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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第2章 森の狩人と近衛騎士
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近衛騎士団

――トモが帰ってこない。もう、1週間にもなる。

 あいつは、俺とは違って滅多なヘマをしない男だ。

                                                   

 仕事となれば、沈着冷静で危険は犯さない。そう、狩人レンジャーに成るべくして成ったような男。

 そんな弟が、狩りから戻らない。


 あいつと違ってすぐ熱くなる性格の俺は、苛立ちを隠す術も持てずにいた。

 近衛駐屯地の詰所の中で、夜間巡回にも力が入らずただただノイローゼの虎の様にグルグルとしていた。



「おい、マサト。もう、いい加減に座るか代わるかしろよ」


「いい加減、だと! ? ふざけるなよジェイク」



 火のついた俺は、同僚の厚い胸ぐらを掴んでしまった。



「弟なんだよ! たった一人の、家族なんだ!」


「判ってる! 明日には捜索部隊を派遣すると、部隊長からさっき報告があったろ! 落ち着けよ!」



 腕を掴み返されて無理矢理振り回され、椅子にケツを思い切り叩きつけられた。

 痩せた女の腹回りほどあるジェイクの図太い腕が、俺を押さえ込んだ。



 凄いパワーだ……流石は次期兵長候補……


「ってぇなぁ! 離せよ!」


「座るんだ! マサト……大丈夫だ。弟さんは、きっと生きてる」



 ジェイクは白い歯をみせた。根拠は無いが、泣く子も黙るような笑顔に少しだけ、俺は落ち着く事が出来た。


 ああ、昇級試験で魔物にやられそうになった時も、ジェイクは俺の肩を片手で引き上げながら笑って見せてくれたな。

――――大丈夫! マサト、お前はきっと上手くいく。弟さんの為にも此所で落ちるわけにはいかないだろ――――


 ったく、お節介野郎。



「……悪かったよ、ジェイク。すまん」


「いいんだ。

 それより、アレはどうなっているんだ? マサトよ」


「ん? あぁ、これか?」



 ジェイクの言う通りだ。トモは、生きてる。


 鎧の襟からそっと、ジェイクのいう白銀のネックレス(アレ)を取り出した。

 ネックレスの中央には直径3センチ程の丸くて白い宝石。そいつが銀で加工されている。


 昔、街じゃちょっとしたワルガキだった俺達に、見かねた占い師の姐さんがくれたネックレスだった。


 東方の国の魔法が掛けられているらしく、姐さんは俺と、弟に同じ物をくれたんだ。


 感情で色が変わるという珍しい宝石だ。

 怒ると赤くなり、笑うと黄色くなる。悲しいと青くなり、紫は病気のサインだとか。

 専ら互いに病気には無縁なもんで、その色は見たことないんだけどな。


 これでも見て少しは落ち着きなさい、と怒鳴られた事を思い出す。

 

 やがて宝石が光を失う時──それが、俺達の別れの時だとも、姐さんは言っていた。



 俺達は、互いのネックレスを交換した。


 これで、何処で何をしてるかがよくわかるな、なんて言いながら、トモは笑ったっけ……



 宝石は、白く、光ったままだった。



「綺麗な光だな」



 ジェイクには、こいつの事を話していた。

 こいつは、俺の唯一の親友だから。



「あぁ、これが光っているうちは……」


「そうだな。何か、事情があるのかも知れんな」


「ああ。そうかもしれない。怪我とか病気とか」


「うむ……ならば色が変わるんだろ?占い師を信じようじゃないか。いずれにせよ、これでランス兵長に借りが出来ちまったな、マサト! ハッハッハッ!」


「チッ、確かに……」



 いくら弟がこの国の腕利きの狩人レンジャーだからといって、国全体から見ればたかが村人の一人。

 それが行方不明になった位でこのバルディウス王国近衛騎士団が動くなんて、本当にあり得ない事だった。


 愚連隊だったあの頃の俺を、騎士団に無理矢理推薦してくれたランス兵長がいてくれたからこその処遇。


「お前の弟だから、だぞ?」


「ああ、判ってるさジェイク」



──此所、フェイセリア大陸の西に位置するバルディウス王国は、多くの山林地帯を抱える土地だ。


 そしてトモは、誰よりもその王国周辺の地理に詳しい。

 狩りの出来る人間が限られているからな。

 国中探したって、あいつより″知っている(動ける)″奴はいないだろう。


 未開の土地が多い王国の北方地図だって、半分はトモの情報で出来ている。


 俺達は、今は無き東方の国の末裔だから、この国で生きていく為には相当の努力が必要だったのさ。

 ガキの頃、内戦で国を追われ、言葉も文化も違う国に置き去りにされて、泥をすするような難民生活から必死で、俺達は今の生活を二人で築き上げてきたんだ。


「まだまだこの国には、未開の土地が沢山ある。王国には、弟さんの様な力が必要なのさ」


「へへっ……本当なら、あいつが王国騎士団ここに入るべきだったんだ」


「馬鹿野郎! 貴様はまだそんなことを言いやがるか!」


「あ、いや、冗談さジェイク。マジになるなよ」



 コイツ、眼が本気だ。こいつは暑苦しい所がたまに傷なんだ。

 ジェイクは今時珍しい、志願兵だからな。



「違う、違うぞマサト。此処に居るのはお前の実力だ。俺が言いたいのはだな、騎士の誇りを」


「判った! もう判ったよジェイク。ありがとな」


「待て、何処へ行く」


「巡察だよ。お前は少し安め。俺は、大丈夫だから」



 クドクドと王国の歴史から始まるジェイクの説教にはもうウンザリだ。


 俺は街へ出た。街の夜は、繁華街だけがきらびやかに賑わっていた。


 街中に、弟の失踪話が溢れていた。人の気も知らないで、酒のつまみにしやがって。



「帰らずの森なんか行くから、そんなことになるんだ、ウィ~」



 酔っ払い達が大声でそんな事を騒いでいる。



「うるさいぞお前ら。騒乱罪で牢にぶちこまれたいのか」


「あ~ん? なんだお前はぁ」



 酒臭い、禿げたオヤジがフラフラとしている。


「馬鹿! お前! すいません、すいません!」


 鎧の左胸に彫られた牡鹿のマーク(騎士章)を見た連れの男が、ペコペコと頭を下げながら、禿げオヤジを連れ去っていった。



「チッ……クソッタレが」



 帰らずの森、か……


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