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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第4章 女子高生と神隠しの社
32/44

覚醒者達へ

 突然現れたおかしな少年、トモ君は頭を抱えていた。

 悪いけど、泣きたいのはこっちなんだけど。



「それ誰から貰ったの?」


「覚えてない」



 トモ君は、あたし達のテーブルに割り込んで、腕組みして固まった。



「覚えてない、か……成る程……見えてきたぞ」


「何がよ」



 何が成る程よ。こっちは全然見えないっつーの!



「見えたって、あたしのおっぱい?」



 アリサは相変わらず楽しそう。



「あ、それはごちそうさまでした。

 取り敢えず、ここを出よう……って、ああもう、面倒だな」


「面倒って……うわ、何?」 



 気が付いた時には、二階席の全ての客が立ち上がって、こっちを睨んでいた。


 うちの学校の生徒や、サラリーマンのおじさん、店員さんまでもが、恐ろしげな表情であたし達を睨んでいる。


 騒ぎ過ぎたから、目立っちゃった、なんていう理由ではないよね……



「グゥゥゥ」


「ガァァ、グガァ!」



「なになに、何なのぉ? フラッシュモブでも始まるん? なわけないか……」



 アリサはとぼけた事を言いながらも、あたしの背中に隠れた。

 解るよ。

 これ、冗談を言える雰囲気じゃないもの。


 ひっどい異臭がしてきた。硫黄? 卵の腐った臭いに近い……



「こいつらは憑依(つきまとい)っていうんだ。皆、妖魔に取り憑かれるとああなる」



 この豹変振りは、見覚えがある。

 あるのに、どこで見たのか解らない。

 気持ち悪い……



「妖魔って?」


「後で説明するよ。じっとしてて」



 トモ君は、胸元から白く光る物を取り出した。

 あたしの鞄の中に入ってる、アリサの胸元にもある物と全く同じ物だった。



「我、蒼炎之大神之末裔なり、天空にあまねく神々よ」



 トモ君は何やら呪文のような言葉を唱え始めた。


 そうえんのおおかみのまつえいなり……

 そうえんの、おおかみ?



「我、偉大なる騎士(トリスタン)の盟友なり。依って蒼之一族、(とも)の名に於いて命ずる!

 ()でよ! フェイルノート(無駄無しの弓)!」



 トモ君の胸元から強烈な光と共に現れた、光る大きな……弓?


 あたし達の周りを囲んでいる人達は、じりじりと後退りをした。



 これは、夢だ……



「今すぐ″からおけ″に行きたい故、一瞬で終わらせたもう……とうっ!」



 全然締まらない台詞を吐きながら、テーブルを土台にして飛び上がったトモ君は、天井に頭がぶつかるんじゃないかと思うほどの跳躍を見せた。



 「――喰らえ! 刹那五月雨撃(せつなさみだれうち)ぃっっ!」



 身体を回転させながら、白く輝く矢を数本、まとめて弦に引っ掻けると、一気にそいつを弾き出した。


 一々叫ばないといけないのかは解らないけど、光る矢はまるで生きているかの様に勝手に軌道修正をしながら、周りの全ての客の体に、全弾命中したのだ。

 倒れた人達は、再び起き上がると、呆気に取られた顔をしていた。何が起きたのか、解っていない様子だった。


 彼の予告通り、事態は呆気なく幕を下ろした。


 有り得ない……人間技じゃないよ、こんなの。でも……。


 足を着いたテーブルが壊れて着地に失敗したトモ君は派手にスッ転び、飛び付いてきたアリサに抱きつかれながら頭を抑えて照れ笑いしていた。


 彼のその笑顔は、人間そのものだった。――



――「愛してるのぉぉぉぉ、側に居てぇぇ」



 カラオケボックスで夢中でチキンを貪り喰ってるトモ君。お腹空いてたのね。

 

 自分の世界に入っちゃってるアリサの音痴は並外れた才能だとも思っていたけど、それを普通に誉めちぎって彼女を悦に入らせるトモ君もまた、才能だと思った。



「いよぉ! 最高! アリサ最高! からおけ最高!」


「ありがとぉ~!トモ君も最高!」


「あのぉ、ちょっと良いですか」



 ボックスに入って既に一時間が経とうとしていた。



「何ですか」


「何よぉちゃやか。ちゃやかもほら、歌いなよ! あたしばっかじゃ飽きちゃうでしょ」


「違うでしょ! 何なのよもう! 二人して!」



 隣の部屋の歌声が聞こえてくる。



「だってぇ、トモ君、一年も一人で寂しかったんだよぉ? 一時間位良いじゃない、羽目外したってさぁ」


「そんなの、知らないわよ! あんたは不思議に思わないの?」



 静まりかえる室内に、トモ君の焼きそばを啜る音だけが響いた。



「いつまで食ってんだおらぁ!」


「ゲフッ!? ごめんなさいごめんなさい!」



 トモ君は謝りながら、ジュースを飲み始めた。

 こいつ……



「っぷはぁ! あー、生き返ったぁ。ご馳走さまでした。お姉ちゃん達ありがとう」



 丁寧なお辞儀をするトモ君、テーブルに額をぶつけて照れ笑い。

 なんだろう、怒りをやり過ごされた気分になった。

 くそっ、可愛いなぁ。


 アリサはもうデレッデレで話にならない。

 よし、ここからはあたしのターンだ!



「さて、落ち着いたところで。

 君は何者?

 さっきのは何?

 妖魔って何なのよ。

 そしてあの弓。あんな事、普通の人間は出来ない。

 このペンダントは何?何で」


「ストッ~プ! ちゃやか、トモ君が困ってる。一つずつ、ゆっくりいこ?」



 あ……


 息継ぎも忘れる位に、疑問だらけな自分に、気が付いたときには、涙が止まらなくなってた。


 アリサに不意に抱き締められて、あたしは号泣してしまった。



「お姉ちゃん泣かないで。まだあなたが覚醒してない事は解った。一つずつ説明するから」


「うん……うん……」


「それと、アリサお姉ちゃん」


「ん?」


「あんたが何で、何も知らない″フリ″をしてるのか知らないけど、もういいんじゃない?

 あんたは覚醒者、いや、″守護者(ガーディアン)″だ。

 違うか?」


 

 え……



 アリサはふっと息を漏らし、ソファーに座り直した。


「……えへっ。バレちゃったかぁ」


「何、アリサ、ガーディアンって何よ」



 あたしはアリサから距離を取った。



「ちょちょっと、怖がらないでよぉ。

 解った。話すから、座って? もぉ、トモ君が余計な事言うからっ!」


「ごめんなさい。怖がらなくていいよ、さやかお姉ちゃん。

 この人は、あなたを、あなたに出会ってからずっと、この世界の妖魔共から護ってきた″覚醒者″なんだから」


「妖魔、から……」


「やめてよぉトモ君、照れるじゃんかぁ」


「さやかお姉ちゃん、俺のペンダント持って、眼を閉じて。

 答えが聞こえてくる筈だから」



 あたしは、素直にそれに従った。――



――太古の昔、この世界は一つだった。

 神々の大いなる力の(みなもと)は、人々の信仰心を糧とし様々な奇跡を起こし、そして人々は、その力により繁栄してきたのだ。

 

 世界は人々にとって、また神々にとって、栄華を極めたかのように思われた。

 だがしかし、栄えるものはいつかは衰え行くものである。

 身の程を忘れた神々は傲り昂り、その影響を受けた人々もまた……次の世代、そのまた次の世代も、と、愚かなる繁栄を願い始めたのだ。

 

 人類ばかりが世界を統治できる道理などないのに。

 その願いは最早、願いとしての力ではなく、欲望という力に変わり果てた。

 

 そして神々は急速にその力を無くしていったのである。


 やがて、神々の生き残りを掛けた戦いが幕を開けた。


 神々の中には自らの神格を落とし、人々の欲望を力とする、後に″魔族″と呼ばれる事になる者達が現れ、人の世に大混乱を巻き起こした。


 またある神々は″勝手な世界″を増やし始め、そして、人々の中から選別した″一部の者達″にその世界の支配を任せ始めた。


 世界は混沌とし、それが当たり前であるかの様な時代が永きに渡り今も続いている。


 最早、人々の中に、この体制(システム)に気付く者などいない。


 この世界は神にとってまさに、″牧場″だ。

 人類はただの、精神の奴隷と化したのだ。

 いや、″家畜″と呼んだ方が適当かもしれない。

 

 しかし、神々は最期の奇跡を目の当たりにする事になる。


 ごく少数ではあったが、この体制に異を唱える神々が現れたのだ。


 その指導者()は言った。


 むしろ神々こそ反省せねばならない。

 神も人も、どちらが上という話ではないのだと。

 

 彼は世界中に叫び続け、やがて一大勢力を築き上げた。


 その神々の先陣を切って戦ったのは、後に″蒼炎之狼(そうえんのおおかみ)″と呼ばれる事になる大神だった。



 蒼炎の一族は多勢に無勢、劣勢を極めた。


 魔族となった最初の神、原初(アルファ)

 蒼炎之狼は、そのアルファなる者から愛する者を奪われたのである。


 そして最期の時がきた。


 操られる人々に捕らわれ、八つ裂きにされた蒼炎之狼は、残る力を振り絞り、自分を崇める人々に、その怒りの力を世界中に分散させたのだ。



 彼は最期にこう言った。



「目覚めよ」と。


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