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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第1章 記憶喪失のおっさんと稲妻の剣
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覚悟と違和感

 俺は、覚悟を決めた。

 随分と肝が座っているというか、妙に冷めてきた心に、正直、そんな自分に驚いていた。


――案外、俺って凄い奴、だったのかもしれん――。

 きっと、そう。そうに違いない。


 腹は決まった。

 もう、此処にしか手掛かりは無いんだ。

 俺は、少しだけ口角の上がっている自分に気が付いた。


 今の俺と、記憶の戻った俺とは最早、別人なのではなかろうか、なんて思いながら、リアハッチのボタンを押す。


 カシュッ! と軽快な音と共に、ハッチはゆっくりと開いた。


 まあ、正直ちょっと目を瞑っちまったが、意外にも、と言うべきか……予想通り、と言うべきか……


 ナニコレ。


 そこには、ハードタイプのギターケースと、持って歩けそうな程の、小さな金庫が俺を出迎えてくれた。



「あった……けれども……」



 俺の心に、ふとよぎる違和感。


 待て、よぉぉぉく考えろ、俺よ。

 俺は、何をそんなに畏れているんだ?


 箱を開けたら煙が出てきて爺になる話か? それは、昔話だ。


 何なんだ、こんな話は覚えてるのに、何でなんだ、自分の事はすっかり忘れて……


 違う……違うぞ……俺が怖いのは、記憶がない事じゃ無い……なら、思い出す事が怖いのか……どうだ、俺よ……



 返事もない。そうだな。そりゃそうだ。


 でも、思い出さなきゃ、前に進めないだろうが……そうだろ?


 開けてみたらどうだ? 俺よ……もしかしたら中身が何にも入っていない、なんてオチがあるかも知れんぞ……

 そしたら、さっきの車検証の比じゃねえな……絶望だ……


 違う……違う……怖くなんか無い。

 俺は、怖くなんかない。前に進みたいんだ……


 さっきから襲ってくる恐怖感は、これじゃない……


 辺りを再度、見渡した。



 清んだ空気……


 緑一色の畑……綺麗に整備された一本道……



 この野菜、何だ? なんて名前だ?


 見たこともない野菜が辺り一面……


 野菜が、風に揺られて……風?



 風なのか? ……揺られてる、動きなのか? あれが。



 柔らかい風。

 弱々しく髪を揺らす程度の、風。

 どうみても、風に揺られているようには見えない葉っぱが、ちらほらと見掛けられる。


 そして、そのカサカサと揺れる葉の数が、少しずつ、増えている様な気がする。



 おいおいおい……何か……何かいる!?



 迷っている暇は無い。

 何故かは判らない。

 感じる。そう、感じるんだ。


 そう、一言で言うなら……



「ヤバい」



 無意識に、ギターケースを開けていた。

 同時に、背後から得体の知れない鳴き声が聞こえた。



「グギャァァァァ!!」


 ザザシュッ!


 振り返った瞬間、叫び声の主は十字に裂けた。

 緑色とオレンジ色の混じった様な液体が裂けた部分からドロドロと流れ出てきて、そいつはピクピクと痙攣して間もなく、動かなくなった。



 何を……何が起きた……俺は……



 俺の手には、ギラリと輝く図太い長剣が握られていた。


 でけえ、剣……軽い……いや、重みを殆ど感じない……


 どうやら俺は、振り向き様にこいつをぶった斬ってしまったようだ。

 全くの無意識下で出来る芸当とは、とても思えなかった。



──ギターケースには、多種の銃器類やナイフ、手榴弾等が入っていたが、何故か俺は、迷わずコイツを手にしていた。

 手にするまでは、柄しかなかったコイツを握った瞬間、白い光と共に刃が瞬時に現れたのだ──



 何でこんな物が……



「すげえ……てか、えーっ?」



 冷静になろうとすればする程、余計に混乱して思わず叫んでしまった。

 それに呼応するかの様に、畑から次々と何かが現れた。



「グルルル……ギャギャ」


「ギャギャギャギャッ!」



 何、だよ……なんだぁよぉ……これ生き物、なのか? ……野菜が動くわけ……




 緑色の葉の下にオレンジ色の、顔と言うか体と呼べば良いのか判らないが、そいつ等はそれぞれ、形が違った。


 全て、目らしき物は付いておらず、口とおぼしき部分はぱっくりと裂けていて、中にギザギザとした歯のような物がある。


 ニンジンの化け物と言った表現がピッタリだ。

 4本脚で犬のように近付いてくる奴。

 2本脚で直立歩行してくる奴。

 ニンジンらしきものを手に持って振り回して鳴いている奴。


――手と呼ぶのはどうなんだろう、この場合――



「ちっ……ハロウィンパーティの出来損ないかよ……」



 自覚した。

 俺は、剣を握りしめてから何やら頭がおかしい。

 いや、最初からおかしい状況下で言うのも何だが、さっきと比べて落ち着き度が半端ない。


 笑いすら込み上げてくる。


 剣を握り締めると、このまま眠れるんじゃないかと思う程に安らかな気持ちになっていた。



「あ、あれはカボチャだったな」



 4本脚の犬みたいなニンジンが動きを見せた。



「グギャギャギャギャギャ!」



 来る!



 俺は、左足を一歩前に踏み込むと、剣を隠すように右後ろに構え、下方から上方へ一気に跳ね上げた。


 切り上げられた犬ニンジンは青空高く、舞った。



「ギャァァァァ…………」




 この断末魔が、ニンジンお化け達との開戦の狼煙となった。

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