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和泉(いずみ) (かすか)という青年の話をしよう。

彼は一言で言えば、全てにおいて否定的であった。それは他人にも、自分にも言えることだった。

だから今まで友達と呼べる者も、恋人もいなかった。


だが本人はそれで満足していた。

何故ならそういった関係から生み出される争い、いざこざに巻き込まれることは無く、楽だったからだ。

認めているのは家族だけで、それ以外の他人にさして興味は無かった。


そんな彼も高校二年生となり、また新しい他人との関わりが増える機会となったが、大きな心配ではなかった。


悲しいかな、思春期真っ盛りな高校生にとって、友達のいない無愛想で気怠げな微に声をかけようなどという勇気のある者はいなかったからだ。


(帰りたい...)


微は心の中でずっとそればかりを考えていた。

新しい担任、新しいクラスメイト、全てがどうでもよかった。新しいクラスになると、大体一週間程度で生徒同士のグループが出来上がる。それまで学校に来なければ自ずと独りになりやすいのだ。

親からちゃんと学校に行けと言われていなかったら、サボっていたところだった。


「じゃあ早速だけど、委員会と係決めちまうぞ〜」


担任が教壇に立ちそんな事を言い出した。

微は一年生の時は図書委員だった。男女2名で行うものだった。

だが微がほとんどの仕事を一人でやってしまったのと、微の無愛想さが苦手で女子は何一つ仕事が出来なかった。

だが、微にとってそれは好都合だった。


今回も図書委員を狙っていた。ついでに微は単純に図書室に居れば静かで他人と干渉することは無いと思っているから狙っている。


「じゃあ次に、図書委員」


担任がそう言うと、微以外誰も手を挙げなかった。

図書委員に興味が無いのか、微が手を挙げたからみんなが挙げないのかどちらかだが、何にしろ微の図書委員は決まった。


すると、一人の女子が手を挙げた。

しかもそれは微の目の前の席の生徒だった。


「私も図書委員やります」

「お、えっと...名前は...」

「牧田です」


担任が受け持ったばかりの生徒なので、名前を覚えきれていない事を理解して、牧田という女子は名前を先行して呼んだ。


「牧田か、名前書いとくな」

「お願いします」

「あと、和泉(いずみ)?和泉も書いとくぞ〜」

「はい」


微、記念すべき初発言。

微は図書委員を一緒にやると決まった女子を気にも留めず窓の外の景色を眺めていると、目の前の女子が振り返って来た。


「よろしく、和泉くん」

「ん」


微は牧田を一瞥してすぐに視線を窓の外へと戻した。

なぜか周りの男子がザワついたのは、また後で話そう。



散々長い時間を使って委員会を決めた後、帰りのHRも終わり帰ろうとしたところで、担任から嫌な通達があった。


「あ、そうそう、委員会の奴らは今日各委員会で会議的なものがあるらしいから、前にどこに集合か書いてある紙貼っておくから、さっさと行けよ〜」


微はその事に溜息を吐きながら、図書委員なので図書室へと向かった。

そんな微に後ろから肩を叩く者がいた。


「和泉くん、一緒に行きましょ」

(誰...?)

「私 牧田(まきた) 由乃(よしの)。和泉くんと同じ図書委員よ」

「ああ...」


微はそういえばと言った様な顔をして由乃の顔を見た。

由乃の顔は、可愛いと言うより綺麗、美人と言った方がしっくり来る顔立ちだった。

七三分けの長い前髪、スッと真っ直ぐの後ろ髪は、腰の上くらいまで長い。

長い睫毛(まつげ)と大きな目、高めの鼻に、控えめな薄い唇。

こんな美人と委員会が同じだったら、そりゃ幸せでしょうが、微君にとってはどうだって良い事だった。むしろ、


(こいつといると目立ちそうだな...)


もう既に心の壁の分厚さは更新されていた。

由乃の誘いを無下にも出来ず、一緒に図書室まで行くことになった。

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