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EPISODE.3「飛び降りちまえよ」


『やり方は戦いながら伝えていくぜぇ?』

「問題ない」

『んじゃまずは変身からだなぁ』


 変身? と疑問を浮かべながら、浩は目玉に懐疑の視線を向ける。


『本当はヒロが自分で意識的にやるもんだが、今回は俺がやってやるぜぇ。……変身』


 その濁声が聞こえた途端、目玉の周りから触手のような物が溢れ出してきた。


「うぉ!?」


 浩は驚きつつ、思わず手を払いのけるような動作をした。

 寄生している以上払いのける事は出来ないのだが、それでもついやってしまったのは、しょうがないことであろう。

 それぞれの触手の間には、膜のような物が出来てた。

 触手と膜が、恐ろしい速度で浩の体を包んでいく。

 その様子はまるで、腕から触手生物に飲み込まれていくようであった。


 浩の視界が真っ暗になったのは一瞬だけだった。

 先程までの奇怪な光景が嘘のように、普通の視界である。 


『これが変身だぜぇ。オイラの体でヒロの全身を覆っている状態だ』


 サンショウウオもどきのあの醜悪な姿を象った着ぐるみに、自分が入っているところを想像して、浩は苦い顔をした。


「ん?」


 浩は自分の手を見てみようとしたが、そこには何も映らない。確かに自身の両手を目の前に出しているはずなのに、だ。


『これが主な能力、透明化だぜぇ』

「まさか全身が?」

『めでたく一端の透明人間って訳よぉ』


 便利な能力ではあったが、自分の体が見えないというのは、不安が大きいものである。


「他人に見えるようにはできるか?」

『変身している以上、絶対に透明なんだぜぇ』


 それは不便極まりない、と浩は思う。


『ヒロにだけは見えるようにできるぜ』

「じゃあそうしてくれ」

『へいへーい』


 気の抜ける濁声とともに、自分の体が視界に映るようになる。

 真っ白な腕であった。牛乳のような白色の、ブヨブヨとした肉のような物が自分の体を覆っているようであった。

 全身を確認することは出来ないが、恐らくは化け物、怪人のような姿だと推察できる。

 浩は透明で誰にも姿を見られないことに感謝した。


「じゃあ行くか」

『ならまず窓だな』


 そう言われ、浩は窓に近づいた。


「これでどうするんだ?」

『飛び降りちまえよ』

「は?」


 浩は窓から身を乗り出して、下を見る。


「三階だぞ?」

『衝撃は吸収できるぜぇ』


 ここは学校であるため、一般的な建築物よりも一階層あたりの高さが高い。三階と言っても、地面からの高さは10メートルはあった。

 生身ならば少なくとも骨折は覚悟しなければならない高さである。


 浩は窓枠に足をかけ、半身を乗り出した。


「ええい、ままよ!」


 躊躇うのは自分らしくない。

 浩は一気に跳躍して三階から飛び降りる。

 浩の体は放物線を描き、柵を超えて校庭に向かった。


「っと」


 手をつきしゃがむようにして着地する。

 骨折は愚か、痛みすらほとんど感じなかった。

 思いの外高性能な体に、浩は内心驚愕する。


『ほらなぁ?』

「この体っ! 他に能力あるのか?」


 浩は捕まりそうな生徒を見つけ、地面を踏みしめ駆け出しながら聞いた。


『あとは身体能力に補正がかかったり、表面を一部硬化したりってとこだなぁ』

「なるっほどっ!」


 どうりで何時もとは比べ物にならないほどに足が速い訳である。

 納得しながら、今にも顔無しに殺されようとしている男子生徒の下に駆けつける。

 体操服を引っ張るようにして顔無しの攻撃範囲から脱出させる。

 そして男子生徒を襲おうとしていた顔無しの頭部に、回し蹴りを食らわせる。

 しかし、この衝撃も浩を包んでいる肉が吸収してしまうのか、ダメージは与えられていないように見受けられた。


「おい! 硬化とやらは出来ないのか!?」

『ヒロが制御するには時間がいるぜぇ?』

「今何とかしろ!」

『じゃあオイラが硬化させとくぜ。両手両足でいいかぁ?』

「頼む!」


 浩は両手両足の何かが固まったような感覚を得た。

 硬化を確認すると、キョロキョロとしている顔無しの首に右手を突き刺す。


「プギィっ!?」


 血は出ないようだが、浩の手の先は確実に顔無しの首に刺さっていた。

 浩は手をひねると、顎を掴むようにして引っこ抜く。


「ブるッ───」


 顔無しの体が浮き上がり、頭部が首ごと引っこ抜かれる。

 地面に全身を強打した顔無しは、もう起き上がる気配は無かった。


「よし」


 ひとまず行動不能にさせたことを確認して、男子生徒を振り返る。彼は腰を抜かして立つことができないようだった。

 青ざめた顔で、キョロキョロと辺りを見回す。状況をよく理解できていないらしい。


「おい。聞こえるか」


 浩は男子生徒の前に立ち、話しかける。

 しかし、男子生徒は全く反応を示そうとしない。

 浩がいくら呼びかけても、結果は同じだった。


「おいまさか」

『音も声も全部シャットアウトするぜぇ?』

「先に言え!」


 浩は問答無用で男子生徒の体を肩に担ぐと、校庭の外に向けて走り出した。

 コミュニケーションが不可能なら、何も考えずに担いで運び出した方が効率がいい。

 男子生徒は訳も分からず目を回して失神してしまったようだが、むしろ暴れないため浩には好都合であった。


 ついでに腰を抜かしていた女子生徒をもう片方の肩に担ぐと、校庭から出て十分に距離をとる。

 校門ではようやく避難がまともに進み始めたようで、幾人かの教師と数十人の生徒が身を震わせながら集合していた。

 校舎からは徐々に人が流れ出てきているようである。


 浩はここでいいか、と判断し、担いでいた二人を側に降ろした。

 降ろす前から数人の生徒に気づかれ、唖然とした目を向けられていた。二人を降ろすと、さらに浩の方にあつまる視線が多くなった。

 そんなものは気にせず、浩はまた校庭に向けて走りだす。


 正体を隠すとか、そんなどうでもいいことは今考えるべきじゃない。浩は効率を重視して、奇異な視線を向けられることも厭わず、救出活動を続ける。

 校庭と校門の間を何度も往復し、校庭で危険な生徒を見つけては担ぎ上げ、校門に置いていった。



+-+-+-+-+-+-+-+-+-+



 防衛省対モンスター特殊部隊、通称モンスター討伐隊の本部は、突然の通報に騒然としていた。


「状況は!?」

『現在確認出来てるだけで、人型B級が一体、人型D級が二十五体です。どれも敷地外には出ていない模様。校舎の被害は甚大。犠牲者は十三人を確認しています』

「B級が一体というだけでも厄介というのに、D級が二十五体も……」

「まず人型Bを討伐する前に、人型D級を殲滅する必要がありますね。まともに戦線が組めないでしょう」

「救急部隊はどうした?」

「すでに偵察隊と同時に出動しています」

「近隣住民への避難勧告はどうなの?」

「とうに済ませてるぜ。警察と協力し、避難を勧めている」

「自衛隊、特殊部隊、消防隊も出動済みです。避難と救助を優先し、行動させます」

「大規模討伐部隊は集まりそうか?」

「現在可能な人材に呼びかけています。上官殿方も、出動の準備を念のためお願いします」

「おう」

「分かっとるわ」

「とうに出来てるわよ」


 ほぼ毎日命を懸けた戦闘を行っているためか、討伐隊の精神面は、すでに軍人のそれを越えている。

 極めて異例な事態であっても、かなりスムーズに事が進められいた。


 だが、いかに彼らが優秀であろうと、時間がかかるのはしょうがない物であった。

 その場にいる誰も口には出さないが、とくに学校内の生徒の命は、最悪助けられないという予感があった。

 内心、500人は死亡すると感じていたのである。どことなく重い空気が、本部の会議室に流れていた。


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