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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第4章 女子高生と神隠しの社
39/44

Bカップの激昂

――逆の手順を踏んで泡沫の世界に戻ると、トモ君と冬弥さんは、何やら巨大な虎みたいな化け物と戦っていた。



「ただいまぁ」


「おお! さやか、戻ったか!」


「お姉ちゃん達は、危ないから離れてて!」



 二人は、蛇の尻尾と蝙蝠の羽が付いた虎の様な化け物の、前足による攻撃を避けながら出迎えてくれた。



 あたしは、(やしろ)の入り口付近に置いておいた学生鞄から、白銀のペンダントを取り出した。



「畜生め! こいつ、知能は低いがケラウノス(こいつ)よりもクラスが上だ! 全然斬れねえ!」


『ぐぬぅ、受けるだけで手一杯だ。

 せめて動きさえ止められれば…… 何とかならぬか……』



 冬弥さんは、虎もどきの攻撃を受け止め、トモ君の矢が背中に刺さりはすれど、全然動きが弱まらない。



「凄い、冬弥さんの剣って喋るってマジなんだね。ちょっと感動。

 ねえ、アリサ。

 あたしもトモ君みたいに、何かここから出て来ないの?」


「んー、多分何か入ってる筈だけど、取り敢えず、()でよって念じてみたらどうかな」


「適当だねぇ。解ったわ」



 虎もどきが、こっちの様子を伺い始めた。



「お姉ちゃん達、何冷静に話してんだよ!

 早く逃げろって!」


「んー、その必要はないかな」


「へ?」



 アリサの言う通りだ。

 あたしは、ペンダントに向かって台詞を吐いた。



「出でよ!」


「げ! あーるぇ……嘘だろ、マジかよ、あれは冬爺の……」



 冬弥さんが何か呟いたが、気にしない。


 目の前の虎もどきに対して振りかざした、一振りの真っ白な木刀。



 虎もどきは、蛇の頭な尻尾をフリフリしながら、少しきょとんとした後、雄叫びを上げてあたしを目掛け突進してきた。



「さやかお姉ちゃん!」


「きぇぇぇぇぇい!」


「え……」



――勝負は、呆気なく幕を下ろした。



 虎もどきの鋭い前足を左上方から打ち払うと、前足は明後日の方向へクルクルと転がり、虎もどきは唖然とした表情をした。


 続け様に鋭く踏み込みながら、虎もどきの懐へ飛び込み、胴を真っ二つに切り裂いてやった。


 小手打ちで面を誘ってからの払い胴。

 中学時代に何度も練習した動きだった。



『なんと……あの木刀は……』


「とある世界の、″マナの大木(御神木)″から精製した木刀だよ。

 俺の分身(サブ)が持ってたやつ。

 確かに、そいつなら別格だ」



 冬弥さんはため息混じりにそう言った。


 トモ君は、口を開けたままポカンとしていた。



「あの、いや、その、今の動き……何ですか」


「ん? 何?」


「ちゃやか、すごーい!」



 アリサに抱きつかれて、あたしは、やっと心が落ち着いたのを感じ、少しだけ、怒りが鎮まった気がした。


「覚醒したのか」



 冬弥さんの言葉に、あたしは首を横に振った。



「よくわかんない。

 解んないけど、一つだけ解った事がある」


「何だ」



 心が、感じたままの言葉を言った。



「――きっと……

 あたしが、アルファを殺せる」


「……そうか。

 じゃあ、行こうか」



 冬弥さんは納得した様に頷き、口角を上げると、腹を抑えて倒れている虎もどきに目をやった。


 化け物の死体は粉になって風に飛ばされ、残ったのは白く光る宝石の様な小さな玉だった。



「あれはこのペンダントの真ん中に付いてる石と同じ様な物で……それはお前の物だ」


「あたしの……」



 近付いて拾い上げると、石は輝きを増した。



「お前が倒したのは妖魔ではなく、この山の地霊神だ。

 だから決しておれたちが弱かった訳じゃないが……ま、いっか」


「どんだけ負けず嫌いなんですか」



 トモ君が笑い、みんなが笑った。



「で、そいつはさっき、妖魔に憑依されて気が狂っちまった様で、突然現れた。

 アリサが、お前の過去世の記憶をその石に封じ込めて、地霊神に託していたんだ。

 そいつが、それだ」



 玉は光に包まれ、あたしの胸のペンダントに、すうっと入って行き、ほんのりと暖かい何かが、胸をかすめた。



「いずれ少しずつ、思い出します。

 何せ情報量が半端じゃありませんから、焦らずゆっくり思い出しましょう。

 これであの社の扉から、表の世界へ行けます。

 アリサお姉ちゃんとは、ここで、お別れです……」


「アリサ。最期までありがとうな」


「冬弥さん……トモ君……」



 アリサは、微笑んでいた。

 やりきった顔だった。



「ちゃやか。

 アルファの事、絶対ぶっ倒してね!

 約束だよ!?」


「当ったり前じゃん。

 何なら神聖魔法を何度も掛けて、何度でも殺してやんよ」


「ちゃ、ちゃやか……目が笑ってないよぉ」



 冬弥さんとトモ君は、引きつった顔でお互いを見つめ合った。



「な、何を見てきたのかは、聞かない事にしようか」


「え、ええ、そうですね、それがいい」



 あたしはアリサと握手を交わし、社の扉へ向かった。



「ん? 誰だ?」



 突然、冬弥さんが足を止めた。

 自分のペンダントを、まるで携帯電話の様にこめかみに付けると、そのまま動きを止めた。



「何してるの?」


「念話ですね。マナを使って誰かとテレパシーで会話出来るんです」


「へぇ。便利だね」



 すると冬弥さんは、ビックリした顔で、アリサを見た。

 アリサはポカンとしている。

 

 冬弥さんは今度は難しそうないつもの顔に戻り、続けてニヘッと笑うと、またキリッとした顔をした。


 何だこいつ。顔芸か。


――ペンダントを胸にしまった冬弥さん。



「誰から連絡で?」


「さあ、行こうか!」



 幾分元気になった様に見える冬弥さんは、あたしとトモ君の肩を抱きながら、扉を蹴り開けた。



「――ちょ、ちょっと、触んないで!」


「誰からの連絡なんです? ちょっと冬弥さん! 聞いてますか?」


「みんな、頑張ってねぇ!」


「おう! よーし、行くぞてめえら!

アリサ! またな!」



 ″またな″って……



 冬弥さんに強引に押し込まれたあたし達は、扉の向こうへ、そして、光に包まれた――



――気が付くと、ベッドの中にいた。


 白い天井。

 起き上がって回りを見渡すと、カード式のテレビの横に置かれた花束や果物が。


 リノリウムの床の上にある、白いシーツに包まれたパイプベッドの上にあたしは居た。


 腕には点滴が刺され、水色の患者服……


 ここは、病院?



 ん? ……何か……感覚がおかしい……

 体が軽いというか、肩が楽というか……


 あん……ごわごわした患者服が、敏感な二つの部分に擦れて、くすぐったくて、ちょっと硬くなっちゃ……ってぇ? ……こ、これは!


 胸元の襟をガバッと広げると、そこにはピンク色で、綺麗で形の良い小ぶりな……小ぶりな……



「うそだぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 待ってくれ……どこ行った……あたしのDカップ……


 あたしの叫び声を聞き付けた看護婦さんが部屋に入って来ると、こっちを見るなり悲鳴を上げながら、先生を連呼して走って出ていった。

 いや、もうそんな事どうでもいい。


 Cか……いや、微妙な、Bなのか……

 胸を揉みながら、テレビ台のテーブルに、手鏡があったのでそいつで顔を覗いてみた。


 自覚していた顔よりも、幼い顔。

 一体、どうなってるんだ……ここは……

 冬弥さんや、トモ君は一体何処へ……



――この後、病室は大変な慌ただしさを迎えることになった。


 次々と来る白衣姿の大人達に、訳のわからない質問をされ、何故かあたしは心神喪失状態と診断された。


 答えられる訳がなかった。

 何を言ってもそれは夢だと言われるのだから。

 

 まあ、違う病棟に移されるのも嫌なので、余計なことは言わないようにしていたけど。

 

 次に両親が現れて、号泣された。


 体育館裏で生徒達に襲われた事は事実だった様だけれど、あたしの高校生の記憶は、夢だということだった。


 日が落ちる頃にやっと把握できた事は、現在は中学生時代の十四才で、あの事件から、半月程の時が経っているという事だった。



 おかしい……あたしの……あたしのDカップ時代は一体、何処へ行ってしまったのだろう……十七才までの記憶があるのに此処からのスタートって、全然、納得いかないんですけど。


 ああ、そうか、あの三年間はアリサが作った″泡沫の世界″での出来事だから、此処からのスタートなのか……


 様々な思考が交錯する中で、あたしの頭の中は、今はそれが最優先事項だった。



 色々と悔しいけど……

 さよなら、あたしの、Dカップ……  

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