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微は、別に非情で冷酷な人間なわけではない。

単に他人と関わるのが苦手で、苦手な事に挑戦するのは面倒で、一人でいた方が楽だからそうしていた。


なのに最近は由乃が近くにいるせいで、一人になる機会が学校ではほとんどなくなって来た。


(友達だとか思ってるなら、こんな迷惑なことはないな...)


微は、一人が好きだった。

静かに、平穏に、誰に気を使うでも、使われるでもない。干渉して来ない人が好きだった。


昼休み、ご飯をすぐに食べ終わって微は屋上へと続く階段を登っていた。

基本的に微たちの学校は屋上は開放していないのだが、昼休憩と放課後の時間帯だけ屋上が開放されることを微だけは知っていた。


というか、微だけにしか教えられていない。


屋上のドアを開けると、フェンス越しに景色を見ながらタバコをふかしている女性がいた。


「どうも、一ノ(いちのせ)先生」

「...微か」


一ノ瀬、という女性はタバコを咥えながらポケットに手を突っ込んで、呼びかけた微を半身になって確認した。


微が自分から他人に話しかけるなんて珍しい。それもそのはず、何故ならこの一ノ(いちのせ) (りゅう)という女性は、微の実の姉なのだから。

だがそれは他の生徒には秘密だった。贔屓していると思われるのが嫌だという二人の総意だった。


「二人きりの時に先生はやめろ」

「俺たちが姉弟だという事を隠したいという割に、先生と呼ぶ事を嫌うのか」

「二人きりの時だけだ。ここは人が来ないからな。ちゃんと鍵閉めたか?」

「ん」


屋上に入れるのは教師だけなので、微が入れる事を知られるのはマズい。

微は一人になりたい時、屋上に来ては姉と一緒に話したり、時には黙って景色を眺めたりしている。


「やはり学年が上がって話しかけられる回数が増えたからここに来たのか」

「まぁ、そんなとこ」

「ははっ、だと思った」


流はフェンスにもたれかかり、微も同じ様にもたれかかった。

空を見上げると、快晴で雲一つなく澄み切っている。


「二年に上がってから、変な奴に絡まれる様になった」

「変な奴?」

「牧田...なんだったか?とりあえず無駄に美人な奴」

「牧田 由乃じゃないか?」

「ああ、そんな感じのやつ」

「絡まれているって...牧田にか?あいつがそんな事する奴には見えないがな...」

「する。しかもこの前夕飯に付き合わされた」

「はははっ、お前のことが好きなんじゃないか?」

「だとしたら迷惑だ」


微はため息を吐きながら、煩わしそうにそう言った。

その場にしゃがみ込んで、頭をわしゃわしゃと()き乱す。


「良いじゃないか、お前みたいな奴は手を引いてくれる女性の方が良いんじゃないか?」

「人の迷惑を顧みない奴は嫌いだ」

「そう言ってやればいいじゃないか」

「........」


流は微のボサボサになった頭を丁寧に整えてやりながら、優しい笑顔と声色で呟いた。


「出来ないもんな?お前は優しい子だから...」

「優しくなんか...」

「意地悪言ってごめんな微。帰ろう、そろそろ授業が始まるぞ」

「ん...」


学校で微の唯一の理解者で、唯一の味方の流は、やはり先生である前に、微の姉なのだ。


教室に戻ると、由乃は自席で本を読んでいた。

微が来たことに気付くと、読んでいた本を仕舞い、微に話しかけた。


「微、どこにいたの?」

「どこにいたって俺の勝手だろ」

「微がいなくて少し暇だったわ」

「だから何だ」

「微、今日の放課後は暇かしら?」

「暇じゃない。帰る」

「何か予定が?」

「それをお前に言ってどうする」

「どこかへ出かける用事なら私も一緒に行こうかと」

「来るな。それにどこかへ行く用事じゃない」

「あらそう...。じゃあ一緒に帰りましょう?」

「...勝手にしろ」


微はため息を吐いてそう言った。

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