組み立てたい…
プラモデル購入の許可を得て、駆逐艦の模型を買う事が出来た少年Yは何故かプラモデルを組み立てられずにいた…
「はぁ〜カッコイイなぁ〜」
少年Yは駆逐艦のプラモデルを買ってから毎日箱絵を眺めて恍惚とした表情を浮かべていた。尤も、最近は目が虚ろになってきているが…
今日はいつも観ているスーパー戦隊シリーズすら観ずに朝から箱絵を眺め続けている。
何故組み立てずに箱絵ばかり眺めているのかと言うと、前回の家電量販店でプラモデルと一緒に工具を購入しようとしたのだが
「せっかく始める趣味なんだから道具はちゃんとしたものを買ったほうが良いわ、模型店の店員さんに色々聞いて買いましょ?」
という母親の提案で工具は模型店で買うことになったのだ、ここまではまぁよかった。
模型店は家から歩いて三十分ほどの所にあるので冷蔵庫の買い替え終わってから行こうということになった。
ここからが問題で予想以上に家電量販店での商談が長引き、模型店に着いた頃には営業時間を過ぎてしまっていたのだ。
親は共働きなので模型店に行くのは来週の週末まで持ち越しになった。
そんな訳でYは組み立てたい気持ちを一心に抑え、ランナー(プラモデルのパーツがついている枝)からパーツを切り離さずに眺め続けるだけという一種の精神修行的な事を1週間も続けた。
結果彼はある種の悟りを開きかけていた…説明書も読み過ぎて内容がほとんど頭の中に入っている。
「早く組み立てたいな…それにしても“モグネミ”って変な名前の船だな、どういう意味があるんだろ?」
Yが虚ろな目で箱絵を見ながら独り言を言っていると、玄関から母親の呼ぶ声がした。
___きたっ
先程まで虚ろだった目がぱっと明るくなり、傍に置いていた鞄を手に取ると玄関に全力で向かった。
「ちゃんと財布と自転車の鍵は持った?あ、こら家の鍵は自分でも持っていきなさいね…ちょっとあんた寝癖ついてるじゃないの」
母親に寝癖のついた髪をぐしぐしされながらどうして母さんはこうも口うるさいのだろうと思いつつ鞄に財布と家の鍵を入れ、自転車に跨った。
___やっとモグネミを組み立てられる…!
Yは1人歓喜の渦に呑まれつつ母親と15分程自転車を走らせると模型店が見えてきた。今日は週末、待ちに待った模型店に行く日だ。
少年Yは以前1人でこの模型店に訪れたことがあった。しかし模型屋独特の雰囲気とひっそりとした佇まいに気圧されて入ることが出来なかった。
それ以降も入り口の横のショーケースの模型を眺めるだけ眺めて帰るということが何回かあった。
小中学生にとって入ったことのない模型屋に入るのはかなり度胸がいることなのだ。まして彼は小学3年生、親の同伴無しではとてもじゃないが入れないだろう。
だが今日は母親がいる、1人では入れなかったが親が付いていれば…
店の前に自転車を停めると駆け足で扉まで向かった。
艦〇れに未登場の駆逐艦なのでお気づきの方は少ないかも知れないが、少年Yは朝潮型駆逐艦の峰雲を購入したのだ。
しかし箱絵の船体に白い字で“モグネミ”と書かれていたせいで勘違いをしているのである。
小学3年生の彼はは戦後間もない頃まで横書きの字は右から左に書いていたという事など知る由もないのだから致し方ないだろう(だがこの勘違いに気づくのは半年も経った後だ)
次回、模型店に突入!