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図書室は微たちの教室からは少し遠く、移動が面倒だった。
その間、由乃が微に話しかけた。
「和泉くんは、何で図書委員になろうと思ったの?」
「なんとなく」
「あら、てっきり本が好きだったから。とか言うかと思ったわ」
「あそ」
「和泉君、本好き?」
「嫌いじゃない」
「私は好きよ。本」
「聞いてない」
「それもそうね」
由乃は一人でクスクスと笑った。
(こいつ...笑うのか)
なんとなく微は由乃の笑った顔を見てそう思った。
「今、失礼なこと考えた?」
「別に」
「そう?」
そんな事をしているうちに図書室に着いた。
どうやら二人が最後だったらしく、すぐに委員会が始まった。
30分ほどで全ての話し合いが終わり、微と由乃の仕事の曜日も決まった。
さっさと荷物をまとめて微は学校を出た。すると、後ろから由乃が追いかけて来たことに気付いた。
「和泉君」
「...なんだ」
「一緒に帰りましょ」
「なぜ?」
「ダメかしら?」
「...好きにしろ」
「ええ、好きにするわ」
由乃は微の隣を歩いた。
微は早く帰りたいから早足で歩くが、由乃はそれに難なく付いてきた。足が長いからなのかもしれない。
「ねぇ、和泉君」
「なんだ」
「和泉君の下の名前って、なに?」
「知ってどうする」
「知りたいだけ、出来れば呼びたいわ」
「知らなくていいし、呼ばなくていい」
「下の名前、教えてちょうだい?」
微は一度ため息を吐いてから、小さく呟いた。
「...かすか」
「かすか?どう書くの?」
「微妙の微」
「ああ、そう書くのね」
そう言って由乃は自分の手の平に微と一文字書いた。
そして何故か小さく笑った。
「なに?」
「いえ、漢字の教え方が、少し卑下してるかの様に聞こえただけよ。ふふっ」
「分かりやすかっただろ」
「ええ、おかげさまで」
やがて二人の帰り道が二手に分かれる道にやってきて、二人はそこで解散した。
「じゃあ、また明日。微」
「...!気安く呼ぶな」
「嫌だったかしら?」
「あんたに呼ばれるのは嫌だ」
「嫌われたものね...」
由乃は落ち込むかと思いきや、また微笑んで、
「なら、友達としての第一歩ということで」
そう言った。
微は予想外の反応に戸惑いつつ、疑問を投げかけた。
「あ?友達?」
「ええ、また明日。微」
「........、ちっ」
微は舌打ちをして自分の帰り道を歩いた。