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蒼炎之狼~覚醒編~  作者: LIAR
第4章 女子高生と神隠しの社
26/44

謎の少年

 ミーンミンミンミンミン……


 ミーンミンミンミンミン……



 アブラゼミがいつになく、やたら増えたように感じる。



「あっつーい! だるーい! セミうるさーい!」



 半泣きで叫ぶアリサが一番暑苦しくてうるさいのは今に始まったことじゃないけれど、まあ、気持ちはわかる。


 ここのところの異常気象は、本当に異常だ。


 夏休み中の緊急の学校集会という事で、私達は、しばらく見たくもなかった制服姿で、バス停を目指してダラダラと帰路についている途中だった。



「――ねえ、ちゃやか。聞いてんの?」


「何が」


「暑いって言ってんの」


「私にどうしろっていうのよ」



 私の事をさやか、ではなく、ちゃやかとあだ名で呼ぶのはこの子を混ぜても極少数。


 そんな気心の知れた友達は、きっと何か冷たいものが欲しいのだろう。



「あーもー死ぬー」


「そんな簡単に死ぬなんて言葉使ったらダメよ。

 気晴らしにモスドナルドでも寄ってく?」


「いぇーい! そうこなくちゃ!」



 お喋り大好きなアリサは私を追い抜いて行った。



「どっから来るのよその元気は……」



 人通りの少ない田んぼ道を抜け、帰りとは反対車線のバス停に移動して、私達は繁華街へと向かった――




「――しっかしアレよね。世の中どうなっちゃってるの? って感じ」


「ほんとね」



 アリサはハンバーガーを頬張りながら世界の心配をした。


 よその国では毎年何千、何万人の子供たちが飢えで死んでいるってのに、私達は幸福者だ。

 適度に効いたクーラー。

 有線から流れる流行りの音楽。

 冷たいジュースに熱々のポテト&シャキシャキのレタスバーガーときたもんだ。



 担任の真島先生が、全校集会の後のホームルームで言っていた言葉が頭を過った。



「除外の理、かぁ」


「え? 何」


「ううん、何でもない」




――人は自分の事に関しては呆れる程に楽観的だ。

 例え隣町で空き巣の被害が起きたって、自分の町にその空き巣が来る事はないし、まさか自分の家にそいつが来る事なんてない。

 そう考えたがる。

 まさに根拠のない自信。

 交通事故を起こした人は、まさか自分が事故るなんて、と口を揃えて言うらしい。


 所詮は他人事。

 とは言え、物事なんて自分の身に何か降りかかるまでは、誰も真剣に考えたり悩んだりしないものよね。


 今日は三年生のリン先輩が行方不明になって一週間が経って、異例の全校集会だったのに――


 私達ときたらハンバーガーだもの。



「――リン先輩、どこ行っちゃったんだろうね」


 あたしは何気なく呟いた。なんて返してくるか、予想はついてる。



「ねぇ。おかげであたしら、とばっちりじゃない。いい迷惑よほんとに」


 ほらね。とばっちりとか、上手いこと言うわね。

 アリサだって他人事なのよ。

 私もだけれど。


 私は先輩とは面識無いんだけど、アリサは中学からの先輩らしく、ちょっと知ってる。



「――噂だけどさ。先輩、何か怪しい店とか出入りしてたらしいよ。

 ヤクザとかに拉致られてたしりてね」


 アリサはそう言って笑いながら、ジュースを口にした。


「笑い事じゃないでしょ」


「ごめーん。だってさぁ、こんな暑いのに学校来なきゃならないんだよ? 嫌味の一つくらい言わせてよぉ」


「まあね。そこは同感」



――リン先輩は、名前を知らずともうちの生徒なら必ず知っている程の有名人。

 見た者の脳裏に、強烈に焼き付くほどの美貌と、長い黒髪の持ち主。

 学校で何回か見掛けたくらいだけど、私は彼女の表情を1つしか知らない。

 ある種独特なオーラを放っているような、近寄りがたさを持った人だった――



 私達はしばらくとりとめのない会話を楽しみながら、私はアリサのマシンガントークのせいで、いつの間にかリン先輩の事は頭の隅に追いやってしまっていた。



「でさぁ、ユウコと売店いったわけ。そしたらさ――」


「ねえ、ちゃやか、ちょっと……」



 話の腰を折られて不愉快になりながらも、私は怪訝な表情なアリサの視線の先が気になった。



「あそこの男子、うちの生徒だよね。見たことないけど」


「同じ制服だね。一年生じゃない?」


「さっきからずっとこっち見てんだけど。何なのキモい」


「えー、気のせいじゃん?」



 遠くの窓際の席で一人、こっちを見ている男子がいた。

 ちょっと地味な感じの、至って普通の男子高校生。

 変わってるところと言えば、ハンバーガーもポテトも……飲み物すらテーブルに置いていない事。



「なーんか、チラチラ視線合うんだよね。もしかしてあたしに気があるのかな。キャー、なんて罪深い女なんでしょうあたし」



 この子はなんてポジティブなんでしょう。



「どれどれ、私が品定めしてあげよう」


「あんたじゃイチコロじゃんか、あんなの」


「フフフ……」



 その男子に向かって、私は上目遣いでじっと視線を飛ばした。

 たいていの男子は狼狽するか、何らかのアクションを起こすに違いない。


――自分で言うのもなんだけと、私は結構可愛い方だと自覚している。

 男馴れって言ったら言い過ぎだけれど、まあ一応、一通りは色々と経験してきたつもりだし、声でも掛けてきてくれるならそれなりに応対してあげる――つもりだった。



――この軽率な行動が、一生涯忘れられない出来事の、始まりだったなんて……その時は、微塵も思ってなかったんだ――




 程なくして彼と目が合った。




 椅子を反対に座って、大股開きでスカートから太股がよく見えるようにして、背もたれに両腕を乗せながら、私は小悪魔な笑顔を彼に送った。


 いつもの遊び。


「お前はシャロ◯・ストーンか! キャハハッ」



 アリサの笑い声を背中に受けながら、私はじっと彼に視線を送ってみせた。


さあ、どうくるかしら。



 彼は視線を外さない。じっと私を見ている。真顔だった――



 何こいつ……



 彼はずっと視線を逸らす事なく、じっと私を見ている。


 綺麗で艶のある黒髪が目にかかる長さで、彼は整った顔立ちをしていた。

 何だか悲しげな、憂いを持ったその瞳が、すうっと私の心の中まで見透かされているような気持ちにさせられ、少し恥ずかしくなってきた。



「ちゃやかぁ、いつまでそうしてんのよあんた」



 へ?



「あ、あの、二年の人達ですよね。良かったらこれから、俺達とカラオケなんか一緒にどうすか」


「ちゃやかの勝ちー! なにぃ、カラオケ奢ってくれんのぉ? キャハー」



 え?  アリサ、あの角にいた男子達の事言ってたの?



 窓際の、あの子じゃないの?



 いつの間にか彼の視線を外せなくなっている自分に気が付いた。


 それだけじゃなかった。



 アリサの方に振り返ろうとしたが、動けない。



 声も、出ない……指一本、動かせない事に私は動揺した。



『……ナンデ……オレガ……ミエルンダ……』



 頭の中に直接響いてくる声。



 や……やだ、何なのあいつ……怖い……



「ちゃぁやかっ! どーする?」



 後ろから頬っぺたをギューッと両方押され、無理矢理振り向かされた私は、タコみたいな顔になった。


 その瞬間、体の緊張が解けて動けるようになった。



「あんた、見つめといて無視はないんじゃない? カラオケだって。どーする?」



 振り返って窓際の()席を見ると、そこにはもう誰も居なかった。


 念のため周囲も見渡したけど、彼の姿は無い。



「ね、ねえ、アリサ、あそこにいた子じゃなかったの?」


「はぁ?  この子達しかいないじゃん。なにそれ、何かヤバイ物でも見てたん? キャハ」



 ヤバイなんてもんじゃないわよ……



「ごめん、ちょっと、私帰るわ。具合悪い」


「えーっ!?」



 男子達にアリサを任せて、私はバス亭に向かった。



 何だったの、さっきのアレは。




 人間、じゃない。きっとアレは、別の何かだ。




 あれが幽霊? 私にしか見えて無かった……

 鳥肌が治まらない。



「さっきはごめん。俺も驚い――」


「キャアアーッ!」



 いきなり横から声を掛けられて、私は跳び跳ねてしまっていた。



 さっきの、彼だった。



「ごめん、俺が見える人がいなくて困ってて。ちょっと話――」


「ごめんなさいごめんなさい見えません何も見てませんすいませんごめんなさい!」



「いや、驚かせる気は無かっ、あ、待っ――」




 恐怖でパニックを起こした私は、ダッシュでバス亭を後にしていた。



――息が切れてもう走れない程の状態になった私は、汗でびしょびしょに濡れた制服のまま、トボトボと家路についた。


 親にはこんな時間になるまでどこに行っていたのか、何で制服を汗まみれにしたのか問い詰められたけど、説明のつかない出来事をどうやって説明したらいいのか解らなかった。


 彼は、一体、何者だったのだろうか――


 幽霊にしては、何だか低姿勢なような気がするけど……

 見たことないから解らないけど、あんなにハッキリ見えるもんなのかな……

 

 夕食も程々に、お風呂を済ませた私は、ベットに入るなり深い眠りについた。



 今日は、もう、何も考えたく無かった。


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