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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第4章 女子高生と神隠しの社
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新しい世界

 あたしは、夜が来るのを待った。

 確信があった。

 あれは夢ではないから。

 きっと、夜になったら冬弥さん達がやってくる。


――消灯時間になって、あたしは冬弥さんがいつ来ても良い様に、ポッチが見えない様にトレーナーを着てワクワクしながら待った。


 それから一時間後、いつでもトモ君が此処から連れ出してくれても良いように、ジャージのズボンまで履いて、ひたすら待った。


 歯磨ブラシやバスタオル等のお泊まりセットまで用意して、準備万端。


 午前3時。

 流石に不安になってきた。


 もしかしたら、あたしが戻って来た場所は、元の場所じゃないのかも知れない……。



――見回りの看護婦さんらしき足音が聞こえたので、慌てて寝た振りをした。



――気が付くと、朝になっていた。



「来ないなぁ……」



――そして、一週間が過ぎても、誰も来なかった。


 本当に夢だったのかと思い始めた時、退院の知らせが来た。



――両親の意向により、他県への転校が決まった。

 知らない土地で静かに暮らそうという両親にあたしは大反対したのだけれど、世間ではあたしの身に起きた事件は専ら全国ニュースになった程の事件なのだという。


 両親の心が耐えられないんだと感じたあたしは、仕方なく、それに同意した。


 あたしには泡沫の世界での三年間が事実として脳裏にあるから、中学生の友達と再会する事も、中学校生活をする事も今更な気がしていたから……。

 

 それに、ここに居ても、アリサと出会う未来は、無いんだ。


 このまま、この町とはサヨナラする事にした。



――月日が経ち、季節は秋。



 新しい街、新しい学校での新しい生活は、特段何の変わりもない味気無い物だった。


 高校入試も楽勝だったし、おっぱいもそろそろDカップ目前。


 だけれど、あたしにはやはり、特殊な能力が身に付いている事だけは理解した。


 誰も気付いていないのか、それとも別の理由があるのか解らないけれど、この世界に、″人間ではない者″が多数、紛れ込んでいるのだ。


 初めは見間違いかと目を疑ったが、どうやらそうではないらしい。


 瞬間的に真っ赤な眼になる奴等。

 白目の無い、真っ黒な眼になる奴等。

 顔が一瞬、人間のそれとかけ離れる奴等……あいつ等は一体……


 それでいて社会に自然と溶け込んでいる、あいつ等は一体何なのだろう。

 実際、あたしなんかよりずっと、世間と上手くやれてる。


 あいつ等は一体……


 連中は自分にも優しく接してくる。

 寧ろ、人間″より″も優しい気がしている。

 打算のない応対をしてくるから。


 でも、こいつらは知っている。

 あたしが気付いている事に。

 あたしに怯えている事を、感じる。



――近所の肉屋の親父が″それ″だった。

 母親に頼まれて買い物に行った時に、周囲に誰も居なかったので恐る恐る聞いてみた。

 豹変して襲ってくるんじゃないかと内心ドキドキしながら言った。


 おじさんは何で眼が赤いのかと。


 初めは、奥さんが夜寝かせてくれないんだとか言って、下ネタで誤魔化してきたけれど。



「そうじゃなくて……あたし達と違うって言ってるの」


「そっか……″鋭い″んだなお姉ちゃんは」



 肉屋のおじさんは、とうとう認めた。

 今度は一瞬ではなく、ずっと赤い目をしたまま、笑顔だ。



「お、おじさん、何者なの?」


「世の中、知らない方が良いこともある。

 が、お姉ちゃんの場合は、とある方から″通達″も来ている。

 返って知らない事で危険な目に遭うかも知れないから、教えてあげよう」



――この街には人間の他に、三つの種族がいるという。


 一つ目は、吸血一族(ヴァンパイア)

 肉屋のおじさんが″それ″なのだという。

 昔は人間の血を何より好んでいた時代があったらしいけど、今では″代用品″でも生活出来るようになったのだとか。


 この街ではおじさんがその元締めの様な存在で、家畜の生肉を仕入れる際に手に入れた血液を、仲間達に配布しているのだという。

 

 そして何より強調していたのは、此処のヴァンパイア達は人間を襲ったりはしないという事だった。

 

 

「我々はマイノリティだ。

 どう足掻いたって人間や他の種族と争って、生き残る力なんてない。

 少なくとも、この街の仲間は皆、人間達と共存する事を選んだのさ」



 そして二つ目は、悪魔(デビル)

 あの眼が黒くなる連中だ。



「ちょっと待って。悪魔ですって?

 悪魔が共存しているの?」 



 人間に取り憑き、悪さをするイメージしかなかったあたしは、目を丸くした。



「お姉ちゃんが驚くのも無理はないな。

 奴等は流石に悪魔と呼ばれるだけあって、基本的に悪だから、この街の裏社会に精通している事は事実だ。

 人間の魂を闇に墜とし、支配することで生きている連中だ。

 我々からしてみれば神々とやり方が違うだけだがね。

 まあ、君が積極的に関わろうとしない限り、連中は君を狙ったりはしない。

 あれは、君達の敵である妖魔とは別の存在だから」


「妖魔、敵って……おじさん何、あたしを知っているの?」



 おじさんは頭を掻きながら苦笑した。



「言ったろ。″通達″が回っとるんだよ。

 さやかに手を出す者は、″蒼の一族″に仇なす者と見なし、一族郎党皆殺しにするっ ていうおっかねえ文章がよ」



 何だ、その過激な通達は……

 でも、おじさんの口から″蒼の一族″というフレーズが出てきた時、あたしは涙が溢れてしまっていた。


 やっぱり、夢じゃなかったんだ……



「おいおい、こんな所で泣くのはおよし。

 見つかったら殺されちまうよ」



 豪快に笑うおじさんにつられて、泣きながら笑った。


 そして、三つ目は、シェイプシフターの一族。

 姿形が自在に変わる種族なのだという。



「問題なのは、こいつらだ。

 我々もそうなんだが、純血種と混血種というのがいてなぁ……」



 シェイプシフターの純血種は、この街では専らセレブに多く、支配階級に属する所謂、ハイソな連中なのだという。

 おじさん達は、そいつ等をハイシェイプと呼んだ。


 顔形を自在に変えられるって、それだけで詐欺だものね。

 お金持ちになれる訳だ。


 そして混血種は、社会の底辺層に多いと言った。

 ローシェイプと呼ばれている。



「ローシェイプは大昔に蒼の一族に滅ぼされかけた。

 だが、蒼の一族はローシェイプに仲間をやられた事で、そっちに怒りの矛先を向けたもんだから、ハイシェイプが大量に生き残っちまったんだ」



 混血種。こいつらは人間の脳を″食事″で取り込みその人間に成り変わるのだという。



「ハイシェイプは見ただけで相手に成り変わるが、ローシェイプは相手を喰わないと、つまり殺さないと成り変われない。

 この差が、この街では大きな格差社会となって顕著に現れてるのさ」

 


 おじさんのコミュニティでは、混血種の救済を行っているという。

 


「元はと言えば、ローシェイプはハイシェイプが作り出したイレギュラーだというのに、連中はローシェイプをまるでゴミ扱いだ。

 許される事ではない。

 本来なら奴等が責任を取るべきなのだがな」


「酷いね。人間の中にも、望まれずに産まれて悲惨な目に遭う子達がいるけれど……」

 

「どの種族も似たようなものか。

だがヴァンパイアの混血種(ハーフ)は自ら望んで化け物になった者が殆どさ。

 こんなクソみてえな能力を欲しがるなんてなぁ、馬鹿としか言いようがないがな」



 殺されない限りは永遠とも呼べる寿命と尋常でない身体能力を与えられるが、紫外線に怯え、定期的な血液の摂取が生活の全てとなる馬鹿げた人生だ、とおじさんは自嘲した。



「我々は日中は毎日、日除けクリームを塗りたくって生活していて、部屋の外じゃサングラスやコンタクトレンズが必須だ。

 分かりやすいだろ」


「うん。日傘とかで完全武装してる人達よね」


「うむ。

……俺はな、さやかちゃん」



 おじさんは真顔になった。

 痩けた頬が、日々の生活の疲れを表している様に見えた。



「はい」


原初(アルファ)にはもう、腹の底から怒りが煮えたぎってんだ。

 我々も、悪魔も、シェイプシフターも、全ては″あいつから生まれた″種族だ。

 解るか? 俺達は望んでこんな体に生まれた訳じゃ無いんだよ。

 そう思っている奴等が大勢いるって事さ。

 人間のように、日の光を浴びて、旨いもん食って、愛し合って、生きる喜びを感じて、そして死んでいく。

 我々はその″当たり前″のフリをしているだけさ。

 本当は、そんな夢のような素晴らしい生き方を選べない、化け物なんだよ」


「おじさん……」



 おじさんは、怒りに震えるその剥き出しの牙を、引っ込めた。



「すまん。ちょっと感情的になっちまった。

 この前、この世界の半分以上の神々や化け物共が、蒼の一族(こっち)の側に付いたんだ。

 政権交代って奴だな。

 この世界はアルファの野郎に宣戦布告したんだよ。

 だから我々が言いたい事は、この街じゃ″蒼の一族″は大歓迎って事さ。


 お姉ちゃんは、神殺し(ゴッドスレイヤー)なんだってな。

 大人しくしているうちは、誰もビビって絶対に手を出してきたりはしないさ。

 それよりも君には、アルファの野郎をさっさとぶち殺して貰いてぇからなぁ」



 そう言ったおじさんは、笑いながらお肉をまけてくれた。


――そうか、それであたしのこの世界は、此処からのスタートを切ったって事なのか……



 そして、おじさんは釣り銭と一緒に、エプロンのポケットから白銀のペンダントを取り出して、あたしにくれた。



「金髪のあんちゃんと弟みてえな坊やから、これを預かってたんだが。

 時が来たらさやかに渡すようにってな。

 何時だか知らねえっての。ハハハッ!

 何やら急いでたみてぇで、直ぐに消えちまったが。

 それ、君のだろ?」――



――四者共存共栄の世界。

 あたしの暮らす街は、そんな街です。

 種族間の問題はまだ色々とあるみたいだけれど、今日も一応、平和です。


 トモ君、冬弥さん。

 あたしはこの街で、この世界で、あたしの出来る事を探そうと思います。

 でも、あたしの力が必要な時はいつでも呼んでください。

 連れ戻してくれて、ありがとう。



――高校の教室で、いそいそとそんな手紙を書いてみた。


 ホームルームが始まる。



「はい皆さん、今日は転校生を紹介します」



 先生の声と同時に、茶髪セミロングの可愛らしい娘が登場して、教室内がざわめいた。



「皆さん初めまして。小早川アリサです」



 アリサっていうのか……

 しかもちょっと似てるし……


 あたしは胸がギュッと締め付けられた。

 忘れようったって、忘れらんないよ。


 その子は、後ろの方のあたしの隣の席に来た。



「宜しくねっ!」


「うん。宜しくね」



 何だか楽しそう……新しい学校生活だものね。

 そりゃ楽しみでしょうね。


 小早川さんは何やら笑いを堪えている様だ。



「どうしたの?」


「ううん、別に。

……楽しくなりそう。

 ″ちゃやか、″これからも、宜しくね!」


「うん。宜しくね……え」




――追伸。

 お二人さん。

 三千世界は謎だらけです。

 早くこの謎を解き明かし、全て知りたいと思います――


 あたしは手紙にそう書き足した。

 


 ペンダントはその手紙を、その白く優しい光で、包み込んだ。




――第四章.終――


最後に一つ謎を残して、第四章の終了です。

次章も宜しくお願い致します。

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