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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第1章 記憶喪失のおっさんと稲妻の剣
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ミラクルイケメンvoice

 化け物はオレンジ色から赤茶けた色に変色し、巨大な重機の様な動きで、俺が切り捨てたニンジンをゴッソリと纏めて平らげると、そこから更にモリモリと巨大化しやがった。


……うゎぁ、でけぇ……


 視覚で解る。三階建てのビルよりもある……これは、敵わない。絶対に無理だ。

 飲み込む唾も無いが、ゴクリと恐怖を圧し殺す。そうしないと気が狂いそうだ。




 逃げろ……動け、俺の脚!



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」


「グルァ……グ……グルァ……」



 まだ力が完全に入らないでいる両足を叱咤し、ヨロヨロと立ち上がった。



 走れるか……よし!



「グルァアアアアアア!」



 ヤバい。俺の存在に気付いたようだ。



 走れ!


 化け物に背を向けて走り出した。


 刹那、後ろから、ブゥンと空気が震える音が聞こえるのとほぼ同時に背中に物凄い衝撃を感じた。



 バゴォッ!


「がぁっ! ! ! !」


 長い触手の様な物が、見えた気がした。



 一瞬、目の前が真っ白になった──


 あれ……此処は……


 あ、畑が遠くに見える……高いなぁ


 あぁ、アイツにぶっ飛ばされたのか、俺は……


 この高さは……無理でしょ


 地面がゆっくりと近づいてくる


 あぁ、今度こそダメだ――



『あーもう! 受け身とれ! この野郎!』



 え……何?



『おい起きろ! おいこら、聞け!』



 へ? 何処から聞こえて来るんだ?

 え? 起きろ? やっぱり夢だったの?



『夢じゃねえよ、良いかよく聞け、全身でバランスを取るんだよ!』



 右手の方から、直接頭に響いて来たような

――太くて張りのある良い声。

 ラジオのDJみたいな――あ、そうか、解ったぞ。

 夢なんだな、これは。車のラジオ付けっぱなしで寝てて、目覚めるって落ちだな、きっとそうだ。

 なるほどなるほど――



『余計な事を考えるな! 説明は後だ! 足から地面に着け! 着いたら体を捻りながら、ふくらはぎ、膝、太股、ケツ、背中、上腕、頭の』


 ちょ、ちょっと待って、わかんねぇよ。


『最後まで聞け! 要するに体を捻りながら順番に、地面に着いたら回転しろ! 全身で衝撃を吸収するんだよ! 大丈夫、大丈夫! この世界なら大した重力じゃねえからイケる!』


 この世界なら? 逝けるって? あの世にか?


『チッ、本当ムカつくな貴様! 本当にあの人の分身か? クソ』


 何だって? 分身?


『いや何でもねえ! 来るぞ! 気合いでやれ! 剣は手離せ! しっかりそのボンクラな頭を守るんだ!』


 威圧的で偉そうな口調、ムカつくな。

 どうせ夢だし、此所で落ちたら目覚めるんだろう?

 目覚めるんなら、やってやるよ。


『条件付けんなクズ! 貴様の為だろ、やる前からグズグスと……わかった! 目覚める! お前は目覚める! いいな?』


 そっか。取って付けたみたいな言い方だけど、わかったよ。

 しかし怖いな、これで目覚めなかったら……


『来るぞ、バランスだっ! 今だッ!!』


 足から順に、衝撃を感じた。


 物凄い衝撃。痛みを感じる暇も与えられない程、何度も地面にぶつかりながら回転している。

 バランスも何もあるか。ただただ俺は衝撃に耐えているだけだった。

 そんな中でも、放物線状に飛ばされていたんだな、という事は理解した。



――やがて衝撃は治まり、柔らかな土と、ニンジンの葉っぱがクッションになったのか、取り合えず命は助かった様だ。

 そして全身がバラバラにされていくような痛みは、回転が止まってから襲ってきた。



「カハッ……ぅ……ううっ……あだだだだ……」



 何だよ――覚めないじゃねえか、嘘つきDJめ


『つかなきゃ死んでたろうが!』


 あれ、まだ聞こえる……偉そうな声


『何だと貴様! 俺様を愚弄すると只では済まさんぞ!』


 ちょっと待ってよ……誰だよ、何で俺が


『思っただけで貴様の思考が何故読めるのかって?』



 ぅ……うあぁ、とうとう頭やられちったな、俺……


『元からおかしいんだから気にするな。俺様もちょっとだけ解らん事はあるが、説明は後だ。ヤツを倒してからな』


 何、だと?


『何度も言わせるな。倒すんだよ』


 倒すって……あの化け物を?


『そうだよ。取り敢えず、俺様を見ろ』


 はあ? 何処だよお前、偉そうに……見ろって、何処から話し掛けてんだ?


『そこから見えるだろ。二時の方角。銀色に光輝く、超絶カッコイイ俺様がよ』



 二時の方向……


 俺は右舷方向に目をやった。


 三十メートル程先に、銀色に光輝く――


 さっきまで、俺が振り回していた物が、地面に突き刺さっていた。




「――は? ……剣、じゃねえか、あれ」



 その長剣の向こう側、二百メートル程先には、巨大化したあの化け物がいた。



「あ、あー、あの、ニンジン君? ならて、てめえの仕業じゃねぇかコラァ!」


『ちげぇよ馬鹿野郎! 貴様にはアレが超絶カッコ良く見えんのか? (つるぎ)の方だよ! 剣……つ、る、ぎ!』


「剣の、方?」



 意味が解らなかった。



『そうだ。さっさと取りに来い。貴様は、俺様を握ってるだけでいい。後は俺様が何とかしてやる』


「お、俺様って」


『そうだ。いいか、何度も言わせるなとさっきから――』


「アハハハ……俺様の剣? 何様の剣? アハハハ……」



 自分の頭がおかしくなった事を確信した。



『とうとうイカレちまったか。無理もないが、笑ってねえで早く来い。ああ、そうだ自己紹介がまだだったな。

 俺様の名は、ケラウノス。貴様の世界では、雷霆(らいてい)なんて呼ばれているがね。まぁ、以後宜しくな。

 さて、そろそろ急ぎな。奴が来る』


「ケラウノス? ライテイ? 俺の世界?」


『早くしろノロマ野郎』



 うんうん……これは、やっぱり夢だ……

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