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不死身はチートになりますか?  作者: 藤木ユウ
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プロローグ

ノリと勢いだけで書いていくので辻褄合わないこともあるかもですがよろしくです。

拙い文章ですが頑張ろうと思います!

 中世ヨーロッパに見られたようなファンタジーな景観が広がるそこはエルステイン帝国の中心地、帝都トビアス。その都市を見下ろす形で聳える巨大な宮殿の中に設置された医療棟の一室。


 そこから廊下に聞こえるほど大声で言い争う無数の声が響いてくる。


「離せ! 離せェ!! お前たちワシの云うことが聞けんのか!!」


「お師匠様どうか落ち着いて安静になさってください。これ以上無理されてはお命に関わります」


「ならばなおのことワシには成さねばならないことがある。えぇいこの手を離さぬか!」


 天蓋付きの広い寝台の上で一人の老人がローブを纏った男たちに押さえつけられ諫められていた。


 それでも大声を張り上げ男達に食って掛かる老人にはどこか追い詰められたような鬼気迫るものがある。


 現に老人は追い詰められていた。老人の顔色は悪く身体は痩せ細って骨と皮だけのような状態。寝台に寝たきりとなった老躯は既に慢心相違で彼の先細い命は意志の力だけで延命しているようなものだ。


 だがそれももう限界なのだろう。これは自らの死期を悟った老人の最後の悪あがきなのだ。


 老人の名はローランド=カカトレウス。ここエルステイン帝国で賢者と称えられ大陸全土にその名を轟かせた大魔導士である。


 彼が持つ知識は魔術に限らず膨大でありその全てがこの世界において斬新的かつ先進的なものだった。


 輪栽式農業を導入した農地改革に始まり、長距離航海を可能とする新たな造船技術、そして術式の発明により魔術に新たな光を当てた。その他にも数多くの功績を残している。


 ローランドによって導かれた帝国は隣国に差をつける目覚ましい発展を遂げ、彼は英雄として多くの人々に称賛された。


 しかし、疑問に思う者もいただろう。何故ローランドはこれほどの知識を有していたのか? これらの知識ので出所はどこなのか? ローランドを賢者たらしめた根幹を知る者はどこにもいない。


 それもそのはずローランドには親しいものにさえ明かすことのなかった秘密があった。


 彼にはローランド=カカトレウスと云う賢者として生きた人生とは別に夏目悠斗と云う少年として日本で生きたもう一つの人生の記憶があった。そうローランドは所謂前世の記憶を持って生まれ変わった転生者だったのだ。


 ローランドが様々な英知を有していたのは彼が賢者だからではなく、ただ単に既に地球で確立された先進技術を知っていただけ。


 しかし地球で云うところの中世程度の発展しか遂げられていなかったこの世界において存在しない知識を示せば誰もが彼の中から生まれたものだと錯覚するだろう。


 しかし多くの人々がローランドを賞賛するなか当の本人には周囲の声などまったく聞こえていなかった。


 知識は地球から輸入したものでローランドが称賛される理由にはならない。


 それに彼にとってそんな賞賛などどうでも良いことだった。


 何故ならローランドは英雄となって歴史に名を残したいわけではなかったのだから。


 ローランドには目的があった。それ故、帝国の発展に尽力した。


 そう彼は求めていたのだ尽きることのない永遠の命を手に入れることを。


 彼は前世で最初の死を経験して何よりも死ぬことを恐れた。


 もう二度と死にたくない。あの暗闇に飲まれるのだけはもう嫌だ。


 それは彼が心の底から感じた恐怖だった。


 それ故新たな世界で目覚めてからローランドの行動は早かった。


 脳の柔軟な幼いうちに様々な言語を習得し、文字を理解し、ありとあらゆる国の書物を読み漁り知識を集めた。


 やがてこの世界には魔術があって魔獣がいて人とは違うしかし限りなく人に近いエルフやドワーフなどといった種族が存在することを知った。


 ローランドは思った。地球に存在しない技術や生命が存在するこの世界ならば永遠の命が手に入るかもしれないと。


 それからローランドは可能性の高い魔術の習得に力を入れ、合間にその他多くの事に手を伸ばした。


 この世界の文明は上記で述べたとうり地球で云うところの中世程度のレベルでしかない。


 故に生活水準が低く、貴族は平民と比べいくらかましとはいえ地球から転生したローランドからすれば低いと云わざる負えなかった。


 そこでまず食料事情に関する問題から手を付けた。


 食は人の身体を健康に保つ上で最も重要であると考え収穫の期待できる生産方法から栄養価の高い食料の生産方法その調理法まで国内外に浸透させた。


 勿論理由は永遠の命を手に入れる前に飢えや栄養失調が原因でぽっくり死んだりしないようにするためである。


 文明レベルの低い世界であるが故につまらないことで命を落とす可能性も考え少しでもそのリスクを減らす努力を怠るようなことを彼はしなかった。


 造船技術にしても海を渡って大陸各地に調査団を派遣し世界各地に潜むまだ見ぬ知識を集めるためだ。


 そして魔術の新たな体系を構築したのだってそう。


 全て永遠の命を手に入れる為には必要なことだった。


 そしてローランドが転生してから実に半世紀経った頃、遂に彼は永遠の命を手に入れる方法を見つけた。


 それは朽ちることのない器を生み出しそこに魂を移植すると云う方法だった。


 ローランドは器を作る上で魔獣に注目をした。


 そして様々な魔獣の特徴をかけ合わせこの世界には存在しなかった新種の魔獣を生み出すことに成功する。


 彼の生み出した魔獣は自らの時を永遠に巻き戻す不死性を有し、ありとあらゆる傷と病を癒やす権能を所持していた。


 彼はその魔獣に自身の記憶を移植しそれを持って器の完成とした。


 完成した器には生命であるが故そこに魂が宿り、記憶を移植したが故に自我が芽生えた。


 だがそれもある程度予想できたこと。器に魂が宿っていた所で上書きしてしまえば問題ないと考えた。


 ローランドは魂を移植する術式が完成するまで研究所に器を封印し術式の構築に没頭した。


 そして術式を完成させるにいたるがここで完成した術式には移植の過程で魂が摩耗するという重大な欠陥があると発覚する。


 そして摩耗した魂では器に元から備わっている魂を上書きできないと知る。


 そのため術式には改良が必要となったが魂の摩耗を防ぐ方法が見つからず開発は難航し時間だけが過ぎていった。


 時が経ち術式の完成を見るより先にローランドの体の方が根を上げることになる。


 老化による肉体の弱体化。いかに健康に気を使っていても人間歳には勝てない。


 やがて手足もまともに動かせない寝たきりの状態となるがそれでも彼は諦めるということを知らなかった。


 弟子達を己の手足として使い術式の構築に力を尽くした。


 そして今日(こんにち)、遂にそれにも限界が来た。


 人の短い一生では全てを尽くしても永遠の命には届かなかった。


 だがそれを頭では理解していても感情が許さない。大声で喚き散らし理不尽な現実を否定するしかなかった。


 まだやれるまだ可能性は残っていると老体に鞭打ち最後の力を振り絞る。


 けれど現実は無慈悲で残酷だ。


 これがローランドの最後の力だった。彼の体からは力が抜け手足の感覚が曖昧になっていた。


 死はもうすぐ側まで迫っている。


 意識が朦朧とするなかローランドは誰に聞かせる訳でもなく一人呟いた。


「はぁはぁ……器は完成させた。術式もこの仮説が正しければ完成に近ずくはずだ! あと一歩あと一歩なのだ!」


 ローランドは何かを掴むように天に向かって力なく震える手を伸ばし叫ぶ。


「そうあと一歩で永遠の命が手に入る。だと云うのに間に合わないかここまできて。ならばワシはいったい何のために転生したと云うのだ答えろ神よ!」


 心の底からのいや魂の底から絞り出した叫び声だった。


 だが、ローランドの問いに答える者はいない。


 シンッと静まりかえる部屋のなか彼の最後を看取るために集まった者達の表情は困惑で彩られている。


 そんななかローランドはただ一人その顔を絶望に染めた。


 それはまるでこれまでしてきたことが全て無駄だったと云われているようで、永遠の命など最初(はな)から手に入るわけもなかったのだと云われたようで。


 そう思った途端ローランドの恐怖はピークに達した。


「死にたくない………死にたくない死にたくない死にたくない嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁあああああああああああああああああああああ!!」


 喉を潰す勢いの凄まじい絶叫が響く。


 そこには賢者と称えられた英雄の威厳はなく、それはただ恐怖に怯える子供のようだった。


 その様子に周囲が唖然とする最中(さなか)、ひとしきりに叫んだローランドはそれを最後にこの世を去った。


 彼の死に顔に安らぎはなくあるのは恐怖と絶望だけだった。


 ローランドの最後を看取った者達はそれは英雄の最後を飾るにはあまりにも惨めで相応しくない最後だったと云う。





 ローランド=カカトレウスの死と同時刻。そこはエルステイン帝国西方国境付近の森の中。その地下に建造された彼の持つ秘密の研究所にて。


 実験用の寝台に固定され全身を拘束具でガチガチに固められた人型が芋虫のようにそこから逃れようともぞもぞと動いていた。


 やがて寝台を囲うようにして床に描かれていた魔法陣が淡く発光し硝子が砕けるように中空へ霧散した。


 直後に寝台と人型を固定していた革ベルトが一つまた一つとはじけるように解け人型の足先から頭まで覆っていた拘束着に火が燈り勢いよく燃え出した。


「ぷはッ。あー苦しかった」


 灰になった拘束着の中から姿を見せたのは金色の髪の美しい少女だった。


 少女はゆっくりと体を起こすと寝台から降りて大きく背筋を伸ばす。


「あぁやっと自由に体を動かせる。うぅ体の節々が痛む。全身から嫌な音が聞こえてくる。さっさと再生しろオレの体~。それからクソ(じじい)長いこと閉じ込めやがってぶん殴ってやるから歯ぁ食いしばれ」


 物騒なことを云って少女は薄暗い研究室の中を見渡すが目的の人物はどこにも見当たらない。確認のためもう一度呼んでもやはり返事はなく姿も見えない。


「………どういうことだ爺がいない? てことは実験の為に封印が解かれた訳じゃないのか? んーでも確かに今のは解かれたというよりも解けたって感じだったな。でもあの爺がうっかり封印を解いちまうなんてそんなヘマやらかすとも思えないし………まさか死んだなんてことはない………いや…そうなのか? けどそれなら辻褄は合うな。そうでも無い限り爺が封印の維持を出来なくなるなんてこと考えられないし………」


 少女は一人封印の解けた謎を考察すると今度は枷が解けたように笑い出した。


「フハハハハ爺ざまぁ! どうして死んだのか知らんがおかげでオレはテメェの入れ物にならずに済んだぞ! フフこれは笑わずにいられない傑作だ! あれだけ死にたくないとみっともなく生にしがみついていた男が最後はどんな顔して死んだのかねぇフフフあーおかしい。なにはともあれこれでオレは自由の身だ。ようやく外の世界に出ることが出来る」


 狭い地下研究所には少女の笑い声だけがいつまでも響いた。








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