来るべき未来へ
『ダッシュで来い!』
ケラウノス……あんなのどうやって倒せるんだよ
『言えば、信じるのか?』
う、それは……内容によるよ……
無理だろ、だってあんなでかくて、それに――
『いい。もう貴様には期待せん。見ての通り俺様は剣士がいないと力を発揮出来んからな』
そりゃ、剣だからな
『――ああそうさ。たとえ俺様がこの星を丸ごとぶった斬る力を持っていたとしても、だ。貴様がいつまでも動かぬなら、俺様は只の鉄塊さ』
だって、だって何にも覚えてないんだぞ? 訳もわからずこんな所で、あんな化け物を……無理だよ……
『無理、か……解った。貴様なんぞそのままアレに喰われてしまえ。俺様は次の主を此所で待つ』
そんな……俺、こんな所で死にたくねえよ……
すると、ケラウノスの柄の部分が光り出した。
『まだ解らんのか! どの三千世界に於いても、いつもそうだ、貴様等人間が! 人間だけが未来を……チッ、もう知らん!』
ケラウノス……怒ってる?
ケラウノス? 人間だけが、何だよ……おい
ケラウノス! おーい
……返事がない。
巨大なニンジンの化け物はゆっくりとした動きながら、歩幅があるので確実に距離を縮めて来ている。
もう、選択の余地はない。
死ぬか。戦って、死ぬか……
俺は……俺は……
――気付くと俺は走っていた。ニンジンの葉に足を取られて何度も転びながら、無我夢中で、ケラウノスの元へと。
「ゼィ、ゼィ、ゼィ……」
満身創痍だ。落下の後でもう、一歩も動けないと思っていたけど、何とか前に、前に……
「ハァ、ハァ、もう、少し……」
俺、自分の事、何も解らない、でも……
解らないまま、死んでいくなんて嫌だ!
「ゼィ、ゼィ、ゼィ……」
ごめんな、ケラウノス。さっき助けてくれたのに、弱音ばっかり言って……
お前の言う通りだ。未来を……
「ゼィ、ゼィ……」
人間だけが未来を変えられる! そうなんだろ? ケラウノス!
俺の未来を切り開けるのは、俺だけなんだ!
倒れ込みながら、ケラウノスの柄に手が触れた。強く、強く握りしめた。
どうだケラウノス……あと頼めるか?
『ああ。頼み方がなっちゃいないが、まぁいいだろう。合格だ。よくやったな』
「へへ……」
化け物の触手が唸りを上げているのが聞こえたが、俺は此所で、意識が朦朧となっていった。
『我並びに我が使いよ……天空にあまねく精霊達に告ぐ……』
ケラウノスが何やら唱え始めた。その美しい旋律のような声を聞きながら、俺の意識は心地好い闇へと、溶けて行った――
――時同じくして、軍用車両は急ブレーキをかけた。
キキィーッ!
がっつりとシートベルトに引き戻されたフードの男は、隣で頭を抱えている女に言った。
「大丈夫ですかマスター!」
「ったぁ……何!? どうしたのよ!」
「こ、これ見て下さい!」
中央の画面の赤い点が、徐々に大きく拡大していく。
「ま、まさか!」
「どういう事ですかこれ」
「戻って! カノン! 逃げるのよ!」
軍用車両は、路面から外れながらUターンをきめた。
「何が起こってるんです?」
「くっ、時間がないっ」
拡大していく赤い点は、みるみるうちに画面を侵食していった。やがて青い点にも触れるのであろう事が、カノンと呼ばれた男にも想像出来た。
「カノン、ここから一番近い星に飛ぶわよ!」
「えー!」
女は画面を操作した。
「KNB2006α-……グラーデか……仕方ないわね!」
「え、そこって……物理世界の星ですよそれ!」
「時間無いって言ってるでしょ! これは間違いなく″あの人″よ! 彼も其処へ飛ぶはず!」
「何でわかるんですか?」
「このエネルギー値見て。この世界の許容を超えてる! 爆発するわ!」
「えーっ! 何してんだよあの人は!」
「知らないわよ! 会ったら殴ってやる!」
軍用車両は、迫り来る稲光を後方から視認すると同時に、光の玉となって天空へと上昇していき、やがて消えた。
――その日、1つの星が消滅し、2つの光が惑星に落下したのを、惑星グラーデのとある国の通信衛星が確認した。
これが後の銀河系星間戦争の引き金となるのは、これまたずっと後のお話。
第1章――終――