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本日は12月25日。俗に言うクリスマスというやつだ。
ついでに微の学校では今日が終業式で、校内のカップル達はいそいそと学校から出て行った。
微はまだ教室に残っていて、もう生徒達はいなかった。
そんな所に、荷物をまとめた由乃がやってきた。
「微、帰りましょう」
「ん...ああ」
「どうしたの?」
「別に...。ただ今日の空気感に疲れただけだ」
「まぁ、クラスでも何組か付き合っている人達はいるものね...。ラブラブな空気にやられたの?」
「そんな所」
微も荷物をまとめて学校から出た。
そして普段とは違う、駅の方への道を歩き始めた。
「微、どこに行くの?」
「...お前がどこか出掛けようって言ったんだろうが」
「え?」
「この前の流のプレゼントの借り。今日出掛ける事で返すんだろ?」
「あ...本当に一緒に出掛けてくれるの?」
「別に嫌なら良い」
「嫌じゃないわ。すごく嬉しいっ」
「あっそ」
由乃は本当に微が今日一緒に出掛けてくれるとは思ってなかったらしく、少し戸惑った。だが、微が歩き出してしまったので、慌てて由乃は微の元へと走った。
「それで今日はどこへ連れてってくれるのかしら?」
「適当に時間潰して帰る。寒い」
「そう?少しくらい楽しんでも...」
「嫌だ。安心しろ、借りはちゃんと返す」
由乃と微は電車に乗って目的地へと向かって行った。電車内ではカップルらしき人達がみんな楽しそうにしている。
「カップル多いわね」
「そりゃそうだろ」
「私たちも他から見たらそう見えるのかしらね?」
「だとしたら迷惑だな」
「あらひどい」
由乃はクスクス笑いながらそう言った。
微達が目指している場所は少しだけ遠かったが、やがてその最寄り駅について、二人は電車を降りた。
「行くぞ」
「ん」
由乃と微は最寄りから少し歩いて、しばらく他のカップル達と同じ道を歩いた。
だが微は少し歩いていると、何も言わずに急に曲がり角を曲がってしまったので、危うく由乃は微を見失うところだった。
「曲がるなら先に言ってよ」
「ああ...悪い」
「というか、イルミネーションを見に行くのかと思ってたわ」
「まさか。そんな人の多い所に行けるか」
微はそう言いながら歩き続け、ある建物の前で止まった。
博物館の様だった。
「ここって...博物館?」
「星見に行くぞ」
「星?」
微はそう言って博物館の中に入っていって、由乃もそれに慌てて付いていった。
中にはほとんど人がおらず、静かだった。ナレーションでプラネタリウムの時間について放送していたので、微はそれを聞いて少し急いで受付にチケットを取りに行った。
「高校生二人、二枚」
「はい、高校生お二人で2000円です」
微はさっさと受付を済ませて、プラネタリウムがある部屋まで向かった。
「ん、チケット」
「あ、ありがとう...。プラネタリウムとは思わなかったわ」
「完全に俺の趣味だが、良いものだぞ」
「ほんとに?ふふっ、楽しみ」
由乃は嬉しそうにそう言った。
プラネタリウムのドームの中に入ると、数人しか人がいなかった。
結構良い席を取った様で、微と由乃はリクライニングシートに座った。
「全然人がいないのね。結構大きいのに...」
「近くのイルミネーションのせいでここが霞むんだよ」
「穴場って事ね。わざわざ見つけたの?」
「小さい頃暇さえあれば来てただけ。今でもたまに来る」
どうやら微は通常の空も好きだが、夜空も星を見るのも好きな様だ。心なしか楽しみにしてる様にも見える。
そんな微を見るのが初めてで、由乃は驚きつつも喜んだ。
ブザーが鳴り始め、ドームの照明がゆっくりと暗くなって行く。
「始まるわね」
「ん」
そこから二人は静かにプラネタリウムの音声案内を聴きながら星を見ていった。
途中由乃の知ってる星があったので、微に教えた。
「あれ、昨日の夜見たわ」
「オリオン座だろ。冬の星座だからな」
「詳しいのね」
「よく来てるって言ったろ」
微は呆れる様にそう言った。でも由乃は本気で感心した。
(本当に空が好きなのね...)
『人と違って嘘を付かない』
これが微が空を好きな理由。由乃はなんだかその言葉がずっと消えずに、心の中に在り続けていた。
最後の方にはオーロラも映し出し、随分と壮大になって来た。
由乃は隣にいる微を気づかれない様に見つめてみた。
(やっぱりそうだ...。私、微が好きだ)
由乃はやはりどうしても友達としての『好き』を超えてしまう。それについて認めると、心が締め付けられる様だった。
だって微は自分を好きにならない。同じ温度の『好き』を、微は感じていない。
プラネタリウムは終わり、照明がつき始め明るくなっていった。
微は倒していた椅子の背もたれを上げて、帰る準備を始めた。
「おい、そろそろ帰...」
そう言いかけて微は止まった。
何故なら由乃が、泣いていたからだった。
「お前...何泣いてんだ?」
「え...?あ...私泣いていたの...?」
「まぁ...涙流れてるしな。泣いてるって言えるだろ?」
「そう...いえ、ごめんなさい。混乱...させた...」
「いや別に」
とりあえずはプラネタリウムの部屋を出た。
由乃はトイレへ行ったので、微はそこらへんにあるベンチで座って待っていた。しばらくすると、帰ってきた由乃が隣に座った。
「ごめんなさい...」
「泣くほど綺麗だったか?」
微は由乃が泣いたのがプラネタリウムに感動したからだと解釈してそう聞いた。
「ううん、確かに綺麗だったけどそれで泣いたわけじゃないわ」
「じゃあ何で泣いたんだ...」
微は意味が分からないといった顔で溜息を吐いた。
まだ閉館時間には少しだけ時間があったので、他の展示物などを見て回った。
「微はよく来てるんだったわね」
「まぁ一応」
「悪いわね。私の為にわざわざ」
「借りを返す為だからな」
微のその言葉に、また少し由乃は泣きそうになった。
『借りを返す』という言葉があまりにも距離を感じさせる。由乃が微を好きだと自覚したところで、微にとってはどうだって良い事だ。
今日出かけたのだって、あくまで流の誕生日プレゼントを折半して金を出し合った礼に過ぎない。
(自覚した途端に諦めろと...)
由乃は心の中でそう呟いた。
閉館の時間になり、由乃と微は電車に乗って帰った。
電車の中は空いていてガラガラだった。由乃が席に座ると、微はその真向かいの席に座った。
「隣、座らないの?」
「いい」
「そう...」
微は冷たくあしらった。
微は窓の外の流れる風景を眺め、つまらなそうに、楽しくなさそうにしている。
由乃は少しだけ後ろめたさを感じてしまった。
「微」
「あ?」
「ごめんなさいね。面倒だったでしょ?」
「今日のお前はよく謝るな。...別に面倒ではなかったな」
「え?」
「大方俺がつまらなそうにしてるからそう言ったんだろうが。残念ながら違うぞ」
「じゃあ、何でそんな顔を?」
「元々こういう顔って言やぁそれまでだが...。安心しろよ、ちゃんと俺は俺で楽しんでた」
微は相変わらずの仏頂面でそう言った。
「昔小さい頃、お袋に遊園地に連れて行かれて、帰りに疲れて楽しそうな顔をしてなかったんだ」
「うん」
「そしたらお袋は、『楽しんでくれて良かった〜』って言ったんだ」
「そんな顔してなかったんじゃないの?」
「お袋が言うには、『楽しかったから、その楽しいものは無い帰り道は、もっと長く居たかったと後悔した様につまらなそうな顔をするんだ。その顔をさせたら、お袋の勝ち』だったらしい」
「へぇ...面白いわね」
微は遠い目をして思い出すように話をした。
由乃はその話に感心したと同時に安心もした。なら微はちゃんと楽しんでくれたということだ。由乃とのクリスマスに出かけるという事を、面倒に思っていたわけじゃないのだ。
それが分かった由乃は少しだけ救われた気分になった。




