負けないくらい長く、髪はサラサラで、肌はスベスベしている。髪が長ければ女と間違うくらいだった。
もう一度手を伸ばし、頬を撫でようとしたら流がいつのまにか図書室に入って来ていて、微を容赦無く起こした。
「和泉、起きろ」
「っ...!あ...はい」
「牧田、悪いが和泉を借りる。片付けとかはある程度進められるな?」
「あ、はい...」
「行くぞ和泉」
「はい」
微はすぐ起きて、図書室から流と一緒に出て行った。
一人残された由乃は、一人で片付けを始めた。
二人で出て行った後、人気のない場所で流は足を止めて微の方へと向いた。
「微、悪いんだが今日お前の家に泊めてくれないか?」
「何で?」
「仕事が溜まった、家に帰る時間も惜しい。お前の家の方が近いから」
「まぁ良いけど...。夕飯は?」
「........」
「分かったよ作るよ」
流は申し訳なさそうな顔で微を見つめたので、微は想いを汲んで夕飯を作ってあげることにした。
「もう上がるから、早く準備しろ」
「一緒には帰らないだろ?それに片付けもあるし」
「じゃあ鍵。私の方が早いからな」
「ん」
「ありがとう」
「早く終わらせて早く寝ろ」
微は流に鍵を渡すと、図書室へと戻った。
図書室へと戻ると、片付けが既に終わろうとしていた。
「悪い、少し遅くなった」
「いえ、特に大変ではなかったし。大丈夫よ」
「すまん」
「それより、一ノ瀬先生との話はもう良いの?」
「ああ、特に大した話じゃなかった」
「そう」
その後二人でさっさと片付けを終わらせた。
帰路の途中、微はいつもの分かれ道よりも前の道で由乃と分かれようとした。
「あら?分かれ道はここじゃないでしょう?」
「いや、帰りにスーパーでもよって夕飯の材料でも買おうかと...。って、そんな事どうだって良いだろお前には」
「私だって友達と一緒に帰りたいわ」
「友達じゃないだろ」
「あら、友達よ。一緒にご飯食べたじゃない」
「無理やりな!」
微は由乃を無視してスーパーのある道を歩き始めた。
だが途中から由乃が付いて来ていることに気付き足を止めた。
「何で付いてくる」
「私もそっちに用があるのよ」
「嘘つくな」
「嘘じゃないわよ?それとも何かしら?自意識過剰?」
「うざ...」
ポツリとそう呟いた後、また歩き出したので由乃もその後を付いて歩いた。
スーパーについた後、微がカートを引いて歩いていると、いつの間にか由乃が隣にいた。
「今日の夕飯は何にするつもりなのかしら?」
「何だって良いだろ。別にお前が食べるわけでもないし」
「食べるとしたら、何を食べさせてくれるのかしら?」
「もしもの話をして楽しいのか?」
「少なくとも、私は楽しいのだけれど?」
「変な趣味をお持ちで」
微はそのまま材料を選んでいった。
材料から由乃は今日の夕飯がカレーだと察した。
「カレー?」
「だったら何だ」
「いえ、特に。カレーだな、と思っただけよ」
「今から凝った料理なんて作れないからな」
「凝った料理...。例えば何かしら?」
「パエリア?」
「パラリラ?」
「黙れお前」
パエリアとはスペインのお米を使った料理のことで、微はそれが作れた。
「でも凄いわね、パエリアが作れるなんて」
「時間をかければの話だ。今日はカレーだがな」
「今度私も食べたいわ」
「親に作ってもらえ」
「微のが食べたいのだけど...」
「何で俺の作ったものに拘るのか知らないが、お前に作ってやる事は無い」
「いつか来るわ、きっと」
微は足を止めて、由乃を見た。
由乃も微の少し前を歩いてから振り返った。
「何を根拠に...」
「だって微は優しいから」
「........!」
そう言って由乃はにこりと笑った。
その笑顔が何故か微の心にはとても深く刺さった。
「俺がいつお前に優しくしたんだ」
「私にはしてなくても、他の人にはしてるかも」
「随分と手探りに俺を分析するな...」
「当たり前じゃ無い。友達になったのは最近だもの」
「だから...」
「友達よ、私とあなたは」
由乃がカートに身を乗り出して微の顔を覗き込みながらそう言うと、微はそれを遠ざけた。
「勝手にそう思ってろ。俺はそうは思わない」
「ええ、勝手にするわ」
その後材料を買って行って、二人は家へと帰った。