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重い扉を開けると、埃っぽい空気とカビの臭いがつんと僕の鼻に来た。
魔女、こんな所に住んでて大丈夫なのかな…
さっきのあれを見てから、魔女への興味が湧いてきた。
今までは魔女の家があれば、それでいいと思っていたのに、今は魔女自身に会いたいと思う。
廊下を進んでいくと、まるで映画に出てくる魔女の家のような光景に沢山出会った。
蜘蛛の巣がかかった怪しげな肖像画だったり。
燭台とそこに既に火は宿っていない蝋燭。
黒く塗られた窓だったり、よくわからない柄のステンドグラスだったり。
だから勿論、この家に光は殆ど入ってこない。
暗闇の中見知らぬ場所を進むのは、普段だとかなり不安を感じるだろう。
でも今は感じない。
魔女に会いたい、過去の記憶から救いたい、そういう思いが僕を突き動かしている。
気づけば、かなり家の奥に入ってしまった。
やっぱり失礼かな…
魔女だから、今僕がここに居ることも分かっているだろうな。
魔女人間嫌いだから。
なんか凄い光線を出して攻撃してくるだろうか。
知らぬ間に毒を飲まされるだろうか。
捕まって、拷問されるだろうか。
今から僕がどうなろうとも、これだけは伝えたい。
「 」
次の瞬間、緑色の閃光が僕の目を貫いた。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
矢張り殺されるのかな。
痛い。痛いよ……背中が焼けるように熱い。
でも魔女は、魔女はもっと辛かった。
だから言わなきゃ…!言わないと……
「僕だ…け…は、あな…たの…み……かた…だから…!」
声が出ない、掠れた声さえも出ない。
それでも僕には伝える義務がある、誰にも理解されなかった魔女を救わないと…
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さっさと終わらせてやろう。
そう思ってまともに顔も見ずに魔法をかけた。
緑色の閃光が私と人間の目を貫いた。
もがき苦しむ人間を見て、ざまあみろと思った。
この魔法を掛けられたものは、体に小さな紋様が浮かぶ。
それは体に悪魔が宿ったことを示す紋様。
それが全身に広がれば、魔法を掛けられたものが悪魔に喰われてしまい、自ら命を絶ったり病気で死んだりする。
その間およそ10年。
見る限り前途多望な少年だ。
絶望を味わうが良い……
少し異和感を感じ、人間をちらりと見る。
すると人間が動かない口を必死に動かし何かを伝えようとしている。
何…何を言っている…?えっ、真逆……!
声を発さずとも相手の考えくらい読める。
こんな事…何故?!何故だ?!
自責の念と後悔が私を襲う。
何故私を救おうとする……?!
「僕だけは、あなたの味方だからね」だなんて…!
何故だか分からない。
だが私の目からは涙がとめどなく流れ続けた。