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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第4章 女子高生と神隠しの社
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よろず屋の老人・2

「何で投げるのよ!」


「いやぁ、そいつに呼ばれたのならきっと君は大丈夫だと思ってな」 


「何それ」


「前置きしてから渡しても良かったんだが、そいつが何をするか解らんから考えない事にしとる。

 前にそいつを盗もうとした奴は、急に全身麻痺になって運ばれたよ。

 誰が選ばれし者なのかなんて事ぁ、誰にも解らん」


「結構アバウトだったのね……選ばれし者なんて言葉、漫画みたい」



 これ……信じられない感触。

 心地好い重量感と、触感。

 滑り落としそうな滑らかさに同居する、まるでゴム製かと思うようなグリップ感。


 これは、生きてる。生き物だ。そう感じた。



「すっごく軽い……」


「そいつは人を選ぶんだよ」



 は? 意味わかんない。

 取り敢えず、こいつを振ってみた。



 ピュッ! と空気を裂く気味の良い音が鳴った。



「うわぁ、軽くていい感じ」


「うむ。どうやら気に入られたな、お姉さん」


「だから何それ」



 続けざまに何度か振ってみたけど、何だろう。物凄く心地いい。そして、嬉しい。いや、悲しいのかな……何だろう、この気持ち……

 

 何だか、泣けてくる。涙が出てきた。あれ? おかしいな、あたし……


 初めてお父さんに竹刀を買って貰った時の、あの喜びの様な……

 

 ううん、そうじゃない……それよりも、もっと前に……って、あたし生まれてないじゃん。



「スジが良いのう。剣を嗜んどるんか」


「え、ええまぁ……昔、ちょっとだけ」


「ちゃ、ちゃやか?……なにしてん……」


「ん?」



 振り向くと、三人があたしを見ながら怯えた目をしていた。



「さ、さやかちゃん、それ、振れるの?」


「え? だって、すっごく軽いよ?」


「ホッホッホッ。だから言うたろうに。そいつは人を選ぶんやで」



 急に関西弁になったお爺さんは、私達四人に一つずつ、シルバーのペンダントを手渡しながら言った。



「ずっとこの日を待っとった。とはいえ、この世界ではたった二週間の滞在だが。いや、二週間も無駄にした、か。

 やはり計算通りにはいかんのう。

 だが君達を、私はずぅっと待っとった」



 シルバーで加工された、綺麗な紋様のペンダントだった。中央に白い石。

 何だろう……真珠? いや、何か違う……



「待ってたって、どういう……それよりこれ、何ですか?」


「御守りみたいなもんさ。出会いの証にワシからのプレゼント。こいつを渡す相手を、ワシはずっと探しとった」


「御守り……」



 何を言いたいのか解らないけど……物凄く不安な気持ちが襲ってきた。


 怖い……このお爺さん……一体何者なの?



「何か……いよいよゲームみたいな展開になってきたな」



 そう言ったマー君だけが、ワクワクした目をしていた。



「君達は、あの娘をきっと助け出してくれる。そう信じとる」


「「あの娘?」」



 四人は互いに目を合わせた。急に突拍子もない言葉の連続で、全く意味が解らない。



「あの黒髪の娘、と言えば察しがつくかね」



 黒髪の……まさか!



「リン先輩の事?」



 お爺さんは、嬉しそうに頷いた。


 この人、リン先輩を知ってる。


 いや、彼女が失踪した訳を、知っているんだ!



「うむ。察しの通りだ。

 君達には、本当の事を話そう。

 その前に……具合が悪そうじゃの。眼鏡の君」



 振り返ると、シゲル先輩の様子がおかしい。

 大量の汗をかいて、息切れを始めていた。



「ハァ、ハァ、ハァ、ううう……」


「シゲル、どうしたの? 大丈夫?」



「ふむ……憑依(つきまとい)か。連中も用意周到やのう。どこかでうまい飯でも食ってきたか。

さて、お姉さん。いきなりで悪いが、出番やで」



「は? 出番って?」



 シゲル先輩は、うなり声をあげながら、その辺の売り物をバタバタと振り落とし始めた。



「ちょっと、シゲル?」


「シゲル君! 何してんだよ!」


「グアアア……」



 シゲル先輩の顔は、もはや人間のそれとはかけ離れた表情になっていた。

 

 歯を剥き出しにして、涎を垂らしながら唸る、ケモノ。

 

 そう呼んだ方が適当な気がする。



 アリサも、マー君も、唖然とした表情で後退りをしている。

 


 何なのよ、これ……



 そして、お爺さんは続けて信じられない言葉を吐いた。



「そいつを試す良い機会じゃの。あやつをぶった斬ってみい」



「ええっ? 何言ってん、出来るわけないじゃん!」


「グアアアアアッ!」



 シゲル先輩は、マー君が初めに身に付けて遊んでいた年代物の剣を掴むと、唸り声を上げながら突進してきた。



「キャーッ!」


「やめろっ!」



 アリサの悲鳴と、マー君の叫びは殆ど同時だった。

 あたしとシゲル先輩の間に咄嗟に飛び込んだマー君が、そのセット売りの盾でシゲル先輩の攻撃を防いだ。



 火花が散る程、激しい金属音が鳴り響いた。



「マー君!」


「おお、正しく矛盾! ホッホッホッ」



 お爺さんは笑っている。何なのこの人!



 お爺さんの言葉通り、剣は折れ、盾は半分に割けてしまっていた。


 続けざまにマー君は、拳を振り上げたシゲル先輩の胸元を目掛け、肩で体当たりして突き飛ばし、シゲル先輩は勢いよく転がった。

 


 凄い……これが喧嘩慣れっていうのか解らないけど、流石はヤンキー。マー君は凄く速い反応だった。


 マー君がいなかったら、あたしは……


 そう思ったら、急に体が震えてきた。


 思い出した。

 あの日の、中学生の時の、嫌な思い出。

 あの優しかった梅原先輩が、不良グループの集団リンチに遭って……あたし……ただ、それを……何も出来なくて……



「やめろよシゲル君! 何してんだよ! どうしたんだよ!」


「ううう……」



 上半身を起こし、マー君を睨むシゲル先輩。



「ホッホッホッ。まあ、しゃあねぇか。

 お姉さん、木刀(そいつ)を貸しな。今から使い方を教えちゃる」


「駄目よ!こんなので叩いたらシゲルが死んじゃう!」



 そう言いながら、あたしはあの日の、血まみれになった梅原先輩を、思い出していた。



「叩く? 違うよ、ぶった斬るんだよ。んー、どうしても駄目か」


「バカじゃないの!? 何言ってんのよ! 絶対駄目よ! 暴力じゃ何も解決しない!」


「うむ。君はそう言うと思った……残念だが……」



 そう言いながら、木刀を抱き締めて頑なに拒否しているあたしをすり抜け、マー君をすり抜け、シゲル先輩の前にゆるりと立ちはだかるお爺さん。



「この世界じゃ、どうか知らんが……刀ってのはね、お姉さん。

 脇差しとセットで刀なんですよ」



 わ、脇差し!?



 短めの白い木刀を懐から出したお爺さん。



「そんな、卑怯よ! やめてよ!」


「まあまあ、見てな」



 シゲル先輩は立ち上がり、再び身構えた。



「こいつの面白い特性だが……」




 シゲル先輩が、さっきの折れた剣を再び拾った。


「魔力の染み付いた物でないと当たらんから、基本的に受けが出来ねえのよ。だから……」


「危ない!」



 お爺さんは喋りながら、ゆるりと歩を進めてシゲル先輩の攻撃を紙一重でいなした。

 凄い、あんな至近距離で避けた。



「こうやってな」



 同時に、シゲル先輩のお腹に、木刀が突き刺さっていた。



「キャーッ……え?」



 刺されたシゲル先輩も、不思議な現象に驚いた顔をしている。


 痛くないのだろうか。



「妖魔だけを、斬れるんだ」



 シュッ……



 お腹から頭にかけて、下から上へ、白い木刀はシゲル先輩の体をすり抜けた。

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