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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第4章 女子高生と神隠しの社
34/44

傀儡師の疑問

 とうやさんの所へ……


 トモ君の突然思い立った様な提案に、アリサが珍しく険しい顔をして拒否した。



「ダメよ。昨日バレちゃったから、あの辺はもう、妖魔達に固められてると思うし、冬弥さんも、もう居ないと思う」


「解んないじゃん。だって、あの冬弥さんだよ?」



 ″あの″って、何だろう……そんな凄い人なのかな。



「言いたいことは解るよ、トモ君……

 でも、言っちゃ悪いけどあの人、一族の中でもトップクラスに謎じゃん」


「それって……どういう事ですか?」



 トモ君は、眉間にシワを寄せた。

 不愉快を隠そうともせず、トモ君はアリサを睨み付けた。

 言葉は丁寧だけど、その抑揚は明らかに怒りを抑えている口調に思えた。


 多分その、とうやさんを尊敬しているのか、それとも、薔薇となんとか……いやいや、ふざけてる場合じゃないな。



「何であの人……一族の誰からも情報が入ってこないのかなぁ。

 知ってる? リンさんだって、いつも他の人の分身は場所を特定して救いに行くクセにさぁ、彼の分身は当てずっぽうな感じで探すんだよ。

 これって不思議じゃない?」


「それは……」 



 トモ君は、黙り込んでしまった。

 とうやさんていう人は、アリサには信用されてないのかな。



「この百年間あたしなりに冬弥さんを見てきたけど、いっつも神出鬼没で、何だかこの世界に自由に出入りしているようにも見えるし、それでいて″何故か″妖魔に見付からないし、時にはあたし達でさえ簡単に見付けられない事があるって事よ。

 サポートはしてくれても、結局は個人の問題だと言って積極的に覚醒に手を貸してはくれない。

 だからあたし、あの人が同族には思えない。

 悪いけど、あたしは冬弥さんを探すのは反対」



 何人もの蒼炎の一族が、何度も試行錯誤を繰り返してこの世界に入る事に挑戦している傍らで、冬弥って人だけがそれを手助けもしないくせに妖魔にも見付からず、勝手に自由に出入りしているなんて許せない。

 アリサの言葉を要約するとこんな意味に取れた。 


 トモ君は険しい表情のまま、ドリンクを口にして、一呼吸してから訊ねた。



「ふぅ……アリサお姉ちゃんは、あの人が、スパイだって言いたいんですか?

 もしそうならば、そんな分かりやすい事、しますかね」



 確かに。逆にそんな目立つ行動は取る筈がない。

 私はスパイですなんて公表する人間がいるなら、それは既にそいつが、その立場を降りている時だろう。



「――そんな風には、思いたくはないけど……ただ少なくとも、動き回って危険なのはこっちだよ」



 インターホンが再び鳴り、退出時間となった。



「とにかく出よう。いずれ此所もバレちまう」


「そうね。場所を変えましょ」――



――入り口付近にごった返している、大勢の″無言の客″の対応に追われていた店員を大声で呼びつけ、レジで会計を済ませたアリサは、その店員に耳打ちをして、何枚か渡した。


 あたし達を見るにつけ突然喚きだした客達を尻目に、店員はあたし達を裏口へと案内し、そこから出ることになった。



「怖いぉ……でもなんか、映画みたい」



 いつもならアリサの台詞なんだろうけど、今回はあたしが今の空気に耐えられずに口走ってしまった。

 本気で怖い事に嘘はない。冗談の一つでも言っていないと、どうにかなりそう。



「――さっきの見たでしょ。憑依(つきまとい)だらけよ。入り口に張ってた罠にめっちゃ入ってた。さしずめゾンビ映画よね」


「やっぱり、あれ全部、妖魔なのか…… あれ? アリサ、罠なんていつ張ってたの?」


「店に入った時に、特殊なペンで壁に呪文を書き込んだのぉ。ブラックライトで照らせば解るよ」


「凄い……」


「足止めにしかならないわ。いずれ周囲のマナを一定量消費したら、自然回復するまで罠は発動しない」


「そうだね。物理世界(ここ)はマナが弱くて、精霊もいるんだかいないんだか。

 神様なんて数える位しかいないから、神聖魔法も召喚魔法も使えないからね」


「ほえ? なら、モスドナルドで出したあのチートな弓は何なのよ。無駄無しだか玉無しだかさけんでたやつ」



 アリサのツッコミに苦笑したトモ君。



「玉無しって……あれは″神具(しんぐ)″を一時的に別次元から借りただけ。あれが限界です。

 本音を言えば、あれの持ち主のトリスタンっていう神ごと召喚して、街中に破魔矢をすっ飛ばしたかったよ」


「ひぇー。見たーい! キャハー!

 トモ君、意外に危険人物ね」


「ねえ君達、そんな危険をおかしてまでカラオケ行きたかったの?」



 トモ君は眼を輝かせて答えた。



「うん! 一年もこの街を放浪してさ、結構入れない場所があったの。

 デパートとか、地下鉄とか。

 何でだろう何でだろうって思ってたけど、アリサお姉ちゃんの結界のせいだったんだね。

 今更気が付いたよ。くっそう」



その言葉にアリサは反省するどころか大爆笑。



「トモ君ごめーん。今度デパ地下デートしよっ」


「へっ、もう一人で行けるもんね」


「何それぇ! あたしじゃダメなのぉ? 人生は楽しまなきゃダメよって、リンさんだって言ってるじゃんよぉ」


「はあ……」



 トモ君にだって選ぶ権利があるのよ、アリサ。



――あたし達は裏通りからメインストリートの交差点に出た。



「タクシー拾うね」



 程なくしてアリサの目の前にタクシーが停まると、アリサは助手席に乗り込むやいなや、運転手さんの額目掛けて、ビシッと何かを張り付けた。


 こんな真似されたら、相手が知り合いでもキレるわ。



「とりあえず適当に走らせなさい」


「はい……」



 ぼんやりと口を開けたまま、無表情な運転手さんは車を走らせた。

 


「え、な、何したの? アリサ……」


「呪文を書いた絆創膏を張りましたぁ」


「すげえ、アリサお姉ちゃんて、″傀儡師(パペッター)″なんだね」


「まあ嬉しい。そう言ってくれたのはトモ君だけよぉ。

 リンさんなんか眼を合わせただけでこれと同じ事出来るのにさぁ、冬弥さんはあたしの事、″魔女″って呼ぶんだよぉ。魔女(ウィッチ)はリンさんだよぉ、酷いよぉ」



 魔女……うん、いや、あんたも十分魔女だよアリサ……



――走り続けてる内はマナも途切れないからと、後は行き先だけ決める事になった。



「ちょっと通りすぎるだけでも行かない?」


「もしバレたら、カーチェイスになるけどいい?」


「う……それは……」


「きっと家もダメ。下手したら家族が憑依されてしまう」


「うん……」



 二人のやり取りで、もう、安全な場所なんて、何処にもないんだという事だけは理解出来た。

 もう、家族にも会えないの? あたし……


 

 何処にも……何処にも?

 トモ君は、狭間に取り残された時、行けない場所があったと言った。


 あれだけ強いトモ君さえ、行けない場所が。



「――ねえ、アリサ」


「……え? なぁに?」



 助手席で窓の外を眺めていたアリサは、精一杯の元気で返事を返しているように思えた。



「あの、妖魔ってのはさ、悪い奴?」


「はあ? 悪いに決まってんじゃん」




 何を言ってるのと言わんばかりの顔をするアリサ。

 だって、それは人間の側から見た意見なんじゃないのかなって、思うんだもん。

 とうやさんの言う、覚醒は個人の問題ってのは凄く共感出来るけど。



「――ならさぁ、悪い奴が行けない場所ってないの? 例えば、教会とか、お寺とか。漫画の見すぎかな、あはは」



 あたしの質問、おかしいかな。


 トモ君が、見つめている。やだ、ちょっと恥ずかしい……



「……それだ。それだよお姉ちゃん!」


「え」


「ダメよぉ、宗教施設なんか。

 ほとんどの宗教に言えるんだけど、宗教なんていつの間にか訳の解らない物まで一緒に拝まされているものよ。

 その中に魔神が紛れ込んでる事も知らずにね。この辺りは奴等が人間を騙して祈らせる為に作らせた施設ばっかだし……あ」



 否定したアリサが、あたしの顔を見ながら固まった。



「ああ! なんて事……あたしって馬鹿過ぎる……神様ぁ、ちゃやかに感謝致しますぅ!」



 アリサは両手を合わせて天を見上げた。

 突然元気になりやがって、何なんだ。



「神社よ! そーよ、すっかり忘れてたわ」


「神社?」



 アリサはスマホを起動させた。

 何やら検索をしているようだ。



「うん。神の歴史は古いからね。アルファの支配よりも前に居る神様がこの世界に祀られているかも」


「そんな神様が」


「あった」


「「はやっ!」」



 後部座席で二人してずっこけた。



「しかも此処は、リンさんが最後に目撃情報があった場所だよ」


「何だって!」



 リンさんが、姿を消した場所?


「ごめん忘れてた」


「何でそんな大事な事忘れてたの?」


「ごめんねぇ。違うの。ループ前の情報だから当てにしてなかったんだ。

 ア◯さん情報よ。って言っても、覚えてないか」


「「ア◯さん?」」



 トモ君と台詞がかぶった。誰だよア◯さんて。また愉快な仲間達か?



 アリサは、スマホの地図アプリを開いた。

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